エピローグ1
【魔王】によって世界中を巻き込んだ騒動は無事終結を迎えた。
世界中のダンジョンで起きそうだった“迷宮氾濫”は起こらずに済んだどころか、今まで強力な【魔女が紡ぐ物語】がいたせいで攻略不可能ダンジョンだったものが今回の出来事のお陰でいなくなり攻略できるようになったのだから、まさに禍を転じて福と為すである。
【魔女が紡ぐ物語】を生み出す張本人たちは僕のスマホの中にいるため、今後は【魔女が紡ぐ物語】が現れる頻度が激減するのも良い事だ。
「でも完全に現れなくはならないんだ」
『あの子達が怒りや享楽目的で創り出さなくなるだけましでしょ』
[ソシャゲ・無課金]が使えなくなる前に[放置農場]の空間に戻る際、今までよりは出現頻度は減るけれども、ダンジョンを操作するためのリソースが飽和状態になったら勝手に術式が起動し【魔女が紡ぐ物語】が生み出されてしまうとエバノラが言っていた。
それでも今までの様に突発的に現れる事が少なくなるし、現代を生きる魔術師が頑張ってなんとかするから問題ないのだとか。
……エバノラ達のような魔女がいたんだから今を生きる魔術師だっているってことか。エバノラに教えられて初めて知ったよ。
そうエバノラに言ったら、「あなたも素質はあったみたいよ? もしかしたら先祖にでも魔術師がいたんじゃない」とのこと。
魔術師とか興味ないからどうでもいいけど。
それよりも僕が【魔王】を討伐したことを証明したせいで面倒なことになった。
僕が手に入れた【典正装備】が【魔王】討伐の証明となり、ようやく世界中が歓喜の声を上げたのだ。
それの何が面倒なことになったかって?
確かに喜ぶこと自体は問題ないのだけど、問題は英雄だの救世主だのともてはやされて、大統領とか教皇とか偉い人に会わなければいけなかったからだ。
僕や乃亜達だけの力で倒したわけじゃないし、今回参戦してくれた人達がいてくれたからだと言っても聞いてもらえず、立役者にされてしまったのだから堪ったものじゃない。
人に注目されすぎるのとかホントしんどかった。
偉い人に会っている間、何度早くお家帰りたいと思った事か。
しかも会う人の大半が我が国に帰属しないかと勧誘してくるし勘弁してよ。
「まあ仕方がないんじゃないですか。ぶっちゃけ3回の【魔王】戦で効果的な攻撃してたの、ほとんど先輩とわたし達の攻撃でしたし」
一戦目は【魔王】特効の〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕を刺して倒した。
二戦目は乃亜の[恋い慕うあなたを囲う]で弱体化させて、僕の〔太郎坊兼光・天魔波旬〕と〔穢れなき純白はやがて漆黒に染まる〕で倒した。
三戦目は[純然たる遊戯を享受せよ]で召喚された全ての【魔女が紡ぐ物語】を含め全滅させた。
……………ぼ、僕らだけじゃないし! 他の人達が時間を稼いでくれたり気を引いてくれたお陰で攻撃が決まっただけだし!
そう言っても全く聞いてもらえず、むしろこの場にいた全員が英雄だと解釈されて無駄に株が上がって余計に注目されてしまった。ちくしょう。
ちなみに、三戦目で【魔王】以外の【魔女が紡ぐ物語】を倒しても【典正装備】が手に入らなかったのは、〖朱縁金の盃〗により潜在能力を強化され、【魔女が紡ぐ物語】を生み出した張本人である魔女達のつながりが強化されたため、試練を生み出した本人が試練をクリアしたと誤認されて【典正装備】は【魔王】のしか出なかったらしい。
まあ何百個も【典正装備】があってもほとんど使わないし、【魔王】の【典正装備】を手に入れてしまったことにより、もしも何百個も持っていたら第四の【魔王】とか言われて迫害されてしまう可能性があったからまだ良かったけど。
なにせ僕の最終派生スキル[純然たる遊戯を享受せよ]は【魔女が紡ぐ物語】の力が使えるのだ。
第二形態の【魔王】はおろか、最終形態の【魔王】の力、【魔女が紡ぐ物語】を呼び出す能力まで使える。
具体的には【魔王】の力でガチャの中にまだ残っている【魔女が紡ぐ物語】を呼び出し、使役できてしまうのだ。
そしてガチャの中身が数百個もあるのなら、運次第で今回の騒動で【魔王】がやったことと全く同じことができてしまうという……。下手すれば処刑コースまっしぐらなのは嫌でも想像できてしまうね。
スキルの力が世間にバレていないとはいえ、何百個も【典正装備】があるのとないのとではエライ違いだろう。
持ってても使わないなら、万が一スキルの力を知られても冒険者をかき集めれば対処できる程度の力だと思われる方がまだいい。
「【魔王】の【典正装備】を手に入れる前に蒼汰は数多の冒険者を葬った【魔王】を倒してるのに、その程度の力だと思ってくれるのかしら?」
「あんなにも沢山の【魔女が紡ぐ物語】を倒してるから手遅れだと思う、な」
冬乃も咲夜も酷くない?
「……蒼汰の最終派生スキルは週一でしか使えないから、いくらでもやりようはあると思われてる」
「最悪暗殺するとか方法はいくらでもあるよね」
「搦め手など卑怯だ、と言いたいところだが鹿島先輩相手では仕方あるまい」
オルガ達まで……。
というか、僕に他者を害する意思などこれっぽっちもないし、今後は大人しく過ごしていれば忘れられるよね! ……忘れてくれるかな?
僕は物凄く心配な気持ちになりながら、その気持ちの原因となってる手元の【魔王】の【典正装備】を見る。
……心配だったはずなのに、この【典正装備】を見てると別の感情がこみ上げてきた。
黒い楕円形の陶器であり、端の方は窪みがあってある物を溜めるための道具。
硯。
書道道具フルコンプじゃねえか!!
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次回最終話(笑)です。




