表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/166

世界ノ理ニ刃向カウ者 4

 退けば攻められる。考えねば殺せず、諦めれば死ぬ。


「止めてみろ」


 八つの髪槍を連続して地に刺す。髪までは縛れないと踏んだが、当たりだった。

 極大の熱を足元の地面へ注入。瓦礫(がれき)混じりの紅い飴状へとみるみると融解していく。大量の水蒸気が発生、瘴気の煙を圧して返した。

 沈下する地盤は危機的なまでに赤熱、拡散し、鬼神は湧出する溶岩(マグマ)溜まりへと沈み込んでいく。

 感応。流動する灼熱を全身に纏い、纏い、纏い、球形へと膨張。己でさえも焼き尽くす。


「おい、なんだよ、それは」


 蜥蜴如きに近寄れる筈がない。

 破滅を想起せずにはいられない小太陽は(ひび)割れ、その合間から失明せんばかりの光芒を幾つも放った。

 噴火、爆風。

 溶岩の大嵐が吹き荒れた。

 ただでさえ脆い地盤は轟々と震えて崩壊。半径を少なくとも一(キロ)以上を焦土へと一変させ、熱波は三倍以上、轟音は遥かに上回る超高範囲へと及んだ。被害の拡大を制御しようと外部圧力を内部へ集約させ、感応術で爆縮反応を引き起こす。

 爆心地へと圧縮、圧壊。

 強大な上昇気流が生じ、計り知れない大破壊を巻き起こしてキノコ雲を発生させた。

 これは核爆発ではない。

 その証に、雲が雲斬霧消と斬り払われる。

 薄暗い上空から落下する鬼神の影。


『これがこいつの力かよ』

『やりすぎ、です』


 生命体としての階層を超越した身とて、無傷ではない。皮膚が黒焦げて剥がれ、だが超再生により徐々に回復していく。だが回復速度は明らかに遅くなっていた。限界が近い。


『まだだ。まだ、やれる』


 吹き上げる風圧に白銀の髪を滅茶苦茶とはためかせ、ちらと暁の予兆を東の彼方に望んだ。

 曇天が、晴れつつある。

 今が死闘の最中であることも忘れるほどに、寒空が美しく広がってた。

 加速しながら迫る、半壊した地上。

 集中を凝らし、感応。不可視の空気層(エアマット)を下方に三つ形成。

 突入、爆音、突入。

 段階的に勢いが減衰し、今まさに崩壊していく岩盤へ着地。瞬時に跳躍と離脱を繰り返し、まだ崩れていない焦げた地上へと降り立った。

 盆地のほぼ全域に無数の火の粉が舞い散る。地表はあちこち(ひび)が走って荒廃。数少ない枯れ木は爆心地方向へ引き込まれて折れ、浮いた根は燃えてばちばちと小さく爆ぜている。割れた岩石は一部融解し、吹き込む冬の風より冷却、半ばガラス化。細かな黒光りが辺り一面に散り散り、夥しく煌めいて異界の様相を呈していた。


「居るんだろ」


 火炎の吐息を微かに漏らす。

 地形を崩壊させるほどの甚大な被害を及ぼしても、まだ決着がついていないと悟る。しぶとく姑息な息遣いを聴覚で直に捉えていた。

 微細な振動が足裏に。殺気。

 地表が盛り上がり、爆散。瓦礫と共に蜥蜴人(リザードマン)が奇襲を仕掛ける。想定済み。あの大爆撃を回避するならば地下しかない。

 鎌鼬(かまいたち)の如き曲刀(ヤタガン)を長刀で跳ね返す。重い。苛烈な連撃を捌き、僅かに押し込まれる。蜥蜴人(リザードマン)の背後から伸びた二匹の影に気付くのが遅れた。

 両肩にそれぞれ、煤けた大蛇の顎門(あぎと)が喰らいつく。牙から毒液が伝う。鬼神の纏う熱の鎧は弱まっていた。充分な反撃機構(カウンター)として充分な効力を発揮できずにいる。


「ゴクロウ、アサメ。お前達は充分に苦しンダ」


 がくりと膝から力が失調。

 両膝をつく。神経遮断。


「ヨオク生キイ、ユオオク足掻(アガ)イタア、一生分ドアアアア」


 束の間。

 引き延ばされた重低の声。鈍い音波が脳裏に響き渡る。

 遅いのではない。速まっている。

 今もなお注入される魔毒、精素由来の有毒物質が血流に乗って全身を循環。途方もない数の細胞へ取り込まれるかと思いきや、血中に滞留したままとある変換が行われていく。折から注入されていた有毒物質は既に。


