悪役令嬢6 実践魔法の授業中
目を見張った。
ヒロインが使った魔法は、『漢字』を使ったものだ。それは…。
「アルテミスと、同じ魔法……?」
隣のアポロン様が驚愕しながらつぶやく。
……これもヒロイン補正なのかしら。それとも、ヒロインも転生者ってことなのかしら……。
わからない。
でも、確実に攻略対象たちは彼女に興味を持った。ディモン様は、元々『豊穣』という異色の魔法が気になっていたようだし、これをきっかけに彼女と接触を図るだろう。
これが、ゲーム補正なのか……。
やっぱり私は皆に見捨てられ、処刑されるのか……。
……ぎゅっと唇を引き結んだ。
今は悲観に暮れてるときじゃない。
ヒロインの手先っぽくて、要注意の無表情子の観察をしなきゃ。
無表情子のことを調べてみたら、いろいろなことがわかった。
まず無表情子はニケ・クローデンスと言って、クローデンス辺境伯の長女だ。一応嫡子ってことにはなってるけど、両親からひどく嫌われているらしい。下に弟もいるし、もしかしたら嫡子は弟になるかもしれない、と噂されていた。
この国では、基本的に男女関係なく先に生まれた子から跡継ぎとなるけど、不出来だったりするとすぐ他の子が継いでしまう。王家では男児が優先だから、王都のほうでは、あえて女児を『不出来だから』と退けて、男児を跡継ぎにすることが多い。親に嫌われている彼女なら、弟が跡取りになる可能性は高い。
で、このクローデンス領はこの国の最北の領で、ヘルヘイムという国と隣接している。ヘルヘイムについては、ゲームでは出てこなかったから詳しくはわからないけど、この国と仲が悪くて、つねに北の方で交戦しているような状態らしい。
強さ的には、一国対一国で戦えば、多分ヘルヘイムのほうが強い。
でも友好国であるアメンティの力を借りれば撃退はできる。アメンティも、この国が落ちてしまうとヘルヘイムの脅威が降りかかってくるから、恐らく力を貸してくれるでしょう。
それでも力を借りると貸しを作ってしまうから、挑発されても開戦には二の足を踏んでいて、ヘルヘイムもやりすぎるとアメンティが出てくるからちょっかいをかけることしか出来ない、っていう睨みあいの状態になっているみたい。
となると、強襲が怖いわね。アメンティに助けを求める前に制圧されてしまったら、アメンティも手を出せないし、私たちも負けてしまう。アメンティに助けを求めるための時間が……そうか、だから『北の要』なのね。あそこで食い止めてる間に救援するから、あそこがどれだけ長く時間を稼いでくれるかにかかってるのね。
じゃあ、クローデンス領に下手なことは出来ない。
彼女の誇りを傷つけないように勝つ方法を考えなきゃ。
ここで機嫌を損ねたら、ひどく面倒なことになりそうだ。下手したらしょ、しょしょしょ処刑とか!
……まさかこれが修正力? ないわよね? この子が修正力の塊なんて、そんな……。
……ない、とは言い切れない。
だって、ゲームではなかったと思う『ヘルヘイム』なんて脅威国家に、その防波堤なんて、おあつらえ向きすぎる。その長女が私と同い年で同じ学園に通っててこうして接触してるのが偶然だなんて思えない。
……どうしよう、怖い。
ゲームになかったことが起こるのが、怖い……!




