そこに住まう者たち 5
ゴクロウは雄叫びを上げた。
襲い掛かる袈裟斬りを回りながら避け、勢いのままに重い前蹴りを叩き込む。土手っ腹に直撃。吹き飛ぶ短躯。後続を巻き添えにし、接近阻止に成功。
後頭部に殺気。
背後に回っていた醜面、愚直な縦斬り。
振り返り、護人杖の遠心力で粗末な刀身を殴り飛ばす。均衡を崩して前のめりになった顔面、半開きの口に円匙を突き立てた。根こそぎ折れる血塗れの牙。両顎破断。延髄及び小脳損傷。白目を剥いて倒れる。二体目撃破。そのまま円匙を手放す。
両手で護人杖を振り回し、牽制。
左右から二体同時接近。
右前方が棍棒を振り上げた。左前方が槍を突き込んでくる。
来い。
接触寸前、半歩後方へ跳ぶ。
空振りに対し即踏み込み、右の棍棒兵へ鋭い一突きを喉へ叩き込む。一瞬で敵の喉仏を潰し、杖を返す遠心力と足捌きで左方の槍兵の側頭部を殴り抜く。頭蓋を砕く感触を拭うよう更に一回転、駄目押しとばかりに脳天へ叩き落とす。もう立ち上がれまい。同時撃破。計四体目。
後方から足音を察知。
左、中央、右の三方向からほぼ同時の飛び掛かり。
全員刃持ち。間に合わない。
ゴクロウはあえて左前方へ深く飛び込み、雑魚の鳩尾へ強肩をぶち当て、胸骨破砕。激痛を吐き出す異音。手放した鈍刀を空中で把持。迫る斬撃を回転しながら紙一重で躱し、奪った刃を肩口に突き刺した。取り落としそうな鈍刃を蹴り飛ばし、右方の敵に突き刺した。怯む。すかさず護人杖で人中鳩尾睾丸へ三連突き。
刃を拾いながら七体目、いや、手近な敵の頭部へ剛速投擲。バガリと派手に眉間へ突き立つ。
計八体撃破。
殺し合いは一瞬で終わった。
それも一方的に片が付いた。
「くたばりてえ奴はあと何人だッ」
護人杖を振るうゴクロウは獅子吼を轟かせ、金眼をかっ開いた。
痰絡みの哄笑。
「強いな、土足人ンンンッ」
頭領格だ。
どがどがと雪を蹴って突撃。背後へ飛ぶ。ゴクロウの居た地点に丸太の叩きつけ。一撃で雪面が放射状に爆散した。
汚れた白が舞う。一発でも貰えばひとたまりもない威力。
ばらばらと赤黒い雪がすぐ降り終わると、死骸だらけの雪景色が広がっていた。
「もう三対二だ。どうするよ」
前方のアサメと後方のゴクロウ。
三人の敵を挟み撃つ。
人数不利だが、総合的な戦闘力で優っている。
残りの雑魚共を睨みつけ、ゴクロウは違和感を覚えた。
異常だ。
怯えるどころか興奮し、目が血走っている。
「逃しません」
返り血塗れのアサメは奪った刃と尻尾を鋭敏と振るった。粘り気の強い血液がばたばたと飛び散り、雪原を汚す。
大立ち回りした少女は無傷のまま、冷めた睨みを利かせていた。
敵も馬鹿ではない。
この状況不利は理解せざるを得ない筈。
「ダレが、逃げるダト」
だが、連中は下品な声音で大笑う。
「逃げるのはオマエ達」
転がる死骸を片手で持ち上げ、首筋に食らいついた。筋繊維や血管をぶぢぶぢと引き千切り、音を立てて血肉を咀嚼。顎から首へ胸へと伝う黒血でみるみると濡れそぼっていく。残りの二体も倣って貪り喰らいついた。
悪寒。というよりも、不利に陥りかねない予感がする。
「アサメッ」
危機を告げる警鐘に、二人は瞬時に行動。
ゴクロウは転がっていた刃を拾い、頭領目掛け全力で投擲。
頭蓋をかち割る豪速の一撃を、片手で受け止められた。頭領はそのまま得物を握り潰す。
アサメは犬食いする雑魚の一人へ急加速接近。
見切り難い斬撃を背面へまともに浴びせる。
だが、醜面の眼がギロリと振り向き。
「なッ」
上半身のばねを駆使した背後蹴り。回避、だが羽織りが千切れ舞う。アサメの横っ腹を掠めていた。
尻尾を雪上に打ちつけて無理矢理飛び退くが、華奢な脇腹に滲む三条の爪痕。
「この」
褐色の肌に、赤く新鮮な血の筋がいくつか伝う。
「アガアアアいッ、オレは赤い美味い血が飲みたいッ」
「黙っデロ、オデがザギダッ」
連中が狂ったように沸き立った。
「こいつらに血肉を喰わせるなよッ」
先に雑魚を潰す。
ゴクロウは右で護人杖を構え、疾駆。
右方から迂回する様に距離を詰めるが。
「オマエはオレダッ」
頭領格。威圧的な図体。
黒い血肉をぐちゃぐちゃと咀嚼しながら、豪然と立ちはだかった。




