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防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
幕間 モブ子の楽しい夏休み
36/77

隣国の王子2 殲滅

 会議が解散して、二人きりになって、やっとニケに話を聞くことが出来た。


 「ヘルルン、どういうことなんだい? 攻撃仕掛けるって、君に攻撃は期待できないんだろう?」

 「ははは、やだなあ、ロッキュン、誰からそんな話聞いたの? 確かに私は攻撃魔法は使えないけどさ」

 「使えないんじゃないか」


 呆れて言ってから、思いついた。


 「もしかして、魔法じゃなくて、矢や銃とかで攻撃するのかい? 雪崩を意図的に起こさせたり、魔法具を作って使ったりするのかい?」

 「矢も銃も最低限の練習しかしてないから、止まってる的に当たるかどうかってぐらいだねー。魔法具なんて作らないし、この季節で雪崩はないでしょ」


 が、ニケにすべて否定された。

 じゃあどうするのか、と聞こうとすると、その前にニケが「だからさ」と言った。


 「私は攻撃魔法は使えないけど、──攻撃魔法に使われるぐらいなら出来るよ?」


 楽しげな雰囲気のまま、翌日、ニケはその言葉を証明した。




 「んじゃ、地元の人はこれで全員だね。これから蹂躙するから、残ってたら死ぬからねー」


 のんびり、という声で物騒なことを言うニケ。これが通常だが、隣国の村人たちは恐ろしく映ったようで、ひぃと悲鳴をあげて身を寄せ合っていた。

 ニケは無表情を動かさず、「念のため、一斉に攻撃できるように準備だけしといてねー」と、やはりのんびり兵たちに声をかける。


 そして村人がいなくなったことで敵兵たちが不審に思い出す前に、ニケが僕の横で人差し指を立て、


 『結界』


 いきなり僕たちのいる場所を結界で──いや、あの敵兵たちがいる場所以外を結界で囲んだ。

 目に見える範囲は、全てニケの結界で覆われている。

 ──これが、クローデンス領随一の結界魔法の使い手の力…。


 目を見開き、驚嘆する僕や兵たち、村人たちの視線をもろともせず、ニケは真っすぐ前を、敵兵たちのいるフリドスキャルヴ山脈の向こう側を見ている。


 そして、


 『爆撃』


 ニケがぽつり、と言った瞬間、ニケの指先の上空に、巨大な、太陽が落ちて来たのかと思うほど巨大な燃え盛る球体が出現していた。

 ニケは、指を向こう側に向け、降ろす。


 『爆散』


 視界を真っ白な光が埋め尽くした。

 ニケの結界のおかげだろうが、眩しいとは思わなかった。熱さも感じなかった。ただ、真っ白に埋め尽くされた。

 ニケの指は降りていて、もういつも通りだ。


 『上辺、畳め。四方、接近。収縮後、消滅』


 いつも通り、結界を操作した。

 いきなりがばっと結界の上側の面が跳ね上がり反対側に倒れ、前にあった壁もぐんぐんと進んでいく。収縮する中心は、あの敵兵がいた村で、白い壁はそのまま遠ざかり、消えた。


 何だ、この威力。

 けた違いすぎる。


 「…………ヘルルン、今の、何?」

 「攻撃魔法。使えるように訓練とか一切してないから、こういう超大規模か、ごく初歩的な、ちょっと火を出す、とかしか出来ないんだよ。だから使えないんだよねえ」


 まあ、攻撃魔法とか磨く時間あったら防御とか回復とか磨くし、と、ニケが何でもないように言う。


 ぶっ飛びすぎてる。


 村一つ沈めるだけでもすごいのに、それをするために周り全体を守らないといけないほどの超大規模魔法?

 なんだそれは。

 あれほどの攻撃魔法もすごいし、あの攻撃魔法に耐えられるニケの防御魔法もすごいし、ああいう風に操ることを思いつく発想力もすごい。

 たしかに、ニケはその気になればヘルヘイムの首都を壊すことも出来るだろう。首都以外を守って、あの魔法を投げ込めばいいだけだ。

 そう考えると、あれに巻き込まれないように強力な守りが必須だと考えると、ニケのあの攻撃はあの領に合っているのだと言える。防壁の内側から、守りながら壊滅させるほどの攻撃を放つ。まさしく防衛戦に特化したクローデンス領にふさわしい。


 ああ、ニケの攻撃魔法があてにならない、と言われるのは、それでか。

 規模がでかすぎて、防御で補助しないと自滅するほど威力がありすぎて、ニケも制御できないから、ないものと思ってるのか。

 クローデンス領の切り札としての超大砲か……と思ったが、それも違う。

 それなら、他国の、それも敵国の戦争でそれを見せるはずがない。

 今は見せる必要が特にない場面なのだから、なおさら。


 今披露したのは、……牽制だ。

 ニケの脅しが本当に実行可能であることを見せつけて来た。

 クローデンス領に調子に乗って本気の戦争を仕掛けようものならどうなるか、知らしめて来た。

 王族一人の身柄で敵国に同盟要請など、舐めた真似をしないように、思い知らせてきた。


 この程度の超大規模攻撃など、知られても痛くもかゆくもない。

 そう言われているようだった。


 「じゃ、付近に行ってた生き残りがいるかもしれないし、警戒と山狩りよろしくー。仕掛ける側は選び放題の一瞬だけど、守る側は四六時中警戒態勢で待ちかまえないといけないからねぇ」


 ニケはのほほん、と兵たちに指示を出し、僕に薄っすら目を細めて見せた。

 ちゃんと意図が伝わった?とばかりに、微笑んだ。


 「じゃ、帰ろっか、ロッキュン」

 「──そうだね、ヘルルン」


 お土産にこっちの特産品とかを渡して、ニケをクローデンス領まで送って行った。

 帰ったら母に報告だ。ああもう、勝てる気がしないなあ……。


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