38話 魔女の過去(9)
≪アグネスSIDE≫
エバお姉ちゃん達と別れてから数日経った。
逃げていく最中に響いてきた轟音がお姉ちゃん達と人間達が衝突したことを証明し、お姉ちゃん達の元へと戻りたい気持ちが湧いてきたけど、それをグッと我慢しアグネス達は別の地へと移動していた。
その時だった。
「え、これは……」
魂を異界へと繋げようと思ったわけでもないのにもかかわらず、アグネスの体に魔素が流れ込んできた。
意識したわけでもないのにあまりにもあっさりと異界に繋がってしまったことに困惑し――その瞬間全てを察して膝から崩れ落ちた。
「だ、大丈夫?!」
みんなが心配してくれるけど、その声が頭を素通りして入ってこない。
理解したくないけど、否が応でも理解させられた。
魂が異界に繋がった際に感じた優しい温もり。
これは間違いなくお姉ちゃん達。
「うあっ、ああっ……!」
分かっていた。
お姉ちゃん達が戻って来れないことなんて頭では理解していた。
叶わない願いだと諦めようとしていた。
だけど心のどこかでは、もしかしたら上手く逃げて戻って来れるかもしれないと期待していたんだ。
でも現実は残酷で、アグネスにお姉ちゃん達はもう戻って来れない事を強制的に受け入れさせられた。
「うわあああああああぁぁ……!」
どれだけ泣いたか分からないけど、気が付けば一緒に逃げていたみんなに背負われて移動していた。
どうやら泣きつかれていつの間にか寝ていたらしい。
「ねえ、一体どうしたの?」
アグネスが目を覚ました事に気が付いたみんなが不安そうにアグネスを見ていた。
みんなもどうやらアグネスの様子から、お姉ちゃん達がどうなったのか薄々ながら察しているのだろう。
アグネスを心配しつつも、何故泣いていたのかの理由を聞きたくないと思っているかのような微妙な表情になっている。
「実は――」
それでもアグネスは何故泣き出したのかを話した。
エバお姉ちゃん達はここにいるみんなの家族なのだから、みんなにも当然知る権利がある。
エバお姉ちゃん達がすでにこの世にはおらず、異界とこの世界を繋ぐ架け橋となりアグネス達が魔素を取り込みやすい状況を創り上げてくれたことを伝えると、全員が泣き始めた。
「うぅ……」
「1人でも戻ってきてくれれば良かったのに……!」
「そんな……最後まで私達のために……」
みんながひとしきり泣くと、再びゆっくりと歩き出した。
目的地なんてない。
あてもなく彷徨うしかないアグネス達だけど、それでもここで立ち止まることだけは出来なかった。
そんな事をすれば、エバお姉ちゃん達が行った事に何の意味もなくなってしまうのだから。
◆
エバお姉ちゃん達の死を知った日からさらに数十日。
アグネス以外のみんなも魔力を供給してもらわなくても魔法を使えるようになっていた。
全員が元々魔法を使う訓練は毎夜していたことなので、一番ネックになっていた魂を異界へと繋げるのがある程度簡単になったのだから当たり前と言えば当たり前なのだろう。
これで移動も楽になるし、生活基盤を整えるのも容易くなると思っていた時だった。
「魔女達を殺せーーー!!」
アグネス達を人間達が追いかけに来た。
その全員が鎧を着て馬に乗っており、とてもじゃないがたかが数十人の少女達を捕まえに来たとは思えない様子だ。
「悪魔を殺せ!」
「あいつらは人類の敵だ!」
「これは聖戦である!!」
どうやらアグネス達の抹殺を目的としており、よほどエバお姉ちゃん達との戦いに被害が出たのか絶対に1人も生かすわけにはいかないという殺意が満ち満ちていた。
「みんな不安にならないで! 私達はもう力のないただの女の子じゃない。みんなで力を合わせて戦えば何とかなるはずよ」
エバお姉ちゃん達と別れてから、この中で一番年長だったためにみんなを率いていた子からの声に、みんなが怯えていた表情から一転してやる気に満ちた表情を浮かべ始めた。
「待って」
そんな熱意にアグネスは水をかける。
「特性を持っていたエバお姉ちゃん達ですら最後にはやられてしまったのに、ここにいるみんなで力を合わせればあの人間達に対抗できると本当に思うの?」
迫りくる大群は100や200ではききそうにない。
いくら全員が魔法を使えるようになったとはいえ、アグネスのようにずっと前から異界に魂を繋げられ、さらにはエバお姉ちゃん達のお陰で大量に魔素を得られるのとは違い、みんなはまだそこまで強力な魔法を使えるよな魔素を得られるほど魂をアグネスお姉ちゃん達の創った〝道〟に長時間繋げられない。
エバお姉ちゃん達も最終的に魔素不足でやられてしまったのは想像に難くなく、似たような状態のみんなでは一瞬しか対抗していられないだろう。
「それじゃあどうするって言うの?!」
「アグネスが足止めする。この中で一番戦う力があるのはアグネスだから」
アグネスなら〝道〟のお陰で以前とは比較にならないほど魔素を大量に得られるし、何よりマザーから特性を渡されているのでそれを自分のモノにすればエバお姉ちゃん達のように戦える。
「そんな……一番年下の子を置いて逃げられるわけないじゃない!」
「それでも逃げてほしいの。エバお姉ちゃん達の犠牲に意味があったと、みんなが生き残ってそれを証明してほしい」
アグネスが絶対に折れないと悟ったのか、それともエバお姉ちゃん達の事を思ってかみんなは渋々ながらも頷きこの場を去って行った。
次話でようやく過去話が終わります。
魔王リーゼ)「ねえ、私の過去話に比べて話長くない?」
作者)『登場人物の差だね。ぶっちゃけ君の話、実質君と宰相くらいしか登場人物いなかったから短めですんじゃったんだよ』
魔王リーゼ)「私の家族をもっと出せたんじゃないの!?」
作者)『それすると復讐相手の宰相君の影が薄くなっちゃうし、出てきた家族をダイジェスト感覚で殺せなくなっちゃうから』
魔王リーゼ)「殺すわよ」
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




