43話 遊びは終いじゃ
【魔王】から放たれた衝撃的な言葉。
そんな事有り得ないと言ってしまいたいけれど、それを否定する材料がない。
なにせ【魔王】はエバノラ達と同じ魔女であり、今は全てのダンジョンを手中に収めているのだから。
『そもそも誰が【魔女が紡ぐ物語】を創り出していると思っておるのじゃ。
貴様らが呼び寄せると思っている力は【魔王】の力じゃが、当然魔女としての力も使えるに決まっておろう。こんな風にの』
そう言って【魔王】が腕を振りかざすと、【魔王】を中心に徐々に【魔女が紡ぐ物語】を含め人々の様子がおかしくなっていった。
【魔女が紡ぐ物語】達は先ほどまではまだあった理性が無くなってしまったかのように手当たり次第に暴れ出し、意気消沈していた冒険者達ですら我が身を顧みないような動きで暴れ出したのだ。
そのどちらにも共通するのが敵味方関係なく暴れるバーサーカーになってしまっている事だろう。
口から泡を吹きながら、目に映るもの全てが憎いとでも言うかのようだ。
「エバノラが言っていた“憤怒”の力か」
今まで魔女達に様々な力に翻弄されてきたけど、果たして僕はあれに耐えられるだろうか?
“怠惰”には耐えられたけど、“強欲”と“傲慢”に対しては即落ち2コマとも言うべき自分自身の醜態を目の当たりにさせられているので、“憤怒”に関しては耐えられるかどうか自信はないな。
普段からガチャの結果に一喜一憂しているから慣れていて耐性ができているか、それともう普段から理不尽なガチャの結果に怒り狂ってるせいで一瞬で暴れ出すか。
まあ僕が暴れたところで簡単に押さえつけられるだろうから、少なくとも味方にそこまで被害は行かないはずだ。
『はぁ。やはりいかんの』
【魔王】が振りかざしていた腕を降ろすと、暴れていた人達が突如正気を取り戻して手当たり次第に暴れるのを止めた。
『集団相手に“憤怒”はよく効くが、こちらの手勢も集団じゃと影響が出てしまうの。
一対多になるようリーゼのように自身を一点集中で強化していれば“憤怒”をもっと効率的に使えたかもしれんが、ワシは運動神経悪いしのう』
【魔王】がぼやいているけど、どうやら【魔王】自身が体を動かす事が苦手なお陰、いや、そのせいで今の現状があるらしい。
今の【魔王】が異世界の【魔王】と同じように一点集中で強化されている方がまだ止めようはあったのに……!
眷属などのように特殊な能力を持たない存在が大量にいるのと、それぞれが個別の特殊な能力を持つ【魔女が紡ぐ物語】が何百体もいるのとでは訳が違う。
前者であれば咲夜の〝神撃〟のように遠くからまとめて薙ぎ払って倒せるかもしれないけど、後者では1体でも攻撃を防ぐことに特化したのがいれば止められてしまうのだから。
ランクの低いダンジョンの【魔女が紡ぐ物語】ならまとめて倒せるかもしれないけど、今まで戦ってきた【魔女が紡ぐ物語】を鑑みると、防御に特化していなくても〝神撃〟の一撃では倒されないパターンは結構多い気がするし。
『さて、遊びは終いじゃ。早々にここにいる人間どもを片付けて、文明という文明を破壊しつくしてやろうぞ!』
先ほどまでも十分蹂躙という言葉がしっくりくるほど冒険者達を倒していたのに、それが遊びだって?
『好き勝手暴れるのは止めよ。ここから先は他の【魔女が紡ぐ物語】に己の攻撃が極力当たらぬように動くのじゃ。
特に【グガランナ】。貴様はもっと離れたところで人間に攻撃するのじゃ』
『ブモゥ……』
悲しそうな目でアグネスを見下ろしている【グガランナ】を少しシュールにも感じながら、これまで好き勝手に行動していた【魔女が紡ぐ物語】が連携、とまではいかなくとも互いに気を使い出すとか同士討ちも狙えないじゃないか。
なんとか冒険者達がそれぞれのパーティごとに【魔女が紡ぐ物語】を1、2体相手に戦うも、【魔女が紡ぐ物語】を倒すよりも冒険者達がやられるペースの方が早く倒されていった。
当たり前だ。
本来であれば複数のパーティー、いわゆるレイドのような形で1体の【魔女が紡ぐ物語】を相手にするのが基本だ。
ランクの低いダンジョンに出た【魔女が紡ぐ物語】ならそれ相応の力しかないので1つのパーティーだけでも倒せるだろうけど、Sランクダンジョンの【織田信長】の時を思い出せば到底1つのパーティーだけでは太刀打ちできないのは分かり切ってる事。
いくらここにいるのが銀や金の勇者の紋章持ちであるために、ほぼ間違いなく【魔女が紡ぐ物語】と戦ったことがある人間で相応の実力を持っているとはいえ、高ランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語】が混ざっている今の状態では厳しい。
つまり時間は稼ぐことはできても、【魔女が紡ぐ物語】を倒すのは難しいのだ。
1人、また1人と冒険者達が倒れていき、この空間内にいる人間の数が目に見えて少なくなっていった時、ついに端に退避していた僕らにもその魔の手はやってきた。
『へっ、他の奴らがやられてるって時にこんな端っこにいて戦いもしねえ雑魚が。オレ様が直々に引導を渡してやるぜ!』
皮鎧を着た蛮族風の髭面のおっさんという、何の【魔女が紡ぐ物語】かも分からないような悪役じみた男が大剣を振りかざして僕らへと襲ってきた。
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