表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
起 序章!学園生活は戦いと共に!
27/77

悪役令嬢11 現状整理

 南は問題なし。

 私、アルテミス・ミーアは第二王子の婚約者として、そう思う。


 私は臣籍に降下することが決まっているとはいえ、王族の婚約者だ。万が一第一王子に問題が起これば、第二王子、あるいはその子供が王となる。だから臣籍に下ることを決めて第一王子への服従を示しているが、第一王子がきちんと結婚して子供を作るまでは王族のままでいる。私とアポロン様の結婚も、第一王子のことが終わってからだ。

 それを何故か、アポロン様は『王座などいらないから、早く君を俺のものにしてしまいたいよ』と言ったりしていた。わけがわからない。そうやって結婚を急いて王の決定に逆らうのは、私は嫌だわ。何かの罠かしら? こんなに殺意が高いなんて、やっぱり私が悪役令嬢だからでしょうね……。


 しかし殺意が高くても継承権第二位の王族の婚約者、何かあれば王妃になることもある地位だ。しっかり国政のことも考えないといけない。


 内政は、これまでの功績で問題はない。王都を中心に動いていたが、元の世界のものも普及しているし、全体的にみても庶民からの大きな不満はなく、そこそこに安定している。

 国家の軍事や治水工事なども、高位の魔術師のディモス様たちや、騎士団のアレス様たちのおかげで余裕があるほどだ。北の地にあるがゆえに不凍港を強く求めているヘルヘイムなどと戦えば負けるが、例えば友好国のアメンティとなら勝てる。


 この国、タルタロスは西に海岸線を持ち、北には軍事国家のヘルヘイム、南には友好国のアメンティがあり、東は有象無象の小国家が接している。数十年前に水不足に喘いで西にあったゲヘナという国を征服して、海岸線と水源を確保した。


 海からの侵略は、現時点では考えなくてよさそうだ。偵察した限り、船で渡れる範囲に陸はないようであり、今ではすっかり統一されている旧ゲヘナ領の港の防備も怠りなくされているからだ。

 南のアメンティは友好国で、特に皇太子のセト皇子はこの国にかなり友好的だ。対アメンティなら勝てるだけの戦力はあることもあり、南は問題ないだろう。

 東も小国家があるが、そのどれもが大国タルタロスに敵うようなものではなく、捨て置いて良い。

 北はよくヘルヘイムと交戦がある、ということだったが、そこと接している領が『地位も権力も富も名声もいらん。ただ我らの邪魔だけはするな』という、超脳筋領主の治める戦上等領だったため、北とのことは全てその領が処理している。

 建国以来、北の侵入を許したことは数えるほどしかなく、その時も領主が腑抜けだったためで、『侵略されたからお前はもう領主ではない、お前の命令は聞かない』と兵士や領民が反乱を起こし、領主を追放して北からの侵入者を追い返したらしい。そして新たに兄弟などが領主となり、『こういうことで前の領主のせいで侵入を許したがもう何とかなった』と報告して終わり、だ。北からの侵入者があの領を突破したことは一度もない上に、全てあの領で完結しているため、『もう北のことはあそこに任せていよう』と議会も王も不干渉を貫ている。

 そのため、北のことも対北特化のクローデンス領のことも知らなかったが、数十年前のゲヘナ征服戦でも『我らは北の防備に努める』と参戦を断り、さらに約百年前、アメンティがタルタロスに攻め込んで来たアメンティ襲来の時も『南のことは知らぬ』と防衛戦への参加を拒み、さらに数百年前に起きた、詳しい話は残っていないが、恐ろしく、人々の文化を飲み込む『帝国』の波の時も、『我らには関係ない』と無視をしていたらしい。

