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防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
幕間 モブ子の楽しい夏休み
32/77

モブ子11 遊びに行こう!

 「テミス、ちょっと北の方に遊びに行って来るから留守番よろしくー」

 「お嬢様は馬鹿か阿保ですか?」


 北に行くことになったからそう言うと、テミスに間髪入れずに罵倒された。

 この侍女ひどい。


 「ちゃんとお土産買って来るから」

 「そういうことではありませんわ。ここより北と言えば、ヘルヘイムしかないでしょう。敵国に遊びに行くなど、お嬢様は馬鹿か阿保ですか?」

 「違う違う、ちゃんと事情があるんだって」


 周りに人がいないことを確認して、こっそりテミスに言う。


 「魔法具を使うやつが東からヘルヘイムの北端に攻め込んでくるかもしれないんだってさ。で、魔法具に刻む特殊な文字が、前世にいた国の文字だから、ひょっとしたらそこに転生者がいるかもしれないの。別の世界の知識とか使われたら面倒だから、身元確認と釘刺しぐらいして来ようと思って」

 「……魔法具ですか?」


 さすがのテミスも驚いている。私もそんなものが未だにあるなんて、初めて知ったよ。お伽話の中だけのものだと思ってた。


 「だから行って来るけど、父上に反対されてね。行くなら名無しの状態で行け、『ニケ・クローデンス』は行ってないことにしろ、って言われたから、テミスは残っててくれない?よろしく」

 「しかしお嬢様……」

 「私のことは、ロッキュンが国の名をかけて守ってくれると思うから平気だよ。テミスは『ニケ・クローデンス』の侍女なんだから、残っててね」

 「ロッキュンはないと言ったはずですわ」

 「ロッキュンにもないって言われた。良いと思うのに」


 ロキと言えば、やっぱりあれは良い受けだ。ティタンがヘタレ攻めだから、良いカップルになると思う。襲い受け様とヘタレ攻め様とか素敵やん?

 ロキが、『僕を娶ったんだから、恥をかかせないでくれよ』とかティタンに襲い掛かって、ティタンは『俺はそんなつもりじゃ……』とか言いながらロキの魅力に抗えなくて、翌朝責任とるとか言い出して、ロキが『作戦通り』ってほくそ笑むんだけど腰が辛くて、それを案じるティタンにますます惚れたりすればいい。本人には、さすがに受けとして話せなかったから逆カプで言ったけど、ロキは受け様だと思うんだよね。で、ティタンは攻め様なんだよね。ティタン×ロキ、良いと思います。


 そんなこと考えてたら、テミスに「気持ち悪いです、お嬢様」と腐ったごみを見るような目で言われた。以心伝心だねえ。なのになんで趣味はうつってくれなかったかなあ……。


 「義弟のことはいいんだよ」

 「お嬢様、ロキ様はティタン様に婿入りしません」

 「お嫁さんだもんね」

 「そういうことではございません。気持ち悪いです」

 「まあ、こういう口実つけたし転生者なら警戒が必要だと思ったけど、……以前から、一度ヘルヘイムに行って見たいとは思ってたんだよね」


 なんだかんだで、敵国であるヘルヘイムに行ったことは少ない。

 いや、近くの村が火事になって、戦中にそれの応援要請が来て、『じゃあ俺らも行くよ』って消火活動手伝いに行ったり、とかはあるけど、あくまで近隣だけだ。

 だからもっとヘルヘイムを見てきたい。

 もしタルタロスに何かあれば、ヘルヘイムに移籍することも考えている。その時に、まるで知らないよりは、少しは知っている土地のほうが領民を誘導しやすいだろう。異文化交流は両方の文化を知っている橋渡しがいるといないとでは雲泥の差がある。ヘルヘイムに行っても上手くやって行けるよう、行きたいと思う。


