33話 魔女の過去(4)
「出来た! 出来たよエバお姉ちゃん!」
「ええそうね。よく頑張ったわ」
この1年ちょっとの間でみんなとの仲が深まり、姉の様に感じていたことからお姉ちゃん呼びするようになったの。
エバお姉ちゃんって呼んでもいい? って聞いたら嬉しそうに頷かれて頭を撫でられたのは良い思い出だ。
他のお姉ちゃん達も同様で、アグネスが一番年下だったのもあり全員をお姉ちゃん呼びするようになるのも、エバお姉ちゃんと呼び始めてすぐの事だった。
お姉ちゃん達に応援されながらアグネスは毎日頑張って、ついに他の世界に繋がる感覚を会得したの。
「そうかい。ついに出来るようになったのじゃな」
そう言いながら笑って頭を撫でてくれるマザーさん。
ちなみにそのマザーさんだけど、呼び方が変わらないのは仕方が無かったの。
ワシはお姉ちゃん呼びしてくれんのか? って聞いてきたけど、どちらかと言うとマザーお母さんかなって言ったら物凄く渋い顔されたから、最初の呼び方のままになっている。
ワシ、まだ20代じゃのに……、って嘆いていたけど、20歳前後で親になってる人が多いのに何を言っているんだろうかと思った。
彼氏も出来た事ないからに決まっておるじゃろ、って言い出したけど、彼氏が欲しいならまず喋り方とか直した方がいいんじゃないかと思う。
まあそれはいいや。
それよりもこれでようやく魔法が使える下地ができたのだ。
これからはもっとみんなの役に立てるようになるはず!
実際その後、すぐにアグネスはエバお姉ちゃん達のように人の何倍も働けるようになったの。
最初に教わったのは簡単な身体強化の魔法だけど、普段のアグネスじゃ到底持ち運べないような重い物も片手で楽々持ち運べてしまうのだからとても驚いた。
とは言え、他の世界に長時間繋がるのは大変で魔法を使い続けるのは難しかったけど。
「そこは慣れじゃな。他の世界に繋がり魔素を引っ張ってきて、それを圧縮変換して魔力として体に貯蔵するわけじゃが、その量が増えれば一々繋げる必要もなくなるのじゃ」
マザーさんは事もなげにそう言うけど、言うのは簡単でも実際にやるのは難しいよ。
そもそも他の世界に繋がろうとするのが一番大変だし、相応の時間がかかっちゃう。
「当り前じゃろ。ワシですらそう容易くできるものでもないし、長時間繋がっていたら体から魂が抜けて逝ってしまうわ」
「え、何それ怖っ」
というか、そんな重要なこと初めて聞いたんだけど!?
「ちょっとマザー! それ本当なの?!」
「え、ボクかなりの時間訓練してたんだけど……!?」
「「う、うそでしょ……」」
「わたし達はうっかり死んでしまう危険があったのか」
「死ぬ危険があるのならちゃんとワタシ達に教えて欲しかった」
お姉ちゃん達も同様で全員が目を見開いて驚いていたし、誰もそんな話を聞いていなかったようだ。
「すまんすまん。まだわざわざ言う必要がなかったから言うとらんかったの」
「そんな大事な事なのに?」
「じゃって、お主らじゃまだそんな域には達しておらんから、長時間繋がろうとしたところで気力と体力が持たずに途中で止めてしまうからの。
そんな起りもしない危険性を心配して訓練を恐る恐るやられてたら、習得できるものも出来なくなってしまうのじゃ」
まあ確かに。
でも魔法が使えるようになった時点で教えてくれても良かったんじゃないかな?
だってエバお姉ちゃんなんか1年前から魔法が使えるようになっていたのだから、その期間の間に長時間繋がろうとしてうっかり魂が抜け落ちてしまう可能性もあったんだよ。
「何を言うておる。ワシが師からそれを教わったのは魔法が使えるようになった10年後じゃぞ。しかも72時間他の世界に繋がるとか頭のおかしい訓練をさせられた直後に聞かされたのじゃから、そんなワシからしたら今言わんでもええと思うじゃろ」
とんでもない修行をやらされていたマザーさんに驚くしかない。
え、というか3日も繋がり続けるとか無理じゃないかな。
「寝るのは脳を休ませるためじゃから、魂は起きたままでもヘーキヘーキとか言ってやらされたのじゃ……」
マザーさんの師匠さん鬼畜過ぎないかな?
「まあそんな訳じゃからお主らが心配するのはせいぜい、3日は繋がったままでいられるようにならんとの。
……ちなみに魂が抜けると言われとるのは3~5日くらいじゃ」
「3日出来たら駄目なのでは?」
「ギリセーフと師匠は言うとったよ」
どちらかと言うとギリアウトな気がするよ。
まあ魂が抜けてしまう心配がなくなったからいいか。
アグネスじゃ3日どころか1時間も繋いだままでいられないし、エバお姉ちゃんですら半日しか繋いでいられないのだから。
「ちなみに丸1日繋げられるようになったら本格的な魔法を教えるから頑張るんじゃぞ」
え、それじゃあ今教わってるのは一体何なの?
「それは誰でも出来る簡単なヤツじゃよ。……出来れば今からでも教えてやりたいところじゃが、使える魔力が少なければ意味が無いしの」
どこか深刻そうな表情でマザーさんはそう呟いていた。
何をそんなに焦っているのだろうか?
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