44話 【典正装備】ガチャの時間
【魔女が紡ぐ物語】が僕ら、というよりまずは僕に狙いを定めて襲い掛かってきた。
「先輩! くっ……」
乃亜が咄嗟に動こうとするも先の戦闘の影響――特に[ゲームシステム・エロゲ]の派生スキル[重量装備]で大楯すら軽々と持ち運んでいただけに、最終派生スキルの影響でスキルが無効になってるせいか前に出れなかった。
「させない。くっ……〝神撃〟!」
『アジャパッ!?』
咄嗟に切られた咲夜の切り札、〝神撃〟によって僕に襲い掛かってきた【魔女が紡ぐ物語】は頭を吹き飛ばされ――再生した。
『痛えじゃねえか』
敵のモブキャラみたいなやられ方をしたにもかかわらず、すぐに頭部は再生しこちらを睨んでくる。
誰もがまともに動けなかった以上仕方がなかったとはいえ、再生するタイプの敵を相手に〝神撃〟を使ってしまったのはかなりイタイ。
いつもの咲夜であれば肉弾戦で敵と対峙するだろうことを考えると、やはり口では大丈夫だと言っていたけどまともに動けないくらい不調だったのだ。
その上体力回復手段が無くなった状態で〝神撃〟を使ってしまったので、もうまともに動けないだろう。
『主よ、下がっていろ!』
『デク人形風情が俺に向かってくるか』
クロが操る〔宿主なき石の形代〕で【魔女が紡ぐ物語】を相手に戦ってくれるけど、この状況下では逃げる場所なんてどこにもないというのにどこに下がっているというのか。
『〈解放〉なのです』
『うがっ!? くそ、また死んだか』
『一体どうすれば倒せるというのです!?』
アヤメが〔射線で割断する水流〕で今度は【魔女が紡ぐ物語】の心臓に向かって攻撃するも、確実に破壊したはずの心臓はクロと戦いながら再生していた。
一定の攻撃力であれば殺すことはできるというのに、再生力が異常、というか頭を吹き飛ばされても復活するとかどうやって倒せばいいんだ。
『主様よ。そちらにばかり意識を向けている場合ではないぞ!』
白い球体の状態で僕の近くに来ていたシロにそう言われ周囲に視線を向けると、他の【魔女が紡ぐ物語】までこちらに向かって来ていた。
あの【魔女が紡ぐ物語】を倒すとか言ってる場合じゃない。
この状況をどうやって切り抜けるかを考えなければいけなかった。
なんとか他の【魔女が紡ぐ物語】が僕らへと攻撃しだす前に、何か策を練らないといけない。
「[助っ人召喚]咲夜」
持ってる手札を出し切るくらいしか思いつく事が何もない……!
それでもとにかく出来ることをしないと。
異世界の【魔王】相手では【魔王】自身が人と同程度のサイズのため、6人全員が攻撃している中では召喚しても攻撃にあまり参加できず効果的ではないだろうと思って温存したまま使い損ねていた[助っ人召喚]。
お陰でこのタイミングで使用できたけれど、問題は僕が呼べる人達の中で誰を呼んだところでここにいる全ての【魔女が紡ぐ物語】を倒すのは100%不可能だということ。
かなり弱い【魔女が紡ぐ物語】相手であれば咲夜を召喚すれば倒せるかもしれないけど、それでも時間制限を考えればせいぜい1、2体が限度。
と、そう思ったことで閃いたことが1つ。
どうせこのまま何もしなければやられるのなら、そのランダム性に賭けてみよう。
それはまるでガチャみたいであり、命を賭けてこんな賭けに現実でやることになるとは思いもしなかった。
「咲夜、〝神撃〟を耐久力の無さそうな【魔女が紡ぐ物語】目掛けて狙い撃て!」
新たに手に入る【典正装備】に賭ける。
作戦と言えない作戦であり、頭が悪すぎて笑えない。
でもそれしかないならやるしかないでしょ!
ちょっとガチャっぽくてテンションが上がってきた!
放たれた〝神撃〟は白ずくめの着物を着た真っ白な髪の女の【魔女が紡ぐ物語】を中心に被害を与えていた。
――ポンッ
僕の前に出てきた宝箱は1つだけであり、おそらく見た目的に【雪女】と思わしき【魔女が紡ぐ物語】を1体だけ倒した程度なんだろう。
[助っ人召喚]で呼んだ咲夜は〝神撃〟を一撃放てば消えてしまうので、せめてもう1体倒せていればと思わなくもないけどこればかりは仕方ない。
さあどんな【典正装備】が手に入った?
〔明かせぬ正体は儚き白結晶〕:雪像に意識を移して操る事が出来る
着物姿の女性の雪像だった。
くっ、これじゃない。
少なくともこの光の壁で閉じ込められた空間から逃げられるものじゃないと!
[動画視聴]で[助っ人召喚]回数を増やさないと。
「シロ、これを使って僕らに向かって来る【魔女が紡ぐ物語】をけん制し30秒時間を稼いでほしい」
『了解じゃ主様よ』
「[動画視聴]」
もう近くまで【魔女が紡ぐ物語】が来ており、クロ達があの【魔女が紡ぐ物語】で精一杯な以上、シロだけで30秒時間を稼げるか?
「任せなさい。[幻惑]」
僕が血反吐を吐く様な想いで射幸心を煽ってくる[動画視聴]のCMを見させられている中、冬乃がシロに協力して敵に[幻惑]を使ってくれた。
そのお陰で直前までこちらに来ていた【魔女が紡ぐ物語】の何体かは別の方へと向かい出す。
もっとも全員がその幻に引っかかりはせず何体かはまだこちらに向かって来ているけれども、それでも少しは時間が稼げたか。
「よし、ありがとう冬乃。[助っ人召喚]咲夜。〝神撃〟を耐久力の無さそうな【魔女が紡ぐ物語】目掛けて狙い撃て!」
再度放たれた〝神撃〟。
[動画視聴]は1日一度だけなのでこれが正真正銘のラストチャンス。
せめて1体だけでも倒して!
――ポンッ
祈りは通じ、また1つだけだけど宝箱が出てきてくれた。
問題は中身だ。
このガチャに全てがかかってる。
「このラストガチャに全てがかかってる。お願いだから何か出て!」
パカリと宝箱を開けるとそこにあったのは――
〔少女の見た偽りの現実〕:30秒間現実と変わらない幻を展開する
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




