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ああ、課金してぇーー!!!~課金できないから現代ダンジョンでレベルを上げる~  作者: 甘井雨玉
14章

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37話 魔女の過去(8)

 

 街の人達が文字通りの意味で魔女狩りをしにこの家へと向かって来ている。

 残された時間が無い中、アグネス達はエバお姉ちゃんの声に耳を傾ける。


 いつも以上に真剣な表情をしながら、エバお姉ちゃんはこちらに向かっているであろう人々のいる方へと睨んでいた。


「あいつらが本当に家を奪うだけならただ逃げるのもいいわ。

 だけどあいつらは自覚のない盗賊。家だけでなく私達も捕まえて弄ぶに決まってる。

 今まで若い女性が魔女狩りに遭った時、裏でどういう事がされてるか……」


 エバお姉ちゃんが言いたいことは分かる。

 女性にとってとても辛い目に遭わされてることなんだろうけど、想像するだけで気分が悪くなるよ。


「今から移動するにしてもいずれ追いつかれるわ。だからここであいつらを足止めする引き付け役が必要になるわね」

「フヒッ、最小限の人数で足止めするとなると、わたしのようにサポート無しで魔法が使える人だけかしら?」


 ここぞとばかりにサラお姉ちゃんが、魔素を自力で得られない人達に向けてニヤリと笑いながら視線を向けていた。

 いや、嫉妬されたいからってそんな自己主張してる場合じゃないから。


 そんなサラお姉ちゃんに呆れつつ、エバお姉ちゃんは頷いていた。


「ええその通りよ。

 ただしアグネス。あなたは他の子と一緒に逃げなさい」

「な、なんで!? アグネスだってサポート無しで魔法を使えるんだよ!」


 足止めするのなら1人でもいた方がいいはずなのに、エバお姉ちゃんは何を言っているの!?


 そう思いながらエバお姉ちゃんを見るも、その目は絶対に拒否させたりしないと言外に訴えていた。


「でも、あなたはまだ特性を得ていない。特性を得ているのと得ていないのとでは魔法の威力に差があるのは分かってるでしょ。

 それに魔素を自力で得られない子達のために誰か1人は、サポート役として着いて行かないといけないわ」

「だけど――」

「それにね」


 反論しようとするアグネスの言葉を遮り、エバお姉ちゃんが優しい笑顔をアグネスに向けて、そっと頭を撫でてきた。


「まだあなたは12歳で、この中の誰よりも幼いのだからこんな危ない事に参加する必要はないわ」

「そんなの……ズルいよ」


 アグネスだって戦いたい。

 ここにはたくさんの思い出が詰まってて、そう簡単に手放せるものじゃない。


 だけど、他のみんなを守れるのはアグネスだけだし、何よりこれから死地へと向かうお姉ちゃん達のお願いを無碍にはできない。


「分かったよ。その代わり生きて戻って来て!」

「……ええ、分かったわ」


 このお願いが叶わないものだと、アグネスもお姉ちゃん達も分かっている。

 それでも言わずにはいられなかった。

 そんなアグネスの気持ちを汲んで、お姉ちゃん達はただ分かったと言ってくれた。


 それからアグネス達は二手に別れた。


 向かって来ている人間達に対処する組と、この場から逃げて安住の地を探す組で。



 ◆



≪エバノラSIDE≫



「それで、あなた達は本当に囮役でよかったの?」

「クシシシ、何言ってるのエバ姉。囮役をするために私達が残ってるわけないじゃない」

「キシシシ、私達はあの人間達を痛めつけるためにここにいるのよ」


 マリとイザベルの2人はこんな状況であるにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべてむしろ楽しそうにしている。


 普段はいたずらばかりだっていうのに、こういう時は頼もしいわね。


「……ん」

「もぐもぐ」

『みんなのため。

 問題ない。だそうです。

 ……この一言だけならご自分で口に出してもいいのでは?』


 アンリに代弁させたローリーとビディは相変わらず眠そうにしているのと、ひたすらにご飯を食べていた。


「フヒッ、こんな美味しい状況でわたしが逃げるとでも?」

「別に美味しくはないと思うけど……」


 普通の人間達の前で普段使うことが出来ない魔法を思う存分使えば、その力を羨ましいと思ってもらえるかもしれないという点では絶好のチャンスだろうけど、どちらかと言うと畏怖される方が大きいんじゃないかしら?

 まあ本人が納得しているのならいいかしらね。


「ねぇ、みんな」


 私が5人と1匹に向かってそう声をかけると、みんなが私に注目する。


「私達がいくら魔法を使えるとはいえ、多勢に無勢。一時的には有利になれるかもしれないけど、おそらく最終的には捕まるか殺されるわ。

 だから最後の時はあの子たちのためにこの命を使うのはどうかしら?」

「フヒッ、どういうことかしら? 今から命を賭けてあの子達を逃がすのでしょ?」

「そうじゃないわ。私達の命を使って今逃げている子達が誰の助けを借りなくても魔法を使えるようにするのよ」

「クシシシ、面白そうじゃない」

「キシシシ、何をするのかしら?」


 2人同様、他のみんなも興味を示したようで、全員が興味深そうにこちらを見る。


「私達が魔素を得る方法は異界と魂を繋げる事。

 でも一々その方法をするんじゃ得られる魔素は少ないし、そもそも才能が乏しい子は異界と魂を繋げられないわ。

 だから私達の魂を使って永続的に異界とこの世界を繋げることで、魔法を使える素質がある子なら簡単に魔素を得られるようにするのよ」


 私がそう語ると、全員が目を見開いて驚いていた。

 だけど驚愕したのは一瞬だけで、すぐにみんな頷いてくれた。


「キシシシ、いいじゃない。その強欲嫌いじゃないわ」

「クシシシ、悪くないわ、その傲慢な考え」

「……オッケー」

「もぐもぐ、賛成」

「フヒッ、最後の命の使い方としてこれ以上華々しいものはないわね」

『主殿達がそう言うのであれば従います』


 全員が賛同したのを確認し、私は口には出さなくてもお礼の意味も込めて深々と頭を下げた後、顔を上げる。


「決まりね」


 みんなが頷いてくれて良かったわ。

 さすがに1人ではできる気がしないもの。


 才能が乏しい子達のためという言葉に偽りはないけど、一番はアグネスのためだった。


 アグネスがマザーから渡されている特性は“憤怒”だと聞いている。

 今はまだその特性を自身のモノにしていないからアグネスは特性に振り回されなくて済んでいるけど、魔女狩りで他のみんなを守るために動かないといけなくて、力を求めて特性を受け入れざるを得ない状況になるかもしれない。

 でも他の子達が容易に魔法が使えるようになればそうならなくなるはずよ。

 人に怒りを向けないような優しい子にそんな力を使わなくてもいいようにしてあげたいの。


 その為ならどうせ死ぬ命だもの。惜しくないわ。


「それなら早速やりましょ」


 私達ができる最上位の魔法。

 6人全員が力を合わせてようやく使える特別な力。


「それじゃあどんな()を始めましょうか」


 私達は手をつなぎ、力を振り絞って【魔女が紡ぐ物語(トライアルシアター)】を発動させた。


気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。


カクヨム様にて先行で投稿しています。

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