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防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
起 序章!学園生活は戦いと共に!
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悪役令嬢8 授業を終えて

 勝った。

 勝ったけど、ヒロインは泣いてて、私の周りには人はいなくて、全然嬉しくない。

 アポロン様からの褒美も断った。そんなの考えられない。いろいろぐしゃぐしゃになってる。

 ハデスはヒロインの状態を見て、こっそり私に「お嬢さん、軽傷です」と耳打ちしてくれたけど、大事にならなかったことより軽傷で済んだことが苛立った。

 ヒロインは地面に座り込んで泣いていた。

 やめてよ。

 私が苛めたみたいじゃない。やめてよ。私を悪役にしないでよ。

 私の努力を踏みにじったあなたが、被害者面しないでよ……!


 「よかったですね、アフロディーテ男爵令嬢、真面目に相手をする気はないのに力だけ見せつける嫌味な真似をしたのに手打ちにされなくて。さすがお優しいミーア公爵令嬢です」


 手を握りしめて耐えていた私の耳に、のほほん、という形容がぴったりな、日向ぼっこしてるような呑気な声がした。

 あの、無表情子だった。

 無表情で呑気に喧嘩売ったの?え?台詞と声と表情合わせてくれない?


 無表情子は、あくまで穏やかでのんびりとした声で、ヒロインを責めた。

 それは私への侮辱が咎められない程度に含まれていたけど、大体は私が言いたいことだった。

 私より強いのにいじめられたって顔しないで。

 私よりすごいんだから、そんなみじめな姿でいないで。

 負けたって認められるぐらいの振る舞いをしてよ。

 じゃないと、認められない。あなたの実力を認めて、勝ったことを誇れない。

 いっそ無神経に褒めても、私を嘲笑してもいいから、立ちなさいよ。

 憤ることすら奪わないで!


 無表情子も、北の地で戦ってるんだから、トーナメントではあるけど自分より強いことになったヒロインがこんな姿だと、自分も侮辱されたように感じられるのかもしれない。勝ったなら敗者のために誇れ、と、言っているようだった。


 「だってじゃありません! 言いたいことがあるなら言いなさい!」


 それでもうじうじ泣いてるヒロインに、無表情子がそう喝を入れて、


 「だって、怖かったし、私、魔法とかわかんないし、『豊穣』なんて、悪役令嬢だって、出来るのに、もう、こんなのやだ! 私は、田舎で貧乏貴族として畑耕してたかったのに! なんでこうなったの!」


 ヒロインがこう言った。

 え?

 悪役令嬢?

 待って、それはゲームでの呼び名で、私はそんなこと言われてなくて。

 ……やっぱり転生者なの!?


 皆はヒロインの貴族とも思えない口ぶりや、『国を豊かにする』と言われてる『豊穣』の魔法を貶めてること、貴族の役割を放棄したいと言っていることなどにぎょっとしていたけど、私も驚いていた。

 まるで子供じゃない。

 いくつなの?


 「誰が悪役令嬢ですか! 私は小言満載のオールド・ミスです!」


 無表情子は、さらにそれを庇った。私に、公爵令嬢に『悪役令嬢』なんて言えば、私はそうでないと示すためにもヒロインを罰しないといけない。公爵令嬢の手打ちよりは、辺境伯令嬢の手打ちのほうが罰は軽い。茶化してくれたから、それを見逃す意図もありそうだ。

 ……無表情でそんなこと言うから、驚いてしまったけどね。皆で唖然としてたわ。


 「あんたじゃないし! そこのだし!」


 でもそんな気遣いに気付かないヒロインはびしっと私を指さして……無表情子がさっとその指先に割り込んで来た。攻略対象の皆は私に向けた、ということが当然わかってて殺気立ってるけど、無表情子が「私ですか!」となおもおどけて私の話題からそらすから、無礼を咎めるタイミングを失った。

 ……この子、「うざい」とか言ってるんだけど、中学生? 高校生? ねえ大丈夫なの? いくら魔法が優れてたってあなたは男爵令嬢だし、辺境伯令嬢の無表情子の一言で厳罰は下るわよ? 無表情子の家は辺境伯っていう特殊な立場を加味したら、公爵令嬢の私だって上から目線では話せないぐらいなのよ?


 駄々をこねていたヒロインは立ち上がったけど、絶対立場をわきまえていない。もう泣いてないけど、拗ねて屁理屈をこねる子供にしか見えない。

 無表情子は相変わらず無表情で諭している。


 「落ち着きましたか? 落ち着いたら、まずはミーア公爵令嬢に感謝を」

 「なんで私が殴られて感謝しなきゃなんないわけ?」

 「ミーア公爵令嬢は公爵令嬢です。あなたは男爵令嬢、手打ちにされなかったことに、まずは感謝してください」

 「嫌。あんた偉そー。嫌い」

 「偉そう、ではなく、偉いですから。私は辺境伯令嬢ですから、あなたと比べれば偉いですよ」

 「何それ自慢? 同じ人間なのに、そういう不公平してて恥ずかしくないの?」

 「いつまでも拗ねてて、恥ずかしくありませんか? 後で後悔しますよ」

 「偉ぶって、マジむかつく。後悔するって、あれ? 俺TUEEEってやつ? チートおーつ」


 あー、転生者だわ。これ、絶対転生者だわ。しかも最近転生したばっかりみたい。日本の常識を振りかざして、こっちになじむ気もないみたい。

 無表情子はあくまで『公爵令嬢へのあまりの態度に、ついいさめている』という感じで、ヒロインの敵じゃない。なのに喧嘩を売って忠告もはねつけて、まるっきり中高生が拗ねているようだ。

 でも、無表情子はあなたのお母さんじゃないのよ?


 「わかっていただけないようですので、もう結構です」


 わけのわからない話をされて、無礼を受けて、挑発されて、それでもなお案じてくれる『身内』じゃないの。

 無表情子はそう言い、それでも私たちに「お騒がせしました」と、部外者に対するように言って、授業の輪の中に戻って行った。

 これで、今のヒロインの言動は『ヒロインと無表情子二人の私的な会話』ということになった。ヒロインの暴言も主に無表情子に向いていたし、そうなるように無表情子が誘導していたし、これで咎めようと思えば『私的な会話を盗み聞きしてさらに内容について不敬を咎める』ということになるので、咎めるほうが面倒になる。

 公爵令嬢への不敬を注意しただけの無表情子にも当然罪はないし、あそこまで暴言を吐かれたから、これから関わりを拒否しても問題ない。

 上手い立ち回りだわ。


 感心してる間にオルペウス様が解散させてヒロインを追い払ってくれたので、皆と集まって話した。

 私はもうヒロインを庇えないし、皆も関わりたくない、と言っていた。魔法のことで興味を持っていたディモス様ですら、「絶対に嫌だ」と拒否していた。

 ハデスはやっぱり心配していたけど、私の従者が関われば私がかかわったということになる。プライベートな時間に学園外で接触するのは許したけど、それ以上は駄目だ。もしまた何かやったらそれも禁じると言った。ハデスは「温情に感謝します」と受け入れた。同じ転生者だからって、私も甘いわね。


 その後、ヒロインは孤立していたけど、いじめはなかった。下手に接触して巻き込まれるのを嫌ったんでしょう。賢明な判断だわ。

 無表情子は何もなかったように、普通に授業を受けて、普通に侍女と話して、普通に友人と過ごしていた。要領が良すぎる……。


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