 テミスにそう言って納得させ、簡単に荷造りして領を出た。

 領の防壁の向こうでは、ロキたち一行が待っていた。


 「よっ、ロッキュン。早速だけど条件交渉いいかな?」

 「ああ、聞こう。本当にありがとうニケロン」


 歩きながら話す。他四人から苦笑いされてるけど、私は今日も元気です。こういう性格なんだからしゃーないしゃーない。


 「まず、私は『ニケ・クローデンス』ではないから。報告する分には『クローデンス領からの防御魔法が使える偵察』ってことで。表向きはヘルヘイムの魔術師で通すよ」

 「……女王陛下には君のことを伝えさせて欲しい。名前を利用するためじゃなく、君の協力を忘れないためだ」


 ああ、ロキもお母さんには隠し事出来そうにないしね。「女王陛下だけで、女王陛下にも口止めするなら」と了承した。私の姿でわかる兵もいるだろうけど、しらを切ってたら空気を読んでくれるだろう。疑惑と確定じゃ、扱いがかなり違う。そして私は絶対認めることはない。


 「それから、君のことはなんと呼べばいい?」


 ロキの問いに、ニケロンじゃないの?と一瞬思ってしまったが、そうじゃない。偽名のことだろう。

 えーと、表向きはヘルヘイムの人間にするから、ヘルヘイム、北欧神話の神様の名前で……。


 「……じゃあヘル。庶民の魔術師ヘルで、ロッキュンの友達ってことにしよう」

 「わかった、ヘルルンだね。変わり者で興味のない分野には疎い魔術師で、友達の僕が護衛代わりに連れ出したってことで」

 「……私は変わり者じゃないよ、ロッキュン。平凡な庶民だよ」

 「ヘルルン、冗談は良してくれよ。ヘルルンが平凡なら、僕たちなんか無個性になっちゃうだろ?」


 ロキの無駄に爽やかな笑顔が炸裂する。これがティタンの下で、『こ、こんなつもりじゃ……!僕が、主導権を握って……やぁん!』とか喘ぐんだから萌える。ティタンに泣き縋って嫌々言って……ああ、滾る。察しの良いテミスがいないから妄想を妨げる人もいない。存分に脳内で凌辱しよう。


 「それから、私は偵察のために来てるだけだから、戦闘に参加する気はないよ。自分の身を守ったり、あと魔法具の様子見とかはするけど、戦力として期待はしないでね」

 「わかってるよ。参加してくれたら嬉しいけど、偵察してくれるだけでもありがたいからね。情報は僕らにもくれるんだろう?」

 「秘匿する必要がないからね。そっちからの要求は偵察だけ?」

 「そのぐらいかな。ヘルルン個人に頼んでることだし、こっちが返せるものもないからね」

 「うん、じゃあ交渉成立で。ところで今はどこに向かってるの?」


 話してるから歩いてるけど、そろそろ馬に乗りたいだろう。私は最悪馬を乗り捨てることも考えて馬は連れてないから、途中で馬を調達するまで、ロキの馬にでも相乗りさせてもらうつもりだ。

 ロキは「ああ、そうだね」と歩く。他四人に聞かせたいところは終わったから、後は馬上でもいいんだけど。乗せてくれないの?


 「とりあえず、女王陛下に報告しないといけないし兵もいるから、まずは首都に向かって、その後東の方に向かう予定だよ。あ、誓って、ヘルルンに変なことはしないよ。無傷で帰さないと、クローデンスから攻められそうだし」

 「変なこと? これでもそれなりの結界魔法の使い手なんだけど……ああ、女としてってことね。大丈夫、わかってるよ。ロッキュンが好きなのはティタンだもんね」

 「ヘルルン待って。せめて女の子にして。僕は男色じゃないから」

 「うんうん、本当は女の子が好きなんだけど、たまたま好きになったティタンが男の子だったんだよね?」

 「何もわかってない! ヘルルンって本当にマイペースだよね!」

 「敵に治療してって言うロッキュンに言われたくないよ。残念だよね、もしクローデンス領が協力してくれてたら、ロッキュンはティタンのお婿さんになれてたのにね……」

 「なんでそんなに僕と弟さんをくっつけようとするの!?」

 「ところで、馬には乗せてくれないの? 出来れば途中で馬を借りて欲しいな。今、一文無しだから」

 「さすがヘルルン、マイペース。そのまま空気読み損ねて大怪我しそうだね」

 「死ななきゃ治すから問題ないね。ロッキュンこそ、勇敢と無謀の読み違いが多いから気を付けたほうがいいよ。死因が読み違いじゃ、笑えないからね」


 ロキに馬に乗せてもらい、他四人も馬に乗ったことを確認して、「近くの町まで行くよ」と、ロキが馬を走らせる。

 でも、女王陛下か。面倒だなあ。


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