24話 苦痛耐性
【魔王】が自分達の上空に召喚した堕天使に向けて右手をかざした。
『〝天より落ちし明けの明星〟!』
「なっ!?」
この空間内の効果で重力のデバフを受けている堕天使達に対してさらに重力を加える。
一見ただの自爆だけど、それが上空にいるとなると話は変わった。
神風特攻、ようするに自爆攻撃である。
まずいっ!?
僕は慌てて[画面の向こう側]で避難するけど、みんなは大丈夫か?!
「ちょっ、シャレにならないですよ!?」
「〈解放〉。くっ、迎撃しきれない!?」
「はあっ! うっ、重い……」
「……何も考えていないから全く読めない」
「避けられないならワタシの下に来て! 〔不定形な防御陣〕」
「すまん、助かる!」
上空で召喚された堕天使達が持つ各々の武器を地面へと向けて構えており、空間内の効果と【魔王】の能力、そして元々の重力によって加速され猛スピードで落下してくる攻撃は脅威だった。
ソフィが3つの水球が5分間様々な形になって攻撃から身を守ってくれる〔不定形な防御陣〕を展開することで、誰もその攻撃の被害を受けてはいないけど防ぐので精一杯のようだ。
1体1体が爆弾みたいなもので、地面に着弾するたびに地面とその肉体を爆散させているグロイ光景を生み出していた。
幸いにも死んだ堕天使はすぐにその肉体が消滅しているから、砂ぼこりが舞うのもあってあまり酷い光景にはならないけれど、そんな事よりも次から次へと降り注ぐ堕天使の雨のせいで【魔王】を相手する余裕が奪われてしまうのが問題だった。
『いいのか、私を放置して?』
「しまっ――」
『〝波乱せし終生〟』
突然の静寂。
先ほどまで激しい着弾音が響いていたのに、まるで世界から音が無くなったかのようだ。
いや違う。
無くなっているわけじゃない。
止まっている。否、自分自身の時間が引き延ばされてそう感じているだけだ。
さっき【魔王】が能力を使用したにもかかわらず、何も起きなかったように感じたけどそうじゃなかった。
これはただの――魔王の走馬灯だ。
「がはっ!」
『ぐぅ!』
【魔王】がかつて受けた苦しみをダメージという形にしてお互いが受けるということはそういう意味か。
1度目はいきなりすぎて分からなかったけど、2度目でようやく理解した。
【魔王】の過去が見えたりしたわけではないけれど、おそらく【魔王】がこれまで生きてきた上で苦しかった感情が僕らの魂に直接流れ込み、その苦痛が肉体を蝕みダメージとなったのだ。
その際のダメージの差はおそらく――
「苦痛や不幸への耐性をどれだけ持ってるかでダメージが変わる能力か」
自身が生きてきた過去と突然流し込まれる魔王の悲劇とのギャップが、魂を傷つけ肉体にそれがフィードバックしてしまうようだ。
【魔王】までダメージを受けるのはトラウマレベルの過去のせいで多少なり魂が傷つくからかな?
『ぐふっ……。ほう、分かったか。不幸自慢など下らんが、私の過去は中々に重いだろ?
だが貴様は思ったよりもダメージを受けていないようだな』
みんなが倒れ伏す中、僕だけは口から血を流す程度で膝も突いていなかった。
さっきはいきなりの衝撃で身構えられなかったけど、来ると分かっていれば十分耐えられるものだからね。
とにかくみんなを回復させないといけないと思い、また[画面の向こう側]を解除して外に出る。
もちろん時間稼ぎのための会話も続けてだ。
「生憎爆死には慣れてるんでね」
『なんと! その年で、しかも私達が動く前は比較的平和なこの世界で苦痛に慣れていると嘯くか。貴様、よほどの修羅場を潜り抜けたのだな』
「否定はしない」
数多の戦場を渡り歩いた見習い課金戦士と呼ぶがいいさ。
……あ、僕にはもうその資格無かった。泣きたい。
僕は【魔王】がまだ動けない内に近くにいた咲夜とソフィに近づいていく。
「咲夜、僕とソフィを少しの間だけパーティー入れ替えるから、その後で[全体治癒]をお願い」
「う、うん。分かった、よ」
「ソフィ、ステータス画面を」
「ぐっ、了解……」
[全体治癒]が出来るように一瞬だけ自身とソフィをステータス画面を操作してパーティーをチェンジする。
リヴィは〔終わりを知らぬ伝説〕がありすでに回復して【魔王】を牽制してくれているからいいとして、オルガは〔穢れなき純白はやがて漆黒に染まる〕で回復させないと。
まだ軽傷である自分はポーションでごまかしておこう。
「……ん、ありがとう」
オルガは回復してすぐに【魔王】へと攻撃を仕掛けだした。
〝堕天使召喚〟も〝波乱せし終生〟も使用させないためだろう。
なにせ次に〝波乱せし終生〟を使われたら後が無くなる。
【魔王】が〝波乱せし終生〟を連発できず、使用した直後は動けないお陰で回復できる猶予があるけれど、問題はリヴィを除くと回復手段が[全体治癒]が後1回と[有償ガチャ]で出たエリクサー2本にポーションくらいしか残っていないからだ。
しかもポーションでは完全回復とはいかないため、次に〝波乱せし終生〟を使用されたら2人は動きが鈍るか、最悪戦闘に参加できなくなるだろう。
それを防ぐためにみんなが【魔王】にその隙を与えないように必死に攻撃している。
さっきまではこっちが圧倒的に有利だったはずなのに、いつの間にか立場が逆転していた。
まさか乃亜の最終派生スキルを使用している状態でここまで追い詰められる事になるだなんて思いもしなかったよ。
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