表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
幕間 モブ子の楽しい夏休み
35/77

モブ子12 準備

 「じゃ、偵察行ってくるね」


 やっと着いた東のへの拠点のあまりのお粗末さに数日ほど時間を取られたが、予定通り偵察に出かけた。

 ロキや、世話役を仰せつかっていたヨルズさんは一人で行くことを気にしてくれたけど、『足手まといだからいらない』と言えば苦笑いで認めてくれた。一応国境まではロキと数名の部下がついてきたけど、国境を越えてからは一人だ。


 寒さを遮断するためと不意打ちを警戒して、自分に防護の魔法をかけて、ついでに姿が見えないように透明化して、東に侵入した。


 一目見て、ヘルヘイムが開戦を決めた理由がわかった。


 舐めてやがる。


 辺鄙な村に、子供でもわかるぐらいの軍勢が揃っている。

 しかも季節は夏も中旬。戦が長引けば、当然この地は雪に閉ざされるし、大軍を派遣することは出来なくなる。うっかりすれば本軍と分断されて、敵地に取り残されることにもなりかねない。

 なのに、奇襲するわけでもなく、こうも堂々と兵を集めている。

 つまりこいつらは、冬になる前にヘルヘイムを正面突破できると思っている、ということだ。


 舐めている、としか言えない。

 『正々堂々、正面から打ち破りたい』というのなら、これだけ集めるまえに先生布告すべきだし、夏が半分終わっている段階でのんびり準備をしているのはおかしい。

 しかもヘルヘイム軍は、あのお粗末な考えで、魔法具を所持しているという情報を持ち帰っているのだ。

 そんなものがばれてもヘルヘイムになど余裕で勝てる、と思っているのか、情報漏洩のことなど考えなくてもいいぐらい圧倒的に強いのか、いずれにしても舐めている。


 もう呆れて警戒も解いて、最低限の防護の魔法だけで村のほうに回りこみ、暇そうな村人に話しかけた。

 西方ではどの地域でも、ほぼ同一の言語を話す。昔は統一国家だったんじゃないか、とは歴史家たちがよく主張している。方言などもほとんどない。訛りぐらいはあるが、『タルタロス訛り』や『ヘルヘイム訛り』は、大国故よくある訛りなので、特に気にされない。むしろ一種の標準語ぐらいの扱いを受けている。

 だから村人とも普通に怪しまれることなく会話ができたんだけど……。


 特に何を交渉する魔も出なく、村人は普通に色々教えてくれた。

 一月ぐらい前から兵隊がやってきて、村でごそごそやっているとか。冬仕度が出来なくてたいそう迷惑しているとか。

 そう、驚くべきことに、この兵たちはこの村のある国の軍隊ではなかった。

 この村は東の小国の中でも北にあり、ヘルヘイムも侵攻して来ないぐらいの痩せた土地の弱小国だが、この軍隊はそれをいいことに脅して無理やり領土を占拠しているらしい。

 慣れない土地で、しかもこの極寒の地で、地元民の反感を買ってまで遠征ねえ。

 舐め腐ってるとしか言いようがない。


 偵察は、あっけないほど簡単に終わった。偵察に関しては素人の私も、いともたやすく出来た。たっぷりの情報を抱えて、その日のうちにヘルヘイムに戻った。一日で偵察が終了するなんて、普通にありえないことだけど、少なくとも素人の私が集められる範囲ではこれ以上わからないし、それだけで十分すぎるほどの成果があった。


 帰ると、さすがに一日で終わるとは思っていなかったロキたちは驚いていたが、「作戦会議しよー」と無視して引っ張って行った。あれはもう、報告とかそんな次元の問題じゃない。


 「で、ヘルルン、一日で帰ったってことは、予想外の事態でもあったのかい? 君が対応できないような、奇想天外なことが?」


 速やかに会議の準備をしてくれたロキが、いかにも不服そうに聞いてくる。『偵察もまともに出来ないようなやつじゃないだろう、君は』と、あからさまに不満を伝えてくる。だよねえ。そうなんだけどねえ。


 会議の場にいるのは、ロキとその部下が数名、ヨルズさんと責任者が数名だ。

 わざわざ時間を取らせてしまってるのはわかる。防衛準備なんかで忙しいときに、悪いことしちゃってるなあとは思う。

 でも、それ私も同じだから。


 「私、もう帰って良い?」

 「へ、ヘルルン……!?」


 ロキが驚くが、うん、私もさっさと帰って新学期の準備とかしたいんだよ。


 「あんな、ずぶのど素人でも簡単に偵察出来るぐらいの相手、わざわざ私を呼ぶ必要なかったって。ささっと後始末だけして帰りたいんだけど」

 「えっと、まず偵察結果教えてくれない?」


 困惑気味のロキが言う。それもそうかと、ざっくりお仕事報告。

 とはいえ、フリドスキャルヴ山脈の細い道を通れるとは思えないほどの過剰な軍勢、迷惑している地元民、どこから訴えても勝てる不法占拠、冬の厳しさも知らない平和な南の頭。

 どう考えても負ける気がしない。


 「まー確かに魔法は頑張ってるっぽかったし、兵の士気も高かったけど、あれに苦戦するなら軍事国家名乗るなって感じ? 最初のお粗末なこの拠点でも勝てただろうねー」

 「ま、魔法具があると聞いていたのですが……」

 「あるにはあったけど、鉄砲以上魔法以下ってとこ? 魔法じゃない力で普通の大砲以上の砲弾が飛んでくるかもしれないねーって、そのぐらい? ちゃんと対策してたら普通に防御出来るよ。魔法も、威力は強いけど使い方が下手、っていうか慣れてない感じ? 新しい玩具もらったーやったーってはしゃいでる子供? トール大将なら笑い飛ばして蹴散らすし、ロッキュンだって、ちゃっちゃと片づけられると思うよ」


 強力な魔法とか、魔法具とか、それらを含めて、負ける気がしない、だ。

 というか、ヘルヘイムはそんなに弱くない。

 うちは日常的に退けているが、これはうちが異常なだけだ。

 私が前に出るようになってから双方ほぼ死傷者はいないけど、父の時代にはそれなりに死傷者が出ていた。わざわざ敵兵を治してやったりなんかはしてなかった。敵兵を一人治すことは、味方の兵を十人殺すようなものだからだ。

 領の消耗を嫌う戦い方も、それだ。相手は国でこっちは領だ。兵の数の差も多い。あちらの兵を十人殺すために味方を一人犠牲にするような戦い方をしていては持たない。

 そんな、結束力が異常に強い領を、何百年も相手にしているのだ。

 あんな力だけの兵に負けるほど、ヘルヘイムは柔じゃない。


 「ってわけで、ぱぱっと攻撃して殲滅しようか」


 不安材料は一切ない。なら躊躇する理由なんてどこにもない。


 「村人たちは戦争を快く思ってないようだったし、秘密裏にこっちに連れて来ていい? ヘルヘイムで受け入れてくれたらそれでいいし、国が駄目ならこっちも個人的にツテがあるから引き受けるよ。村の、何の関係もない人を避難させたら、すぱっと終わらせるね。ロッキュンたちも暇じゃないだろうし、私もさっさと帰りたいし」


 あの軍勢の中に、さすがに指揮官はいなかった。魔法具には『威力増加』とか『耐久力上昇』とか書かれてたから、まず日本人の転生者だとは思うけど、いないなら仕方ない。

 あーあ、教えてあげたかったなあ。あの皇帝ナポレオンだって、冬将軍には勝てなかったんだよ、って。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