『また、熱くなってきやがった』


 偽王の脳(デミゴッヅ・ブレイン)が分析を終えていた。

 この加速体感は、闘争物質に変換された毒を栄養素として徐々に吸収している証。

 細剣の(きっさき)がゆっくりとしなる。狙うその先は鬼神の眉間。

 唇、舌、喉を震わせて何事かを喋っているようだが、もはやただの重苦しい怪音波でしかない。

 眼で読み取る。

 お、わ、り、に。

 してやる、だろう。遅過ぎる。

 流れる血液が清冽と冷め、心地良い。

 鬼神の怪腕をみれば変異は明らかであり、真紅から、白熱、蒼みがかって尋常ならざる熱を放つ。

 蜥蜴人(リザードマン)の眼には熱の推移が急変に映っただろう。口端を引き攣らせていたが、どうしようもなく手遅れだった。

 時間が徐々に戻っていく。

 否、世界の流れに、鬼神が合わせる。


「そうだな」


 危機を察知したのか、影大蛇の拘束が解けた。

 後退(バックステップ)しながら苦し紛れと差し出された蜥蜴人(リザードマン)の刺突。蒼炎纏いの長刀で擦りながら不撓不屈の前進、火花を散らしながら回転。百足の如き大尻尾、刃の五指を堅く握り固めた。

 蜥蜴人(リザードマン)の上半身を殴り飛ばす。

 筋繊維が千切れ、肉が震えて内臓を揺らし、骨を砕き。


「ガッブウッ」


 爆速と一直線に吹き飛ばす。

 背後に跳んで衝撃を殺した様子だが、それでも破城槌の如き重撃に耐え切れず吐血、噴射。

 景色が高速で擦過していく中、紅柑子(べにこうじ)の瞳孔が驚愕に見開かれた。


「終わりにしよう。サガド、リプレラ」

『なぜッ』


 正面を袈裟斬り。


『追いつけるんだッ』


 曲刀(ヤタガン)細剣(ダオダラ)を交差して致命の刃を防ぐが、甲高い金属音は響かず。


『こいつは良い殺し技だ』


 長刀が擦り抜けた。

 神速が真横を掠め、背後へと追い抜いた。


『アサメ。この名は』


 一撃目は陰。二撃目にて裏を斬る狡猾な刀。

 兵眼(へいがん)流刀義、先の型。


不立影鴉(フリュウカゲカラス)


 青の剣閃が袈裟(けさ)掛け走る。

 背筋が分断し、焼け焦げ、(ひび)入りの背骨が裂け、消し炭に変え、臓腑が溢れ、赤茶けた断面からぶわりと血の珠が滲み、異臭と共に鮮血が湧出。


「とどめだ」


 蜥蜴人(リザードマン)の膝裏を蹴り込み、崩した上半身を真上へと蹴り上げた。威力絶大。

 足裏に不快な破砕音が響く。背骨を完全に粉砕し、上空へと高く撃ち飛ばした。


「送ってやる」


 五刃の大尻尾が唸る。紅掛空(べにかけそら)色の薄青い爆炎を()ぶ。尾は蒼炎を纏ってみるみると膨張し、巨人の腕の如く変貌。

 かっ開いた業火の魔手が、(あかつき)の薄闇を清冷と消し払っていた。


『敗けたわね、私達』


 妙に浮つく緩慢とした空中。

 閻魔と対峙した蜥蜴人(リザードマン)は全身から血を溢しながら、諦めたように失笑した。


『こんなの、ぶっ殺せるかよ』


 冷風を焼き焦がし、一薙ぎ。

 爆轟の花弁が燦然(さんぜん)と開花、一瞬にして舞い散ったのち。


「逝け。何処へでも」


 八つ裂き。

 どざどざどざ、と鈍い朱の雨が降った。

 血の滴は鬼神に触れる前に蒸発。

 白煙は焦げ焦げしく不快な臭いを充満させる。手も足も胴体も、文字通りばらばらに散らばって地に堕ちた。

 ごろ、と半笑いに歪んだ蜥蜴人(リザードマン)の生首を見つめる。散大した紅柑子(べにこうじ)の瞳は、朝の微光を取り込めない。


「二度と化けて戻るなよ」


 報復が、終わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