53話 我を怒らせたくばこの3倍は持ってこい
【アリス】の衣装にどこか神秘的にも感じる白いドレスの要素が増えた恰好になった僕が試練を受けた時の様に問いかけると、アグネスはそれに対し返答をすることなく僕に指を指してきた。
『何故じゃ! 何故〝憤怒増幅〟を受けた貴様は平然としておる?!』
その様子はプルプルと震えながらそんな事受け入れられないとでも言うかのようだった。
怒りを増幅させる能力であれば、本来であればどんな人間であれ効かないということはないだろう。
誰であれ大なり小なり怒りを覚えるものであり、たとえ小さい怒りしか感じた事がない人間がいたとしても、いきなり今まで感じた以上の怒りが内から湧き上がればそれに身を振り回されない人間なんていないのだから。
だけど僕は違う。
「僕が[純然たる遊戯を享受せよ]を使用すると、強制的に対価を徴収されるんだ。
その対価は僕のガチャに対する欲求、感情、課金欲、その全てだ」
僕がガチャでどれだけ怒り狂っていたか分かるだろうか?
記憶として残ってはいるけれど、僕にもそれは分からなくなってしまっている。
そのせいか怒りの許容範囲が広いままのせいで、ガチャに関わらない怒りが多少増幅される程度では蚊に刺されたようなもの。
「アグネスが増幅させようとした怒りは僕の中にはすでになく、そして今増幅された怒りはすでに過去で体験済みなんだよ」
『そ、そんなバカな事あるはずが……!』
永続的に奪われるものじゃなく徐々に回復していくらしいけど、このスキルを使う前の僕はそれが[純然たる遊戯を享受せよ]のインターバルが終わる前までに復活するかを心配していたようだ。
確かに今の僕には課金をしようなんて気はまるでないし、ガチャのために大金を使うのはさすがにおかしいと思うんだよね。
ぽっかりとガチャに対する喪失感がなくもないし、インターバルが終わる前までに課金しておけば後々〝僕〟が後悔しないんだろうけど……どうしても課金しようだなんて思えない。
あんなにも課金したいと思っていたはずなのに不思議だなぁ。
『ちっ、“憤怒”が効かぬのなら力で貴様を倒すまでじゃ。〝読了ノ虚無〟!』
「無駄だよ」
僕は迫りくる光の奔流を再度【獏】で攻撃を食べてしまう。
どれほど強力な攻撃であっても、それが物理攻撃でないのなら止められるんだよ。
「そして回答の時間切れだ。ゴブリンジェネラルかゴブリンキングのどちらも選択しなかった正直者のあなたには両方で相手をしよう」
『は、たかがゴブリン程度、たとえ王が差し向けられようとも相手になるものか』
でしょうね。だから当然数の暴力でいくよ。
「やれ、ゴブリンキング」
「ガアアアアアアアア!!」
ゴブリンキングに命令し、横にいたゴブリンジェネラルを生贄に大量のゴブリンを召喚できる魔法陣を展開させた。
『なんじゃその数!?』
Fランクダンジョンで相対していた時は300匹のゴブリンナイトを召喚していた。
しかし今回は生きたままのゴブリンジェネラルをコストにしたからか、その数1万匹。
正直、あの時こんな数のゴブリンナイトが現れたらなす術もなくやられていたと思う。
あの場所だと狭くて1万匹も召喚できなかったし、単純にFランクダンジョンだったからか【魔女が紡ぐ物語】の力も弱くてそんな数召喚できなかったんだろうけど。
「王が率いるんだからこのくらいの数はいないとね。もっとも、真骨頂はこれじゃないけど。落させろ」
「ガアアア!」
「「「ギャッ」」」
『は?』
あの時の絶望を再現しよう。
ゴブリンキングに再び命令し、ゴブリンナイトに剣を落とさせた。
「あなた達が落としたのはこの魔剣? それともこちらの魔剣?」
「「「ギャッ!」」」
「正直者なあなた達にはこれらを上げましょう」
『マズイ! 〝読了ノ虚無〟』
即座に危機と判断したアグネスが放った攻撃により、僕が【獏】の力で食べて無効にする前にせっかく召喚したゴブリンナイトが3割ほど消失してしまった。
だけど問題ない。
「殲滅しろ」
「ガアアアアア!!」
ゴブリンキングの命令によってゴブリンナイト達はそれぞれ武器を交換して【魔女が紡ぐ物語】達に陣形を組みながら攻撃し始める。
ゴブリンナイト達が持つ魔剣はあの時と同じ水を操る魔剣と身体強化の魔剣。
その魔剣を交換しているので、水を操る魔剣だけを持つゴブリンナイトと身体強化の魔剣だけを持つゴブリンナイトに分かれ、それぞれが遠距離からと近距離からで攻撃する役割分担をしていた。
そんなゴブリンナイトが陣形まで組んで【魔女が紡ぐ物語】を倒すために戦術的に戦っているのだから、〝色狂・雪月花〟などで体力が削られ、アグネスによって理性が飛ばされてしまっている【魔女が紡ぐ物語】達はひとたまりもないだろう。
あの魔剣の威力がFランクダンジョンで相対していた時以上の威力になっているのも、【魔女が紡ぐ物語】達を倒すのに一役買っている。
ゴブリンとは思えない動きをしたり、アヤメの〔射線で割断する水流〕みたいな攻撃をしたりしてるし。
『こ、こんなバカな……! くっ、まだじゃ。【グガランナ】!』
『ブモオオオオオ!!!』
アグネスの命令で【グガランナ】の鼻息攻撃により残っていたゴブリンナイトの9割が消滅した。
「それじゃあ補充しよう」
『えっ?』
ゴブリンナイトが一匹、泉の中に沈んでいった。
作者:『課金欲無くした綺麗な主人公とか気持ち悪!?』
蒼汰:「酷くない?」
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