40話 【魔王】達からは逃げられない
≪蒼汰SIDE≫
悪夢はここにあった。
1体相手にするだけでも死を覚悟するほど絶望的な存在。
それが【魔女が紡ぐ物語】。
だというのにそんな存在が何百体もいるだなんて、悪夢以外の何物でもなかった。
「こ、こんなのどうしろって言うんですか!?」
悲鳴にも似た叫びが乃亜から響く。
はっきり言って僕らはもう戦えないと言っていい状態なのだから、叫びたくなる気持ちは痛いほど分かる。
第二形態である異世界の【魔王】との戦い、その攻撃による〝波乱せし終生〟により防御や耐性など関係なく肉体的にも精神的にも散々ダメージを受けて疲労困憊なのだ。
僕はまだ平気だけど、みんなは顔が青くなっていてかなりきつそうで立ってるのもやっとだし。
その上ほとんどの切り札と言えるスキルや[典正装備]を使って今はインターバルで使えなくなってしまっている。
特に乃亜の[ゲームシステム・エロゲ]の最終派生スキルを使ってしまった事により、丸一日インターバルが発生してしまいそのスキルの全ての派生スキルが使えなくなってしまっているのが痛すぎる。
異世界の【魔王】を倒すためには仕方がなかったとはいえ、今まで僕らの身の安全を保障してくれていた[損傷衣転]が今は使えない以上、死ぬ確率が大幅に上昇しているのだ。
万全どころか過去一で不調と言ってもいい状態で、数百体の【魔女が紡ぐ物語】どころか、1体すら相手に出来るわけがない。
「とにかく、今はこのまま下がろう」
元々あの【魔王】が黒い球体から出てくる前から、【魔王】討伐のためのサポート組のところまで下がろうとしていたのだ。
幸いにもそのお陰である程度【魔王】達とは距離が離れているので、なんとかこのまま退避できそうかな。
それはとても甘い考えだった。
「なっ!?」
僕らとサポート組の間に突如として現れた光の壁。
それは巨大なドーム状の形をしており、僕らは【魔王】と一緒に閉じ込められてしまったことを意味していた。
なんの【魔女が紡ぐ物語】かは分からないけれど、そいつのせいで【魔王】達からは逃げられなくされてしまったようだ。
「まずは前線組である私達から確実に殺しにきてるわね」
「さっきまでの【魔王】に攻撃していた人達を優先してる、ってこと?」
冬乃は苦い顔をし、咲夜がもの凄く困った表情を浮かべながら【魔王】の方へと視線を向けた。
そこでは困惑しつつも、真っ先に【魔王】に狙いを定めて攻撃を仕掛けていた金銀の勇者の紋章を持つベテランの冒険者達がいた。
「【魔女が紡ぐ物語】を呼び出した【魔王】さえ倒せば最悪どうとでもなる!
俺達はあの嬢ちゃん(?)の力で生き返る事ができるんだから、死に物狂いで【魔王】を殺すんだ!」
「「「おう!!」」」
確かに矢沢先輩の蘇生能力があるから1度だけなら死んでも生き返られる。
問題はこの場にいる全員が死んだ時、近くにいる矢沢先輩に[アイドル・女装]の最終派生スキル[役者はここに集う・緞帳よ上がれ]で蘇生して貰ったとしても、[アイドル・女装]のインターバルが発生して今度は矢沢先輩のバフがなくなった状態で戦わなくてはいけなくなってしまうことだ。
バフ有りで死んでしまったというのに、バフ無しで戦ったところで同じ結果となりかねない。
もっとも、こちらにまで聞こえてきた冒険者達の声を聞く限り、今回は犠牲を無視して【魔王】を倒すために行動をするので、保険がある今だからこそできる最適解だと言える。
冒険者達の言う通り、この騒動の元凶である【魔王】さえ倒せれば世界各地で迷宮氾濫は起きなくなるので、【魔王】を倒した後に地上に出てきてしまった【魔女が紡ぐ物語】は時間をかけて対処する方がいいに決まっている。
仮にダメでバフが無くなってしまったとしても、【魔王】の周囲にいる【魔女が紡ぐ物語】から身を守りながら消極的に戦う戦法をとって時間を稼ぐムーブへと移行すればいいのだろう。
「どういう意図か理解できても、僕らは動けそうにないけどね……」
考えは賛同できるのに、異世界の【魔王】との戦いのせいでみんなはせいぜい遠距離攻撃で援護するのが関の山な状態。
僕はまだ平気だけどあいにく戦闘能力ほぼ皆無だし、まともな攻撃手段である〔太郎坊兼光・破解〕も〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕もインターバルがあり使えない。
残ってる手段と言えば【白虎】の時の様に〔明晰夢を歩く者〕で精神に干渉するくらいだろうけど、対象に直接触れる必要があるのでまず無理だと言っていい。
「いくぞ!!」
「「「うおおおおっ!!」」」
何だかんだでいつも【魔女が紡ぐ物語】相手に最後まで戦っていたので、こうして見ているしかないというのは歯がゆいところ。
だけど誰であれ【魔王】を倒してくれるのであれば何の問題もない。
文明を守れるのであれば、誰が倒しても構わないのだから。
期待と願いを込めて僕らは冒険者の人達を見守った。
【魔王】への特攻の際に迫りくる他の【魔女が紡ぐ物語】に対し、1人、また1人と足止めを買って出て倒されていく。
自身の縄張りどころかダンジョンの外に出てきているせいか、たまにそこまで強くない【魔女が紡ぐ物語】もいて倒せてはいるけど、それは重要ではない。
もっとも大切なのは【魔王】を倒すことなのだから。
何十人もの犠牲の末、ついに【魔王】へと辿り着いた冒険者達。
他の【魔女が紡ぐ物語】に邪魔されないように牽制しつつ、数人の冒険者が【魔王】へと攻撃した。
「はあああっ!」
その攻撃は神速の一言につき、咲夜以上の身体能力なのか僕では遠くからでもまともに見えなかった。
いつの間にか【魔王】とすれ違い、結果――
『残念じゃったな』
無傷の【魔王】がそこに立っているだけだった。
「馬鹿な!? 確実に攻撃は当たったというのに!」
『生憎じゃが、ワシは呼び出した【魔女が紡ぐ物語】にダメージを肩代わりさせる事ができる。
つまりワシを倒したければまずは周囲の【魔女が紡ぐ物語】から片付けるべきじゃな』
【魔王】からもたらされたその言葉は、僕らを絶望させるのに十分な破壊力を持ち合わせていた。
過去編で10話も空いたせいで、めっちゃ書き辛い。
どういう展開にするつもりでここまで書いてたんだっけ……?
お、思い出せ。あの時の記憶を!!(ガチ泣)
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