 徹底して北との防衛にのみ従事しているが、まれに北から引っ張り出そうとしたり、命令に背く領を打ち滅ぼそうとする馬鹿な王も出た。

 それに対して彼らは、


 『我らは北の地を守護するもの。邪魔は許さぬ』


 と、邪魔する王軍も打ち砕いてしまったそうだ。

 何から何を守っているのか、もう本末転倒だが、とにかく手出ししないかぎり何もない。

 ちなみにその征伐の後、次の王が恐れおののいて娘を嫁にと差し出したが、『女もいらん』と送り返されてしまったそうだ。本当に代々脳筋な領らしい。

 たまに侵入されても領内でさっさと倒してしまうし、本当に何もしなければ良い壁となるだけの領だ。無視するのが双方にとっていい。


 唯一不安なのが、そんな領主の娘が転生者ということだが、……あれはない。

 『男同士での恋愛』と『北の防衛』しか頭にない。

 無表情だから腹に一物ありそうに見えるし、黙っていたら思慮深そうに見えるが、内面は『男同士の熱い友情、尊い』の腐女子だ。しかも北の防衛しか考えてない脳筋で、恋愛対象が同性の女性で、この前時代的なところがある世界で平気でカミングアウトするぐらいあっぴろけな性格をしている。

 関わらず、放置しよう。

 そう決めた。関わりたくない。


 北は放置していたら安泰なのは歴史上間違いないので、現在はどこからも攻められることはないだろう。

 今までフラグ回避のために内政ばかり重視していたが、外交方面も特に問題ないようでほっとした。

 ではやはり、目を向けるべきは国内だ。


 私はミーア公爵令嬢だけど、転生を悟る七つまでの振る舞いはひどかった。恐らく父が臣籍に下る第二王子を婿入りさせようとしたのも、そんな私に家を任せられないと思ったからだろう。現在は持ち直しているが、ヒロインが出て来た現在まで婚約破棄される雰囲気はないので、そのまま婿入りしてもらうことになりそうだ。

 隠しキャラの第一王子も、ヒロインが逆ハーしない今ではゲーム補正もなく、順調に王位を受け継がれるのだろう。そもそもゲームではともかく、現実に男爵令嬢が国母になるのは荊の道すぎる。──ヒロインならそれが出来ないでもないから、なおさら。


 宰相の息子、オルペウス様は、宰相というよりアポロン様の右腕のように育っている。幼馴染のアポロン様が臣籍に下るし、本人も宰相を目指しているわけではないそうだ。自分は宰相なんてものをするには直情的過ぎるから、と言っていたけれど、……どのあたりが?って感じだわ。

 ディモス様は、元は孤児だけれど、その魔法の才で男爵位を賜っている。魔法の才能は遺伝によるものが大きいから、そのままどんどん出世していくだろう。本人は魔術の研究さえできればいい、と乗り気ではなかったけど、あれほどの才能を埋もれさせるのは惜し過ぎる。


 この二人に共通するのは、どちらも家の息子が一人だということだ。ディモス様に至っては家族がいないのでたった一人の家だ。オルペウス様は姉がいたが、王都近くの風習として跡継ぎを弟のオルペウス様に譲り、今は別の家に嫁いでいる。

 だから、一人っ子のヒロインがどちらかを婿に取ることは出来ないし、ヒロイン自身が嫁ぐことも出来ない。なんとかしようと思えばできるが、そこまでしてひとまずは『結婚相手』としての条件を満たさないから狙わないだろう。

 アレス様は三男だから婿に行けるが、ヒロインがアレスルートに行かなかった場合、二年のときに婚約者が出来る。婚約者が出来れば、大丈夫、のはずだ。


 卒業時には国内も落ち着いていると良いんだけど……。

 そうしたら、卒業前にでもヒロインを適当に婚約させてなんとかしなきゃ。

 ハデスと──労働者階級の人間と結婚なんてとんでもない。

 この学園への入学を許可されているんだから、ここで花婿探しをさせないと。

 私や、ニケ嬢はそんなのを無視出来るぐらいの力があるけど、貧乏貴族のヒロインはそうじゃない。

 ノーマルエンドでもひやひやするのに、従者となんて、ありえない。


 魔法の才能は遺伝によるものが大きい。

 突然変異でも、ヒロインは重要な魔法の才能を有している。

 なら、同じように魔法の才能のある相手と結婚して同じように魔法の才能のある子供を産むことが望まれている。

 そのための、相手探しのための学園だ。

 その組み合わせによって、議会での発言力なども変わってくる。

 フラグ回避もあるが、迂闊に攻略対象と、国内でも有数の有望株と結婚でもされればパワーバランスが狂ってしまう。


 いっそヒロインがニケ嬢みたいに、同性愛者で子供を作れず、家も継がない、という人なら簡単なのに、なんて思っていたことの罰なのだろうか。

 夏季休暇明け、攻略対象たちがニケ嬢に群がっている光景を、私は目撃することになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