47話 魔女集結
『い、いくらお姉ちゃん達相手でも関係ないのじゃ。アグネスはアグネスの復讐を果たすだけじゃよ!』
『口調ブレブレで若干震えてるのに何言ってるのかしら』
『うるさいのじゃ! そもそもこの状況でワシに勝てると思っておるのか!』
エバノラがアグネスに対して呆れた表情を浮かべて余裕そうだけれど、向こうは何百もの【魔女が紡ぐ物語】を率いて明らかに向こうが圧倒的に有利だ。
『そもそも何故今更になって出てきたのじゃ。ワシを止めるつもりがあったのなら最初から手を貸してやればよいものを』
確かにその通りだ。
僕らが散々苦戦した異世界の【魔王】との戦いもそうだけど、その後の【魔女が紡ぐ物語】の大群との戦いの時にでも手助けしてくれていれば、ここに生き残っているのが僕たちだけになることはなかっただろうに。
『それは出来なかったわ。ここがアグネスの影響である程度魔素があるとはいえ、ダンジョン内とは違って地上では魂だけの存在の私達が顕現できないもの。
まあ、人類を助けてあげようだなんて思ってなかったからいきなり手を貸す事はどの道なかったでしょうけど』
【魔王】と戦う前、イギリスに来る前にも人類の味方じゃないって言ってたもんね。
『でも結界の中の人類が気に入ってるこの子達だけになったのに加え、この子が突然覚醒したのだもの。
その結果、この子の体に魔素が満たされ私達に流れ込んできたお陰で、この子自身が疑似的なダンジョンの役割を果たしてこうして顕現し力を行使できるようになったってわけ』
はっ?
言ってる意味が分からない。
『なんじゃと? ……そうか。先ほど何やら怪しげな物を飲んでおったが、肉体改造でもしおったのか』
え、何それ怖い。
――ピロン 『〝朱縁金の盃〟使用条件、死へと繋がる絶望的状況下にいること。
使用者の潜在能力を一時的に強制解放して自在に行使可能にします。副作用として使用時に潜在能力に応じた激痛が走ります』
いや、もっと早く教えて!
教えられても結局飲むしかなかったから飲んでいただろうけどさ!!
潜在能力が解放されて魔女達が出てくるのは[放置農業]の効果か何かなんだろうけど、まあ幸いなことにこれが一時的なもののようだから、これからも魔女達がほいほい出てくることはないのは助かるところ。
『ふん、まあよい。姉様達がその者に手を貸そうとも、数百体の【魔女が紡ぐ物語】相手にはどうすることもできまい。
たとえローリー姉様の“怠惰”があろうとも、長年ともに過ごしてきたワシがその攻略ができないと思っておるのか』
『すぴー』
『そうだね。時間を稼ぐのが精一杯、と申しております』
黒猫のアンリがいつの間にかローリーの傍にいて代弁してくれたけど、こういう時くらい自分で話さない?
『あらあら、本当に私達を相手にするつもり?』
『クスクス、覚悟はできているのかしら?』
『うっ、っていかん。今のイザベル姉様達との力量差は圧倒的。怯える必要はないのじゃ』
【魔王】がイザベル達と会話すると、どっちが挑戦者か分からなくなるな。
『覚悟するのはそちらの方じゃ。いくら姉様達がこの状況で手を貸そうとも少しばかり余命を伸ばすだけのことよ。
やるのじゃ【ミリン・ダヨ】。ローリー姉様以外を狙うがよい。貴様の不死性で確実に1人殺すのじゃ』
『あいあい』
先ほど僕らに攻撃を仕掛けていた蛮族じみた髭面の男はどうやら【ミリン・ダヨ】というらしいけど、まったくピンとこない名前だ。
童話ならまだ分かるだろうけど、こんな調味料を指し示す時に使う言葉の人物なんて知るはずもないよ。
ただ少なくとも死なないタイプの【魔女が紡ぐ物語】で、それに特化してるせいか思いの外戦闘力が低い相手だ。
『アンリ、時間を稼ぎなさい』
『承った』
アンリがエバノラにそう指示されるとムクムクと大きくなり、虎くらいのサイズに変化して【ミリン・ダヨ】へと襲い掛かる。
『うぺっ!? この野郎!』
『ちっ、手足を潰して回復に時間をかけさせた方が良さそうだ』
【ミリン・ダヨ】は殺されながらもどこから取り出したのかナイフをアンリへと突き立てていた。
だけどアンリはそのもこもこの毛でガードしたのか傷一つ負って無さそうだ。
『やはりあやつだけでは無理か。他の者も行くのじゃ』
【魔王】がそう指示を出すと、近くにいた【魔女が紡ぐ物語】が次々に近づいて来た。
いくらローリーの“怠惰”で遠距離攻撃はされないと言えども、これではやられるのは時間の問題だ。
『それじゃあやるわよ』
『フヒッ、あの子に目に物を見せて上げましょ』
『キシシシ、何が起きるのか楽しみだわ』
『クシシシ、こんなギリギリの状況はあの時みたいね』
『もぐもぐ』
『すぴー』
魔女達6人が何故か横たわる僕を取り囲みだした。
何かをしようとしていたはずなのに、何故僕の周りに集まっているんですかね?
『ハッキリ言って私達ではあの子には勝てないわ。
今の私達ではせいぜい1体【魔女が紡ぐ物語】を創るのが関の山でしょう』
「それは分かったけど、なんで僕を取り囲んでいるんでしょう?」
『キシシシ、それはね、あなたの魂を弄る為よ』
『クシシシ、それはね、あなたのスキルを弄る為よ』
「ヘルプ!!」
いやー!? モルモットを見る様な目で見降ろされてる!
『フヒッ、そう怯えなくていいわ。どうせ抵抗できないんですもの』
「そう言われて怯えない人間がどこにいるんですかね!」
あっ、逃げたいのにローリーがのしかかってきて動く気力が~~~。
『はぁ。あなた達、ふざけてる暇はないわよ。
安心しなさい。前にも似たようなことやったでしょ?』
そう言われて、はっと思い出した。
以前エバノラの試練を攻略した際に、スキルを弄られて[ダンジョン操作権限(1/4)]を付与されたことを。
『今回もあの時のように不要なスキルは排除して、空きスロットを増やしてあなたに最終派生スキルを取得してもらうわ』
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