そこに住まう者たち 13
族長屋敷のすぐ隣に構える大きな厩。
北東方面へ向かう行商隊の大馬橇は準備を整え、馬さえ繋げば今すぐにでも走り出しそうであった。
本日は別の巡回者部隊が護衛する。
ハルシや他の巡回者達は最終調査へ向けての会議中であった。
「お二人とも。お待ちしておりました」
商人ユクヨニ、他数名の行商隊員が夜光礼をする。ゴクロウと、ご立腹のアサメも倣って応じた。
「アサメの採寸を頼む。できれば、とても優しく」
ふん、と女性の夜光人へずかずか向かっていった。
「仲がよろしいようですね」
ユクヨニはくすくすと笑う。
「つい可愛がりたくなるというか。そんなことより」
「どうぞ、こちらへ」
馬橇の裏手へ案内される。
扉の解放された大きな箱舟の後部から、ぬっと大きな夜光人が現れた。
「や、ゴクロウ殿。馬上から失礼。先程ぶりだ」
護衛官シクランである。どうも、と軽く夜光礼で挨拶し合う。
差し出された手を取り、乗り上がる。
広い倉庫室を覗くと、ずらりと並ぶ刀剣槍鎚、その数々がゴクロウを出迎えた。
二度目だが、やはり興奮は抑えられない。
「堪らないね。ここに住みたいくらいだ」
心から漏れたゴクロウの呟きに、ユクヨニは自慢げに笑った。
「良品取引が我々の商売なのでそう感じるのでしょう。もちろん武器商人と比べたらちっぽけなものですがね」
確かに見渡せば香辛料のようなものが香る麻袋に、乾麺や干し肉といった保存食、野菜や乾燥した薬草類、酒樽、しっかりと留められた木箱には衣類の文字。丸まった革の生地や織物、農具、木桶、硝子細工、書籍、その他ありとあらゆる生活雑貨が整然と詰め込まれていた。こういった品々が倉庫室の三分の二ほどを埋め尽くしている。
それでも武具の品揃えに充実感を覚えるのだから、この馬橇は兎に角大きいのである。
「ゴクロウ殿。承った装いだ。着替えてみて欲しい」
「お、これか。早速」
渡された装束は夜光の羽織り一式に似ていた。
ただし普段の軽やかな着心地とは明らかに異なり、頼もしい重量感を全身に纏っていく。
仕上がりは革や金具で強度補強の加工。機能性重視の衣嚢や帯革通し、機動性を考慮した脚絆に足袋も革製で頑丈。
いうなればこれは、夜光の戦闘装束。
「うむ。よくお似合いだ。ちと似合い過ぎているな」
ゴクロウは大きく足踏みしたり肩を回し、着心地を確かめる。指抜きの革籠手は手捌きの邪魔をせず、懐に仕込まれた短剣も取り回しやすい。
上から巡回者御用達の毛羽立った衣を羽織る。頭巾付きでより闇に溶け込みやすい。
「ぴったりだ。完璧だし、一晩でこの仕事の早さは素晴らしい」
シクランは凶暴な顔でにやりと笑った。
「ゴクロウ殿、一晩ではない。朝飯前よ、うははは」
成る程、優秀な仕立師も抱えているという訳である。
「とは言っても万屋の拵えです。大掛かりな金属板や帷子を仕込むとなると我々では設備不足なので、必要とあらば紹介状もお渡ししましょう」
「何から何まで大変助かる」
ゴクロウはずらりと並ぶ武具立ての前に立ち、一つの戦斧を掴んだ。
よく磨かれた鋼の光沢と分厚く重い刃。
長めの鉄製柄は両手は勿論、片手でも扱え、刺突も可能。何より装いが頑強で多少乱暴に振るってもへこたれない。背中の留め具に引っ掛け、武装完了。
「これで百万人力だ。俺が必ず皆を無事に導こう」
「ゴクロウ殿ならば何があっても我等の家族を送り届けてくれるでしょう。何卒よろしくお願い致します」
ユクヨニは静かに微笑み、掌を差し出した。
彼等、夜光の民が握手を求める時は強い信頼を示す証である。ゴクロウは快く固い握手に応じた。
ううむ、と唸る。シクランである。
「それにしても、ゴクロウ殿のその風貌ではまるで死闘宗の殺戮手、いや鎌傷谷の義賊衆か。もう少し控えめな鼠色に、うむ、腐墓暴きになってしまうか。いやはや」
顎を摩りながらぶつぶつ呟いていた。
「俺、そんな物騒な奴等と見間違えられるかな」
ユクヨニとシクランは二人揃ってしばらく唸った。
「うむ」
「かなり」
とりあえずゴクロウは頭巾を外し、髪を掻き上げる。
屈強な体格に戦闘装束。
特に背中の戦斧ではどうみても断頭の処刑人。
雰囲気としてはかなり近寄り難い。
「よし、もっと明るく爽やかに振舞うか」
それはそれでいつも通りであった。




