25話 覚悟
追いつめていたはずがいつの間にか追いつめられていた。
ここで【魔王】を倒せなければ、この空間から出してしまえば誰もこの【魔王】は止められないだろう。
……もう、やるしかないか。
このままいけば誰かが死ぬかもしれない。
そうなるくらいなら、いっそのこと賭けにでる方がいいだろう。
分の悪い賭けだとは思わない。
5分。
その時間に全てを賭けよう。
「みんな、[メンテナンス]だ!」
僕はそう言いながら走って【魔王】へと近づいていく。
みんなは僕が今から何をするのか察したようで、【魔王】が能力を使えないように牽制しながら僕に攻撃がいかないようにしてくれた。
一方【魔王】は僕が近づいて来ることに対し怪訝な表情でこちらを見てくる。
『女共の後ろでコソコソと隠れていたやつが今更前に出てきてどうするつもりだ?』
「おいこら。事実は人を傷つけるんだぞ!」
『自分で認めてしまってるじゃないか……』
人が気にしてることを言うんじゃない!
呆れた様子の【魔王】は何かをしようとしてくる僕を攻撃しようとしたものの、みんなに攻撃をその都度止められてしまい思う様に動く事すらできないでいた。
みんなに助けられ、僕はようやくスキルの射程距離に入ったので早速そのスキルを使用する。
「[メンテナンス]〝天より落ちし明けの明星〟」
[メンテナンス]の効果は[Now Loading]と似て非なるスキル。
[Now Loading]と違い、相手のスキルを1つだけ5分間封印するというもの。
ただしデメリットとして封印解放後、スキルが一時的に一段階強化されてしまうのだから使いどころが非常に難しいスキルだ。
味方に使えばメリットとデメリットが逆転するけれど、どちらにせよ使い勝手が悪すぎるスキル。
もっともなりふり構っていられなくなった今、使わない理由はない。
『ちっ、一体何をした? まあいい。〝天より落ちし明けの明星〟、っ!?』
〝天より落ちし明けの明星〟が使えなくなったことに目を見開く【魔王】。
どの能力を封じるか少し悩ましいところだったけど、〝堕天使召喚〟で堕天使を呼んでもこの空間内ではまともに動けないし、〝波乱せし終生〟は先ほどまで〝天より落ちし明けの明星〟を使われるまでは封殺できていたので、必然的に〝天より落ちし明けの明星〟となった。
もっとも5分以内に【魔王】を倒せなかったら、強化された〝天より落ちし明けの明星〟により僕らは地面のシミになることが確定してしまったのだけど。
『また能力を封じてきた?! 〝堕天使召喚〟〝天より落ちし明けの明星〟、ちっ、今度は1つだけ封じるものか!』
再び上空に召喚された堕天使達が重力によって自然と落ちてくる。
しかし先ほどと違って〝天より落ちし明けの明星〟が無い分かかる重力が少なくなっているので、落ちてくるスピードも遅くなり、威力も落ちている。
――って言っても僕にとっては十分速いし、一撃受けただけでも致命傷待ったなしだよ!
「先輩は避難を! わたし達は【魔王】をここで仕留めきりますよ!」
『くそっ!』
再度[画面の向こう側]に退避した僕が見たのは、【魔王】が乃亜達の波状攻撃のせいか顔を歪めそれを必死に捌いている姿だった。
だけどいくら【魔王】が〝神への反逆〟で身体能力を強化しているといえど、この空間内での乃亜達を相手に無双できるほどではない。
『〝波乱せし――』
「……させない」
『くっ!?』
唯一全員に確定で効く〝波乱せし終生〟も、いつでも止められるように控えめに攻撃しているオルガが確実に止めに行くので、能力を使用することが出来ないでいた。
まだ2、3分ほどしか経っていないけど、【魔王】は体のあちこちに切り傷や火傷を負っており、このままいけば確実に勝てそうではあるものの油断はできない。
また〝波乱せし終生〟のような能力を使われれば、こちらが立て直している内に[メンテナンス]のリミットがきて、強化された〝天より落ちし明けの明星〟でペチャンコになってもおかしくないのだから。
「……問題ない。【魔王】が隠している能力はもうない」
オルガがそう言うのであれば間違いないか。
なら、このまま一気に仕留めきれそうかな?
『ハアハア……。ふっ、いいだろう』
まるで覚悟を決めた様子の【魔王】。
だけど【魔王】に何もさせまいとオルガが中心となって動いており、能力を使用しようとするたびに阻止されているのに一体何を?
「動けないよう足の骨を折っておく」
「いくら【魔王】でも首を斬られたら終わりだよね!」
いくら敵とはいえ、見た目ほぼ人間相手なので咲夜はまあともかく、ソフィの行動にはよく躊躇せずに首を狙えるなと思うよ。
振りかぶられたレーザーブレードが【魔王】の首を狙うものの、さすがにその攻撃だけは受けたくないのか何とか避けてはいた。
――ボキッ
『ぐあっ!!?』
だけど足元までは避けられず、咲夜の全力の[鬼神]による脚撃により【魔王】は足の骨を折られよろめいていた。
「……させない」
どうやら【魔王】は肉を切らせて骨を断つ覚悟で、大ダメージを負わせた油断をついて能力を使用しようとしたようだけど、オルガが当然それを読んでいるので能力の使用は――
『っ!』
「……嘘!?」
なんと【魔王】が自らオルガの攻撃を受けに動き、オルガの持つナイフを自身の肉体に刺して動けなくしていた。
『受ける気であれば耐えられるものだ。心を読んでいたようだが、能力をいつ使われるかばかりに気を取られていたようだな』
「しまっ――」
『〝波乱せし終生〟』
ボロボロの【魔王】から放たれた全体攻撃が僕ら全員を襲った。
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