18話 いけ、いくんだ!
「昨日は【魔女が紡ぐ物語】よりも恐ろしいものに遭遇したせいで、小屋から出ることが出来ませんでしたが、今日は“迷宮氾濫”予知日前日ですから、わたし達が割り当てられた場所で待機していなければいけませんね」
サラッと自分の友人をダンジョンの災害とでも言うべき【魔女が紡ぐ物語】と比較するのは止めてほしい。
気持ちは分からなくないし、比べた結果、大樹達のパーティーの方に軍配が上がってしまっているのもしょうがないのかもしれないけど。
「それにしても“迷宮氾濫”が起こる日が分かっているなら、別に前日から待機していなくてもいいんじゃないかと思うんだけどね」
なんか未来を見ることの出来る【典正装備】で“迷宮氾濫”が起こる日を把握して、全国の冒険者で参加してくれる人を集めたようだ。
その【典正装備】ってノストラダムスの大予言とかその辺の【魔女が紡ぐ物語】かな?
未来が分かるとか便利そうだ。
「何言ってるのよ。もしも予知が外れて冒険者が集まる前に“迷宮氾濫”が起きたらそれこそ大惨事じゃない」
確かに白波さんの言う通りなんだけど、何もしないでただ待機って暇なんだよね。
半日だけ交通整理で道路に立って誘導するバイトをしていた時も、車が来るまでボーっと立ってないといけないのは辛かった。
スマホ見てさぼるわけにもいかないし、屈伸とかして早く終わらないかなーって、ずっと思ってた。
「予知日の2週間前からバリケードなどの準備をしているそうですが、冒険者は前日からなだけまだマシだと思いますよ。それにお父さんから聞いた話じゃ、昔は予知する【典正装備】がない時は大雑把な日取りしか分からなかったため、1カ月前から待機してたらしいですし」
それって報酬どうしてたんだろうか?
僕らは3日で50万なら参加してもいいと思ってきたけど、仮に1カ月50万だと高ランクのダンジョンに行ける冒険者なら、ダンジョンに行った方がお金を稼げるから来ないと思うけど……。
京都に近い人達がボランティア感覚でやっていたのかもしれない。
1カ月50万は普通に働くのであれば結構な金額だけど、冒険者やってるとその辺の感覚が狂いそうだ。
「四月一日先輩は何もしないで待機するのってどう思います?」
「……1人だったら空とかボーっと見てたけど、みんなと話すのは楽しいから苦じゃない、よ?」
実は僕らの配置された場所には四月一日先輩もいた。
本来であればパーティーごとに一定の間隔で配置されるわけだけど、僕らは3人しかおらず、四月一日先輩に限っては1人だけのため、ちょうどいい人数になるとでも思ったのか同じ場所に配置された。
今朝、配置場所に案内された時四月一日先輩がいたのには驚いたけど、昨日先輩を探そうとしていたのでちょうどいい。
昨日は声に出してはならない人達と出くわしてしまったせいで、小屋から外に出れなかったからね。
いや、大樹はいいし、別に僕はそこまで……、うん、いや、でも……いやいや名前を口に出す分には大丈夫。
正直、おねショタ、ロリコン、ケモナーとしか覚えてなくて名前がうろ覚えで、直接は接したくないなとは思ってるけど、名前を言う分には気にならない。
だけど乃亜と白波さんが話題に出すだけで顔をしかめて拒絶反応を見せるので、もはや声に出してはならない人達扱いだ。
四月一日先輩と乃亜達のやり取りを見ながらそんな事を考えていると、乃亜がこちらに近づいて来た。
どうしたんだろうか?
「先輩、先輩。いつ四月一日先輩を誘うんですか?」
乃亜が声をひそめて僕に問いかけてきた。
白波さんも同様な気持ちだったのか、何か言いたげにこちらをチラチラと何度も見てくる。
いや、ほら。いざ誘おうと思ったら何を言っていいのか分からなくて、乃亜達が先に会話しだしたから中々話題に出せなかったんだよ。
だって言うなれば、「今日いい天気ですね。じゃあパーティーに入りませんか?」ってくらい脈絡のない会話になりそうだったんだ。
でも、そんな事言っていたらいつまで経ってもパーティーに誘えないし、間が悪く“迷宮氾濫”が前倒しで始まったりしたら、終わるまで誘えないだろうし。
……よし、いくか。
「四月一日先輩」
「……なに?」
さっきまで話しかけていかなかったからか、急に話しかけられて一瞬戸惑ったような反応を見せた。
中々話しかけられなくてすいません。
「もしも四月一日先輩がよければ、試しに一度パーティーを組んでみませんか?」
「えっ?」
「僕はもう、四月一日先輩にされたことに関しては特に恨んでいません。キチンと謝っていただきましたし、接していく中で四月一日先輩が悪い人ではないと分かりましたから」
「……………いい、の?」
「はい。まあパーティーを組んでみて、噛み合わないと思ったら今回だけになるかもしれませんけど、それを確認してみるためにも一度だけどうでしょうか?」
そう尋ねると四月一日先輩は嬉し気にコクコクと頷いていた。
「う、うん。お願い、します!」
「はい、よろしくお願いします」
仮にだけど、四月一日先輩が仲間になった。
あ、でも今更だけど僕と乃亜、デメリットスキル持ちだけどよかったのかな?
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