モブ子5 軍事演習
さーて、模擬演習開始!
まずは自陣全てを結界で覆ってしまいたいけど、観客席に公爵令嬢がいるみたいだし、あんまり派手なことはしないほうがいいかな。かるーく、うっすら、に見える程度に偽装して……。
『敵を通すな、我らに害するすべてを防げ、結界!』
『結界』の一言でも済むけど、仕方なく長々と詠唱した。
そうして襲い掛かってくる騎士団。こっちの連中は防壁から出ない。
ひきつけて、鉄壁の防壁に群がらせて。
「第一部隊、放て!」
下がって発砲準備をしていた第一部隊に撃たせた。
発砲されたゴム弾が群がった騎士たちの上空から降り注ぐ。いつもなら投石もするが、さすがにそれはしゃれにならないので控えている。投石は怖いぞ。マジで怖いぞ。
壁ががっしりしているので、騎士たちを一歩も通すことはなく、一方的に攻撃している。あちらからの銃弾や魔法は、私の結界で防いでいるため、やっぱり攻撃は受けない。うっすらに見えてもちゃーんとかけてるからねー。これでも領随一の結界魔法の使い手なのだよ。ふふん。
「第二部隊、放て!」と第二部隊にも発砲させ、第一部隊、第二部隊で総攻撃する。
たまらず騎士たちが攻撃の範囲外に後退すると、「攻撃、止め!」と攻撃を止めさせ、十分な距離を取らせる。
逃げる相手には追撃しない。うちの売りは守りだから、攻撃しない相手には攻撃しない。追撃なんかしなくても守り切れるから、その余裕の表れだ。
じゃ、余裕を見せつけようか。
「第三部隊、第四部隊、前進!」
「「おおー!」」
壁となっている第三部隊、第四部隊を、壁ごと前進させる。
実践の砦じゃ出来ないけど、その辺はご愛敬だ。防御に自信がある場合に限れば、悪い戦術ではないし。
防御に自信がないやつはやっちゃ駄目だよ。普通に壁移動・構築中に突破されて拠点制覇されるから。あくまで絶対に通さない自信があるやつだけ、どうぞ。
で、絶対に通さない自信があるうちは、やるよ。
銃や魔法で遠距離攻撃しても、私の結界がある。無駄無駄無駄ぁ!
再度攻撃しに近づいて来たら、「第三部隊、第四部隊、前進止め!第一部隊、第二部隊、放て!」と、元通り砲撃の雨を降らせる。
しかし敵も馬鹿じゃない。的にならないようにばらけさせてきた。
それなら、抜かせるまでだわ。
「第一部隊、出撃! 第二部隊、第一部隊の補佐! 第三部隊、第四部隊、手隙のものは槍で攻撃! 数の利で蹂躙しろ!」
「「おおおーー!」」
攻撃に転じさせ、こっちも戦況を見守りつつその分防御を強化する。
第一部隊は多数対少数になるように囲んで各個撃破している。その間、おろそかになる他の敵は第二部隊が近づけないようにし、壁に突っ込んで来たものは第三、第四部隊の壁役が槍で倒している。
いい感じに数を減らしたところで、「攻撃、止め! 第一部隊は帰還! 第二、第三、第四部隊は第一部隊の援護!」と帰還させる。
がっちり防御させている中で、第二部隊に第一部隊を手当てさせる。演練なので、本格的に治療する必要のあるやつはいない。楽させてもらってます。
被害状況の確認をしていたら、敵も防壁の中に籠ってしまっていた。
ので、殲滅のお時間です。
「第二、第三、第四部隊、出撃! 一人たりとも逃すな! 全員戦闘不能にしてやれ!」
兵を出させる。
本陣の防御のほうは、どうせ兵たちを抜けてくる敵なんて少数なので、私の結界があれば問題なく対処できる。攻撃されたときの反撃は、……まあそのうち気付いた兵がなんとかするでしょ。私に攻撃を期待するな。
敵の本陣を攻める兵たちは、銃や魔法などの攻撃を受けつつ、数でもってねじ伏せていた。
そうして本陣に踏み込んで、踏み荒らしたところで、
「第五部隊、待たせたな、出番だ──敵将の首を取って来い!」
満を持して、第五部隊の投入だ。
もう騎士団長の顔が引きつっていたと思う。
ちなみに、両陣営の人数は同じなので、第五部隊には第一部隊のものもいるし、第二、三、四部隊で待機させていたものもいる。どうやって指示してたかって? 普通に身振り手振りで指示したんだよ。口頭で言うだけが指示じゃない。あと兵が察して残ってくれた。いつも領で一緒に防衛戦してるから、そのあたりはもうツーカーよ。これが経験の差ってやつですな。
だから、言ってしまえば第五部隊は各部隊の寄せ集めなんだけど、第一部隊以外は直接交戦してないし、第一部隊もちゃんと手当てしたから元気なので、疲労とかはない。そしてそんな元気もりもりなやつらが新たに『第五部隊』とか言われて現れたら、まだいるのか、どれだけ戦力差あるのか、とビビる。
で、この第五部隊は寄せ集めという名の選りすぐりの精鋭なわけで。
「一対一で挑むな! 多数で囲んで打ち取れ! そら、大将首を取るのは誰だ!」
まあ、強いですよ。突出した強さはなく、平均した強さを上げている我が兵たちだけど、その中でも特に強いやつらだ。
一気呵成に攻め込み、打ち取ったりー!
