42話 巻き添え
明らかに脅威と思える【グガランナ】が動き出したのに続いて、他の【魔女が紡ぐ物語】達まで呼応するように動き出していた。
マッチをこすると火が付いている間あらゆるものを具現化する【マッチ売りの少女】。
糸をつむぐために使う道具であるつむを突き刺してきて強制的に眠らせてくる【ねむり姫・十三番目の魔女】。
7体の笠を被った地蔵が巧みな連携技で1人ずつ確実に沈めてくる【笠地蔵】。
青色のアイシャドウと綺麗に切り揃えられた前髪、そして古代エジプトを彷彿させる服装の女性が男の冒険者達を魅了して配下にしてしまう【クレオパトラ7世】。
もっとも初期の飛行機をいくつも飛ばして突撃してくる【ライト兄弟】。
72柱の悪魔を従える【ソロモン王】。
パッと見で分かるだけでもこれだ。
1つの【魔女が紡ぐ物語】でも複数体の群れとなっているのはもう今更だけど、こんなにも違う能力を持つ【魔女が紡ぐ物語】達を相手にするのは困難という言葉じゃ到底表せないレベルの凶事だ。
『すでにここにあった物の大半は壊れたようじゃがまだ足りぬ。
当時の人間はもういないが、そやつらが積み上げた文明がまだそこにある。
ならばその全てを破壊しつくしてこそ復讐がなるというものじゃ!
あやつらが築き上げたものは全て壊しつくしてくれる。
我が〝怒り〟、思う存分受け止めてみるがよい!』
唯一の幸運はアグネス自体に戦闘能力が備わっていないのか、ただ【魔女が紡ぐ物語】に指示するだけで動かない点だけど、こんな数の【魔女が紡ぐ物語】相手にいっぱいいっぱいどころか、対応できていない状態では何の意味もない幸運だ。
「くっ、文明を破壊するだなんて!」
「先輩、こんな時でもガチャって言えるとか余裕ありません?」
え、余裕なんてまるでないのに何でそんな事を言うんだろうか?
僕が何を言っているのか理解できずにいると、そんな僕を見てため息を吐かれた。解せぬ。
『ブモオオオオオオオオオオ!!!』
「「「『『『ギャアアアアア!!?』』』」」」
なんとか光の壁の端で体を休ませていた僕たちの所にまで凄まじい突風が届いた。
砂ぼこりで凄いことになっているけど、その強烈な雄たけびから【グガランナ】がやったのは間違いない。
問題は何をやったかだけど、恐ろしい事にただの鼻息だった。
「なんですかあれ。地面が割れてたんですけど!?」
「幸いなのが他の【魔女が紡ぐ物語】まで巻き込まれて割れた地面に呑まれていったことだけど、あんなの人間が受けたら即死じゃない」
乃亜や冬乃を始め、あまりにも有り得ない光景に全員が呆然としてしまった。
『他の者は【グガランナ】から離れよ。
やれやれ。あの時と同じで複数の【魔女が紡ぐ物語】に戦わせておるが、質も量も違い過ぎてフレンドリーファイアはどうしても避けられんの。【グガランナ】に威力を抑えて攻撃させられればよいのじゃが、“憤怒”の影響で威力は上げられても抑える事はできんしの』
さすがに【魔王】にとっても今の規模の攻撃は想定外だったようだけど、すぐに【グガランナ】から離れるように指示したせいで、今のように他の【魔女が紡ぐ物語】が巻き添えにされるのはあまり期待できそうにないか。
それにそんな規模の攻撃だとこっちの被害も酷くなってしまうからむしろ無い方がありがたいのだけど、【魔王】の発言を聞く限り【グガランナ】が攻撃しないということは無さそうだ。
「おい、俺達も【グガランナ】から離れて他の【魔女が紡ぐ物語】に極力近づくぞ”!
どうせ死ぬのなら【魔女が紡ぐ物語】共を巻き添えにして少しでも減らすんだ!」
『なっ!?』
【魔王】が驚いてるけどそりゃそうだよ。
自分達は生き返れるのだから、相手の強力な全体攻撃を利用しない手はないよね。
『ふんっ。まあよい。呼び寄せたのが減ったのなら創って増やすまでよ』
「「「なんだと!!?」」」
嘘でしょ?
まだ追加で増やせるの?
【魔王】はそう言いつつもすぐには【魔女が紡ぐ物語】を呼びよせようとはしなかった。
さすがに今の混戦状態ではまた巻き添えで死なせるだけだからだろう。
「……違う」
「えっ? 今呼び寄せないのって無駄に死なせるのが嫌なんじゃないのオルガ?」
「……それはあってる。違うのは呼び寄せる方」
オルガがそう言うとオルガが言いたい事に気が付いたのか、ソフィが頷いた。
「そうか。今【魔王】は創って増やすって言ってたね」
えっ?
それってつまりいくらでも【魔女が紡ぐ物語】を出せるってこと!?
呼び寄せるだけなら現在ダンジョン内にいる【魔女が紡ぐ物語】に限りがあるだろうから有限だけど、創れるってことは弾数に上限なしの無限ってことじゃないか!
「創れるとか冗談だろ?」
「【魔女が紡ぐ物語】を呼び寄せるだけでも反則なのに、いくらでも増やせるなんて……」
「こんなやつに人類が勝つ手段あるのかよ!」
他の人達もそれに気づいたのか絶望感漂うセリフを口にしていた。
だけどそれでも戦わないといけない。
叶わないからと諦めてしまえば本当に終わりなのだから。
「みんな諦めるな! いくら創れると言っても限度はあるはずだ!」
誰かがそう言って全員を鼓舞しようと声を張り上げていた。
少しでも希望を持てるように。
少しでも戦意が保てるように。
でもそれを【魔王】は許さない。
『ああ、そうじゃの。リソースを考えると精々【グガランナ】100体分を創れる程度と言ったところかの』
大半の冒険者達の心を折った。
気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。
カクヨム様にて先行で投稿しています。




