ヒロイン3 実践魔法の授業中
冗談じゃないっての!
私は、そりゃ『豊穣』なんて魔法が使えるけど、それまで魔法で戦ったこともないど素人なんだけど!?
実家では侍女の一人もいなくて、家のことは執事が一人で全部回してくれてたから、家長の父さんであっても出来るところは全部自分でやるような、本当に貧乏な貴族なのよ!? 私も特技は皿磨きだし! あと靴磨きと家の掃除も好き! 執事には『どこに出しても恥ずかしくないハウスメイド』って言われてるなんだけど!?
この前の授業でやらされた模擬戦だって、もう近くの植物を肥大化させてビビらせるしか出来なかったから! それもゲームのシナリオ通りだから私の発想じゃないし! しかもゲームではあの後、その時点で好感度が一番高いキャラか、どれも一定ラインに達してなかったら天才魔術師が『すごいな』って声をかけに来るのに、一人も来ないし! ハデスさんが『すごかったな、デメテルお嬢様』って言ってくれたからいいんだけど! あの時の笑顔は……えへへへ……。
そもそも、この魔法の授業、わけわかんないんだけど!
先生がやったのを真似してやって、それの精度とか強度とかを見るって感じだけど、得意分野があるとかで全然出来ない人も、とんでもなく出来る人もいるし、どのぐらいが平均なのかわかんない! 私は魔力が豊富だし、ここの魔法文字が『転生前の故郷で使われていた漢字』だから高得点もらえてるけど、何がどうしてどう褒められてるのかわからないんだけど! ていうか、『豊穣』が私にしか使えないって嘘だよね!? 漢字で何でも出来るじゃん! 悪役令嬢だって出来るでしょ!? ねえ!
あ、悪役令嬢はぶっちぎりのトップだった。そりゃあねえ、シナリオ改変出来るぐらい昔から魔法とか使ってたら慣れてるよねえ。使う魔法文字も、転生前の漢字なんだし、チートし放題だよねえ。なんかそういうのずるくてもやもやする。そういう私もチートに頼ってるけど! 仕方ないじゃんそうでもないとついていけないんだから!
でも、同じく転生者であるはずの無表情さん(名前忘れちゃった。一度しか言われてないしゲームでも出てなかったのに、覚えられるわけないっての)は、ぱっとしない感じだった。なんでだろって思ったけど、無表情さんと昼食を食べた後にハデスさんがちらっと言っていたことによると、北にあるヘルヘイムって国が度々攻めてくるから、その撃退に追われて大変らしい。
元日本人の感覚で考えると、戦争なんて怖いし、生まれた場所がそんなところで本当に可哀想だと思う。実家でも嫌われてるなんて噂も聞こえてきたし、そういうところが嫌で学園に逃げ出してきたのかもしれない。それなら、本来ゲームにいなかった無表情さんがいるのもわかる。転生者として頑張ってなんとか戦争から逃げて来ただけで、ゲームの中ではそのまま領で耐え忍んでいたのかもしれない。
そんな家庭環境だから、魔法を磨くとかできなかったのかな、なんて私は同情している。もし無表情さんに良い出会いがあれば全力で応援したい。
「じゃあ、アルテミスとアレスとディモス、それにアフロディーテ男爵令嬢とクローデンス辺境伯令嬢で模擬戦でもしようか。勝った人には、僕が出来る範囲で便宜を図るよ」
な・の・に、これ!
信じられない!
王子様が言ったことだから逆らえないし、無表情さんは「仰せのままに」って受けたし、私も「はい」って受けたけど、王子様とか怖すぎる! 近くにいるだけで怖い! 悪役令嬢なんとかしてよ!
「あの、アポロン様? 私たちは女の身で……」
あ、言ってくれた。
うん、優しいんだよね。いじめから庇ってくれるし、ハデスさんも貸してくれるし。そのまま逆ハーしてていいよ。だからざまぁしないでね。
「あなたなら問題ないでしょう? それと、『豊穣』の魔法を使える男爵令嬢と、先日の軍事演習で素晴らしい働きを見せてくれた辺境伯令嬢です。問題ありますか?」
「いいえ、殿下の御心のままに」
無表情さんは無表情でそつなく答えてる。これだけ見てると、本当にゲームのモブキャラか、黒幕キャラっぽいんだよね。
……あれ? そういえばいろいろ情報教えちゃったけど、無表情さんが黒幕ってこと、ないのかな? 国政が気になるみたいだったけど……アレスに近づいてたし……。
……私はしがない貧乏貴族! それでいい! 国政なんて、悪役令嬢に任せとけばいいから! 悪役令嬢ならなんとかしてくれるでしょ!
私が考えて目を回していたら、そのまま話が進んでいて、あっという間に模擬戦になった。先生も良いって。そんなあ……!
しかも私が先発。相手は天才魔術師。終わった……!
「あの……私、棄権しても……?」
「…………」
会話してくれない!
ええい、もういいや!
開始の合図と共に、速攻で棄権しようと思ってたら、
『かの者を捉えよ、拘束せよ』
「ひっ……!」
天才魔術師の魔法が発動して、荊の蔓みたいなのが私に迫る。
怖くて、つい、反射的に、
『停止!』
魔法を使ってしまった。
「っ!」
荊の蔓も天才魔術師も、ぴしっと固まる。
もう、怖い怖い怖い! 女子高生になんてことさせてんのよー!
『転回! 退場!』
そのまま、天才魔術を『回れ右』させて模擬戦のステージから降りさせた。場外に出たら失格だ。私の勝ちになる。
はぁー。ついうっかり勝っちゃった。どうしよう……。




