まさか私と同じ!?
バトラーのマイクに抱き上げられ、屋敷に向かい、歩き出すと……。
「チェルシー様、襲われた際、どこかお怪我はされていませんか?」
バトラーのマイクの横を一緒に歩くマルグリット公爵夫人に尋ねられた。そこで私は、腹部を殴られたことを伝える。すると夫人は驚き、すぐに医者に見せると言ってくれた。これまたさすが筆頭公爵家と思ってしまう。だってこの屋敷には、医者が住み込みで常勤しているというのだから……。
「!」
舞踏会が行われているホールのテラスから、こちらを見ている人物がいる。
煌々とした明かりがホールの中を照らしていた。
よってこちらを見る人物は、逆光で黒く見え、詳細は見えないが……。
長身でプラチナブロンドの髪をしているように思える。
スラリとして、脚が長い。
儀礼用の軍服とマントを着ている……?
騎士は儀礼用の軍服で、舞踏会に参加することも多い。
そう言えば私を助けてくれた謎の騎士も、軍服のようなものを着ていた。
名乗ることなく立ち去った謎の騎士。
一体、誰だったのだろう?
というか……。
まるでファントムのような、ハーフフェイスの仮面をつけていた。
まさか私と同じ、既成事実婚狙いなのだろうか?
え、本当に?
どう考えても見えていた顔の半分は、整った顔立ちと形容するにふさわしいものだった。下衆男爵を一撃で仕留めたところも、手際の良さも、さらに身動きがとれない私を襲うようなこともなく紳士的。
既成事実婚を必要としている人物には思えない。
男性で仮面をつけているから100パーセント、既成事実婚狙いとは限らない。
例えば騎士だったら……。
もしかしたら仮面の下に隠された額や頬に、傷やケガの痕があったのかもしれない。
そうね。きっとそうよ。
それを隠すため、仮面をつけていた。
既成事実婚狙いのわけがないわ。
つい、謎の騎士のことが気になってしまったが。
今一度、マイクの肩越しにホールの方を見ると。
……! まだこちらを見ているわ。
うん……?
え、もしや。
まさかアレクサンデル王太子なのでは!?
その可能性は高い。
だってマルグリット公爵夫人は、今回の舞踏会の主催者。
その彼女が庭園に向かったら「どうしたのだろう?」と思うことだろう。
なんなら私のことを、この後アレクサンデル王太子は、マルグリット公爵夫人に尋ねる可能性がある。「庭園で何があったのですか」と。
彼の関心をひいてしまうかもしれない……! その関心が、婚約を進める方向に大きく動かれると、困ってしまう。
「マルグリット公爵夫人様!」
「どうされましたか、チェルシー様」
「今回、何もされずに済んだのですが、変な噂が立つと困ります。どうかこの件は、ご内密にお願いできないでしょうか」
すがるように訴えると、マルグリット公爵夫人は力強く頷いてくれる。
「勿論です。乙女の危機を、噂話のテーブルに乗せるつもりはございませんわ。現状、私とマイク、警備の騎士と謎の男性以外は、何が起きたか知りませんから。あの下衆男爵については、こちらで手を回し、再起不能にさせますから、安心してくださいませ。いくら歴史ある男爵家とはいえ、こんなことをしたらどうなるのか。よーく分からせて差し上げますわ」
とても頼もしい言葉を聞くことができ、安堵する。
「ところでチェルシー様、この仮面がおそばにありましたが、あの下衆男爵に顔を見られましたか?」
マルグリット公爵夫人の手には、私のフルフェイスの仮面がある。
「いえ、顔は見られていません。私が苦しそうにしているのを見て、謎の男性……騎士が外してくれました。おかげで呼吸が楽になり、かなり痛みも和らぎました」
「そうでしたか。それはよかったです。それならば、下衆男爵は、誰を襲ったか分かっていないでしょう。下衆男爵から悪い噂は立たないですみますね」
「はい。そこは……怪我の功名だと思っています」
微笑んだマルグリット公爵夫人が、私の頭に触れた。
どうしたのかと思ったら、どうやらかつらがずれていることに気づいたようだ。それをなおしてくれた……! マルグリット公爵夫人は、とても優しい!
「……チェルシー様は、この王都で一番お美しい方とお聞きしています。実際、とてもお綺麗なのに。どうして今日は、そんなかつらとこの仮面、さらにそのドレス……」
これにはもうギクリとするしかない。
おっしゃる通りだ。
ホストであるマルグリット公爵夫人からしても「なぜ、この装い?」と感じて当然だった。
「それは……その、久しぶりの舞踏会で……。それにご存知の通り、私は縁談で二十五回もお断りされています。悪目立ちしたくないと思い、変装を……」
「まあ、そんなことを気にしていらしたの! 縁談の件は、ご縁もありますから。それにまだお若いのですから、大丈夫ですわよ。せっかくお美しいのですから、隠す必要はないですわ。……といっても未婚の女性は、顔を隠さないといけないですものね」
そこでマルグリット公爵夫人は、私に自身の扇子を渡してくれた。
「もうすぐで裏口ですから。招待客はここまで来ないと思いますが、従者や他のバトラーがいるので、お使いになって」
「ありがとうございます」
親切なマルグリット公爵夫人の案内で、私は服を着替え、かつらも外し、そのまま再び裏口から屋敷を出た。通りに回してもらった馬車に乗り込み、家へ帰ることになった。
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