52話 イカれた能力
『我が贄となりその身を捧げよ!』
アグネスが【魔女が紡ぐ物語】に対して手を向けると、そこにいた【魔女が紡ぐ物語】が光の粒子となり消滅してしまい、その後光の粒子は【魔王】であるアグネスの手に収束していった。
その手に収まったのは美しい真っ白な剣であった。
『貴様がいかにイカれた能力を使おうとも、貴様を倒せばそれで終いじゃ!』
イカれた能力とは酷いな。
『死ぬがよい。〝読了ノ虚無〟』
アグネスから放たれた純白の光、それはどこか虚しさすら感じる光の洪水が骸骨の大軍と【上杉謙信】【武田信玄】を呑み込み消し去っていく。
その威力は咲夜の〝神撃〟を何十倍にも強化したもののようだった。
その勢いは止まらずに僕にまで到達しかけたので、慌てて【獏】で攻撃自体を食べて無効化する。
「危ないところだった」
『ちっ、やはり一筋縄ではいかぬか。それならばもう一度やるだけじゃ』
ヤバいな。いくら【獏】で攻撃を消せるとはいえ、うっかりミスして攻撃を食らう可能性がある以上できれば早急に決着をつけないと。
何かいいの出てこい。
「1回ガチャ」
ガチャリと重い音が鳴りカプセルが出てくる。
そのカプセルが割れ、中から出てきたのは【三枚のお札】だった。よりにもよってこれ!?
「パージ、【織田信長】。セット、【三枚のお札】」
出てきた以上使ってみるけど、あの無茶苦茶な試練をここで再現すればいいの?
チラリとエバノラを見てもキョトンとした表情をしており、止める様子がない。
いいの? 君の妹にも等しい子に対して使ってもいいの?
『何を躊躇しているのかしら? その力なら生殖能力を持つ相手は軒並み行動不能に出来るでしょうに』
「え、本当にいいの? アグネス相手に使っても」
見た目僕よりも幼い子に対して、こんな力を使う事に抵抗を覚えなくもない。
殺し合いをしているのに何を今更と言われるかもしれないけど、それとこれとは別と言うか、さすがに気持ち的にアウト感が強いんだ。
『年齢で言えばダンジョン化して自意識を取り戻してから数えれば余裕であなたよりも年上で、とっくに成人してるから問題ないわよ』
「そうじゃなくない!?」
R指定のかかる能力だから躊躇しているのもあるけど、そんな力を身内に対して使われることの反応としては間違ってると思うな。
ただ許可が出たし、これ以上躊躇している余裕も無い。
いつまでも【獏】で攻撃を止められるか分からないし、やるしかないか。
「〝色狂・雪月花〟」
何もなかったはずの空間に突如辺り一面に咲き乱れる小さき花々。
そして深々と降る雪が空から舞い落ち、月の光がアグネス達を照らし出す。
『今度はな――っ!?』
突如変化した情景に周囲を見渡したアグネスはその直後、膝を着き息を荒げ始めた。
『はぁはぁ、この力、エバ姉様か!』
顏を若干赤くしながら僕を睨みつけるアグネス。
『この変態め!』
僕は悪くない。あくまでガチャから出るのはランダムだし。
とはいえ、【三枚のお札】の能力の方向性を決めたのは僕なので何も言えないけど。
〝色狂・雪月花〟はかつてエバノラから受けた試練を魔改造し、降り積もる雪、照らされる月の光、漂う花の香を受けた者の性欲を増幅させ、体力を奪い続けるというもの。
無性の【魔女が紡ぐ物語】以外は軒並み息を荒げ、近くの異性へとチラチラ視線を向け始めていた。
特に神話系のはそういった性的逸話が多いせいで、すでに他の【魔女が紡ぐ物語】を襲い始めてるし。
「相変わらず酷い力だ」
『でも敵を無力化するのにこれほど適した能力はないでしょ?』
エバノラのその言葉を否定できないのが辛い。
この能力はとてもじゃないけど無関係な人を巻き込みかねない外では使えそうにないなぁ。
『はぁはぁワシを舐めるなよ。〝憤怒増幅〟!』
アグネスから赤黒い光が波紋のように周囲へと広がると、その光を受けた【魔女が紡ぐ物語】達が怒りの形相を浮かべながら僕を睨みつけてきた。
“憤怒”が“色欲”を上回ったようで、影響がないわけではないけど、それよりも怒りの感情を僕へと向け攻撃することを優先するようになってしまったか。
こちらにまでその光が届いて僕にも“憤怒”の影響があったから分かるけど、自身が感じる怒りを膨れ上がらせるから普通なら性欲よりも怒りに天秤が傾くのだろう。
まあこの程度なら怒りで判断を誤ったりしないだろうから問題ないけど。
「何も倒せはしなかったけど、理性と体力は削れたし十分かな。1回ガチャ」
次にガチャから出てきたのは【泉の女神】。
思えばこの【魔女が紡ぐ物語】と遭遇したのが始まりだったのだろう。
もしも遭遇していなかったら、最終派生スキルを手に入れるまで何年もかかったかもしれない。
そう思うともっとも感慨深い能力だった。
「それじゃあいい加減終わらせようか。【アリス】」
【アリス】はこの夢の世界の構築とドッペルゲンガーの大量召喚により、もうほとんど力を使ってしまっているけど、必要なのはゴブリン1体でありその程度なら召喚できる。
僕の目の前に1体の剣を持ったゴブリンを呼び出したと同時に床に一面に広がる水。
そのゴブリンが深くもないはずの水の中へと沈んでいく。
それを気にすることなく怒りに満ちた目を向けながらこちらに駆けてくる【魔女が紡ぐ物語】達へと僕は問いかける。
「あなた達が落としたのはこのゴブリンジェネラル? それともこちらのゴブリンキング?」
水から這い上がってきた2体の方に向けて手のひらを上にして示しながら。
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