騎士団長は『まいった』と言う間もなく囲まれてやられてしまった。
いくら強くても、集団には勝てんのですよ。これ、真理な。
さて、後方でふんぞり返っていたため綺麗な身なりのまま、陛下のところに行く。
「陛下、お楽しみいただけたでしょうか」
跪いて言うと、陛下が、「実に見事であった。褒美を取らせる」と言った。
ので、「失礼」と立ち上がり、手当てしたし、常に余力を残してるおかげで元気もりもりで撤去作業をしている兵たちを見る。
私が立ち上がり兵たちを向いてかかとを鳴らした瞬間、全員こちらを向いて、びしっと『気を付け』の体勢を取った。
「誇れ、陛下からお褒めの言葉を頂戴した!」
「「はっ! 有難き幸せ!」」
「陛下は我らに褒美をとおっしゃってくださった! 何かあるものはいるか!」
「「いいえ、我らには国家とクローデンス領の繁栄が何よりの褒美!」」
「よろしい! 作業に戻れ!」
「「はっ!」」
兵たちは作業に戻り、私は陛下に跪く。
「大変ありがたいお言葉ですが、国家安寧こそ我らの望みでございます。当然の役目を果たして、どうして褒美などいただけましょう」
「そ、そうか…」
陛下が軽く引いている。ははは。そのためのパフォーマンスだもの。クッサい芝居見せてごめんよ。
んで、予定通り「ですが」と続ける。
「我らは北の地、クローデンス領でこそ真価を発揮できます。国家騎士団様が魔法に手心を加えたために我らが勝てたように、我らは北の地での戦いでさらなる成果をみせましょう」
「うむ。幾度もヘルヘイムの襲撃を打ち払っていると。大儀である。これからも我が国のため尽くせ」
「はい、有難き幸せ」
と、これで陛下との挨拶イベントを終えて、騎士団長と大将同士のお話。
歩み寄ると、騎士団長がにこやかに話しかけて来た。敗戦の将なのに、さすがだ。
「いや、見事でしたな。さすが辺境伯の嫡子だ」
「いえ、私などまだまだ若輩者で……。魔法を使われていましたら、守るだけで手一杯でしたでしょう」
「……ほう、守りならば、と?」
騎士団長が含ませた言葉で鋭く聞いてくるが、しれっとしておく。こういうのは適当にしとくぐらいで丁度いいんだよ。
「ええ。我が兵は守りの兵ですから。たとえどこが相手でも、落ちてはならぬ領だと自負しております」
「ははは、なるほど」
「はい。攻撃はご覧になったようにお粗末ですが、守りならば、誰にも負けません」
「……たとえ誰が相手でも?」
「はい。ヘルヘイムの兵でも、国家騎士団が相手でも。──勿論、こういう演習でもなければ、そちらと手合せさせていただくことはないでしょうが」
「そうだな。そう願う」
「我が領もそう願っております。北から引っ張り出されては真価を発揮できませんし、守りしか出来ないものどもですけれど」
「……承知した。これは、お父上が?」
「いえ、僭越ながら、私が」
「なるほど。次期クローデンス辺境伯、ニケ・クローデンス嬢か。覚えておこう」
「ありがとうございます、国家騎士団長、ヘラクレス・ターンライト伯爵」
「ははは。うちのバカ息子は、次男は騎士団に入っているし三男は公爵令嬢に首ったけだから、ぜひ婿に、と言えないのが残念だな」
「私にはもったいないお話です」
ははは、と『うちの兵を北から動かすな、王都を攻めることはしない。そっちから攻めて来た場合は違うけどな?』と釘を刺して、和やかに軍事演習は終わった。
父にも騎士団長に釘を刺した、と手紙を出しておいたし、騎士団長が現役の間は大丈夫だろう。




