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ああ、課金してぇーー!!!~課金できないから現代ダンジョンでレベルを上げる~  作者: 甘井雨玉
14章

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45話 億が一

 

 宝箱に入っていたのはマッチだった。

 その効果は幻をたった30秒だけ見せるというもの。


 課金すればもう一度チャンスがあるというのならいくらでもするというのに、現実は無情。


 もうそんなチャンスはどこにもない。


 それでも最後まで諦めないためにやるしかなかった。

 僕は小声で冬乃にお願いする。


「冬乃、僕がこの【典正装備】使ったらこの周辺にいる【魔女が紡ぐ物語(クレイジーテラー)】全部に僕らの姿が見えないよう[幻惑]をかけてほしい」

「え、そんなの無理よ!? そもそも効かないやつだっているのよ!」

「だよね。だから出来る限りでいいから……」

「っ! ……分かったわ」


 もうどうしようもない事が伝わったのだろう。

 それでも残された手を使って万が一、億が一の生き残れる可能性に賭けるしかない。


 僕は〔少女(ザ ラスト)の見た( シーン )偽りの現実(ディザイア)〕を使うために、箱から1本だけ入っているマッチを取り出して火を点けた。


 僕が世界へと投影する幻想はこの場にいるみんなが立ち上がって移動を開始し、光の壁に穴を空けてここから脱出するというものだ。

 もちろんその際に僕らは景色に同化して見えなくなるようにもする。


『アヤメ、お前も逃げろ! ここは我らが足止めする』

『これは所詮仮初の身体。気にすることは無いのじゃ』

『はいなのです!』


 アヤメはクロ達に促されて移動を開始。

 その様子を見て僕は進路先に待ち構えて[フレンドガチャ]で手に入れていた日用品、虫取り網で捕獲した。


『わぷっ! な、なんなのです!?』

「アヤメ、静かに」


 僕はアヤメにそう言いながら、アヤメの幻を創りだして幻の僕らに追従させるように移動させつつ、アヤメが見えないようにする。


『え、なんでご主人さまがここに?』

「あれが幻だからだよ。もうこうなったら敵にこの中には倒す存在はいないと錯覚させて光の壁を解除させるしかない。

 みんな、この光の壁際で体勢を低くしてこの布を被って息をひそめるんだ」


 僕は地面と同じ色の布をみんなに渡すとみんなはすぐに行動してくれた。


 僕の指示にみんなが従ってくれたけど、果たしてこんな方法で上手くいくだろうか?

 そんな不安の中、マッチの火は消えた。


 マッチと能力から考えるにどうみてもこの【典正装備】は【マッチ売りの少女】のものなのが分かるけど、あの童話みたいに死んで終わる結末だけは勘弁してほしい。


 ………


 ………………


 ………………………


 どれほど時間が経っただろうか。

 心臓の音がバクバクとうるさくて、いつ見つかるのかと恐怖しか感じない。


 “暴食”の魔女が【獏】となってて夢の中に侵入していた時はアホみたいな死に方を何度もしたけれど、さすがに現実で死んだことは一度もないため、いくら復活できるだろうとはいえ死にたくないと強く感じてしまう。


 先ほどまで激しかった戦闘音も今はなく、光の壁の内側にいた人達は僕ら以外全滅してしまったのだろうと推測できた。


『……おかしいの。どちらかが滅べば解除される【ブルゴーニュ王】の〝強制決闘〟が解除されぬ。

 探せ。まだ生き残りがいるはずじゃ』


 【魔王】が告げたその言葉は僕らにとって死刑宣告と同義だった。


 億が一の可能性はどこにもなかった。

 おそらくこの光の壁が〝強制決闘〟と呼ばれるものであり、人か【魔女が紡ぐ物語(クレイジーテラー)】のどちらかが滅ぶまで消えることはないらしい。


「……ごめんみんな。駄目だった」

「仕方ないですよ先輩。どうせ駄目なら1体でも多く道連れにしましょう」

「ええそうね。それにこうなったら捨て身でいきましょ。咲夜さんは体力大丈夫かしら?」

「うん。〔夢枕(ネクスト ステージ)〕で少しだけど体力回復してたからいける」


 どうやら〝神撃〟を撃った後、他人の夢に干渉することができるだけでなく、寝た時間に応じて体力を回復できる〔夢枕(ネクスト ステージ)〕をどうせ動けないのならと咲夜は使用していたようだ。


「……やるだけやる」

「ははっ、気力も体力も無いに等しいけど、どうせ死ぬならやるっきゃないってね」

「ふっ、違いない」


 オルガ達もどこか吹っ切れた様子だ。


『おい、あそこにいるぞ!』


 そんな覚悟を決めた時、ついに僕らは見つかってしまったようだ。


「もう少しみんなを休ませて上げれれば良かったけど仕方ない。行くよ、みんな」

「「「「「はい!」」」」」


 僕らは被っていた布を取り払うと、大小様々な【魔女が紡ぐ物語(クレイジーテラー)】が僕らに向かって来ていた。

 ゆっくりと確実に包囲するように迫ってきており、かつてない光景にもはや笑うしかない。


 みんなが武器を構える中、普段は持つ事もしない剣を僕も構える。

 戦うためのスキルなんて1つもないけれど、みんながやられれば結局最後は僕もやられることになるのだから。

 せめて一太刀。


 そんな思いで僕も[画面の向こう側]は使わずにこの場に立っていた。


 だけど【魔女が紡ぐ物語(クレイジーテラー)】達はわざわざ僕らに近づいてきたりはせず、遠距離攻撃ができるものがまず攻撃を仕掛けてきた。


「乃亜、手伝うよ!」

「はい」


 今は[ゲームシステム・エロゲ]を使えない乃亜は派生スキルの[重量装備]を使えないため、大楯である〔報復は汝の後難と共に(カウンター リベンジ)〕を自由自在には使えない。

 だから僕らが手を貸し、乃亜の大楯を供に支えながら遠距離攻撃から身を守る。


「「〈解放(パージ)〉」」


 跳ね返した攻撃が他の攻撃を相殺するも、物量差があまりにも酷かった。

 冬乃が乃亜とほぼ同時に【典正装備】の能力を使用し、〔籠の中に囚われし焔(ブレイズ バスケット)〕で炎を放って相殺しているけど焼け石に水。

 ほんの一瞬大楯にかかる負担が減っただけで、すぐに何度も打ち付けられるような衝撃が大楯越しに響いてくる。


 いつもなら能力を使った〔報復は汝の後難と共に(カウンター リベンジ)〕をすぐに再召喚するところだけど、そんな事をしたら間髪なく放たれている攻撃が僕らに直撃することになってしま――


 ――ドゴンッ!!


「うわっ!?」

「「「「「きゃあっ!?」」」」」


 僕らの足元に着弾した攻撃により、地面ごとまくれ上がって吹き飛ばされてしまった。

 全員が地面へと横たわることになってしまう。


 せめて1体だけでもとか甘かった。

 反撃することすらまともに出来ないほどの差があるのだから。


『これで終いじゃな』


 ああ、やっぱり駄目だったか。


 そう思った時だった。


 ――ポウッ


 目の前に淡く光る紅の盃が浮かんでいた。




作者が完全に忘れていてたエリクサーについて今章の24、26話で少しだけ加筆修正しました。


気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。


カクヨム様にて先行で投稿しています。

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― 新着の感想 ―
おもい、、、出した!!
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