48話 最後の抵抗
エバノラからもたらされたその言葉に僕は目を見開いて驚いてしまう。
「マジで!?」
『このピンチな時にそんな目を輝かせて驚かないでほしいわね』
空きスロットがいくら増えても全く最終派生スキルを得られる気配がなかったというのに、こんな方法で取得できるかもしれないだなんて……!
これでようやくこのクソスキルを無効化できるぞ!!
『キシシシ、やっぱりこの子面白いわ』
『クシシシ、さっきまで怯えていた目が嘘のようね』
え、何故怯える必要が?
[無課金]がついに最終派生スキルになるのに魂を弄られる必要があるのなら、いくらでも弄ってくれて構わないに決まってるじゃないか。
『まあ本人がノリ気なら問題ないわ。
この状況を打開できるかどうかは完全に賭けになるけれど、少なくともデメリットスキルと呼んでるそれの最終派生スキルがとんでもない能力なのは、そこの子とあそこで歌っている子が証明してるしね』
エバノラは乃亜と遠くでまだ歌ってくれている矢沢さんに視線を向けた。
片や固有空間内での尋常じゃないバフとデバフで、片や死者蘇生。
確かにエバノラの言う通り強力な能力なのは間違いない。――が、そんな事はどうでもいいから早よ空きスロット増やして最終派生スキルを取得させてよ。
『生きるか死ぬかの瀬戸際な上に世界の命運がかかってる状況で、よくもまあどうでもいいとか言えるわね』
おっと心の声が漏れてしまっていたようだ。
「でも生きるか死ぬかの瀬戸際だからこそ、早く処置を行うべきでは?」
『あなたにそう言われるとムカつくわね。間違ってないからとっととやるけれど』
そう言ってエバノラは僕に馬乗りになった。
「ちょっと待って。何故乗る必要が?」
『前も似たような事したじゃない』
「確かにそうだけど、やっぱりどう考えても触れるだけで十分だと思うなぁ」
エバノラの色欲に塗れた試練を受けた後で、特性上仕方ないとか言われたらそんなもんなんだと納得してしまっていたけど、そうなると他の魔女達はどうするんだって話になるし。
『趣味よ』
「言い切ったね。前は魂に直接干渉するから肌に触れている面積が多い方がいいとか言ってたのに」
『あの時と違ってあなたの中に長時間居座ったお陰で強い繋がりができてるから、手を握るだけでも問題ないわね。派生スキルを1つ丸ごと消すだけならどっちにしろ密着する必要はないのだけど』
手を握るだけでいいならそうしてくれないかな?
疲れ果てて倒れてるはずの乃亜達からの視線が痛いんだよ。
とはいえこんなくだらない事で時間を使っている場合じゃないし、もうこのままでいいから空きスロット増やしてください。
『それじゃあやるわよ。
まず[ダンジョン操作権限(1/4)]ね。これはいつでも渡せるから、レベル上がって空きスロットが増えた時にまた付与してあげればいいし』
……あれ?
これで僕の空きスロットは元々3つあったのが4つになったわけだけど、未だに最終派生スキル習得できるアナウンスがこない。
嘘でしょ?
確か乃亜と矢沢さんは空きスロット2つで最終派生スキルを獲得したはずなのに、今の僕の空きスロットが4つあって獲得できないってどういうことなの?!
『え、まだ獲得できないの?』
『キシシシ、賭けに失敗したかしら?』
『クシシシ、もしかして元々取得できないんじゃない?』
「なんて恐ろしいことを言うんだ!?」
『フヒッ、今の状況以上に恐ろしいと感じてるのね』
「課金出来ない事以上に恐ろしい事ってなに?」
『真顔で言わないでほしいわね』
『主達よ! コントをしている場合ではないぞ!?』
ただの真面目な会話だったのにアンリから非難の声が上がった。
必死に【魔女が紡ぐ物語】を押しとどめてくれているので、喋ってないで早く処置を済ませろと言いたい気持ちはよく分かるけど。
『こうなったら削れる派生スキルを削っていくしかないわ。消していいスキルはどれ?』
「[時短戦闘]で」
これは一度戦った事のある相手限定な上、レベル上げを短時間で行うためだけのものなので、ぶっちゃけもう最終派生スキルを手に入れられるのであれば不要なスキルだ。
『よし、消したわ。獲得できた?』
「まだ出ないよ」
『あなたのスキルどうなってるのよ!? どれだけ最終派生スキルを取らせたくないの!』
「そんなの僕が一番声を大にして言いたいんですけど!」
最終派生スキルを取得することで[無課金]から解放されるというのに、このスキルは意地でも僕に課金させまいと抵抗しているかのようだ。
くそ、やっぱり真の敵はお前だな。
『もうこうなったらドンドン消してくわよ。次はどれ』
「じゃあ[マンスリーミッション]で」
このスキルは月一のミッションクリアで報酬がもらえるけど、もらえるのが〝速度強化のミサンガ〟と〝スタミナ自然回復機能のタンクトップ〟と〝視力回復の目薬〟だから構わない。
多少惜しいとは思うけど、この程度のアイテムなら魔道具やポーションが売られているから代用できるし。
『消したわ。これで空きが6つよ』
「ダメだ。まだ出ない」
『次!』
次?
え~と、他のは基本使ってるのばかりで残ってる派生スキルは――
→派生スキルⅠ:[ガチャ]
→派生スキルⅡ:[チーム編成]
→派生スキルⅢ:[放置農業]
→派生スキルⅣ:[カジノ]
→派生スキルⅤ:[ログインボーナス]
→派生スキルⅥ:[フレンドリスト]
→派生スキルⅦ:[Now Loading]
→派生スキルⅧ:[クエストステージ]
→派生スキルⅨ:[ショップ]
→派生スキルⅩ:[画面の向こう側]
→派生スキルXI:[助っ人召喚]
→派生スキルXⅡ:[アップデート]
→派生スキルXⅢ:[メンテナンス]
→派生スキルXⅣ:[物欲センサー]
「よし、まだ[クエストステージ]と[物欲センサー]なら消してもよさそうだ」
『[ログインボーナス]はダメなの? 戦闘に使わないじゃない』
「それを消すだなんてとんでもない」
[ログインボーナス]はガチャのためのコインやメダルはごくたまに手に入るというのに、なんて事を言うんだ。
『じゃあ[クエストステージ]を消すわ』
「お願い」
これで7つ。いい加減これで最終派生スキルが獲得できるようになって!
――ピロン
そんな僕の願いがついに通じたのか。
『条件が満たされました。最終派生スキルを獲得しますか?』
僕の頭の中で無機質な音声が流れてきた。
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