20話 〝神への反逆〟
『〝神への反逆〟』
笑みを浮かべた【魔王】がここにきてさらに新たな能力を使用した。
その能力は単純明快。
神や神を信仰する者と敵対するほど身体能力が上昇するというもの、とオルガが【魔王】を[マインドリーディング]で心を読んで教えてくれた。
しかしその能力が何かを分かっていない周囲の人達は何か分からない恐怖も合わさって驚愕に目を見開いていた。
「なんだあの力は?!」
「バケモンだろ!?」
「まだこんな能力隠してたのかよ!」
【魔王】の拳はガードしても楯ごと人体を貫き、ただの蹴りが凄まじい風圧を生み出し魔法による攻撃すら届かなくなってしまっていた。
まるで無双ゲーのごとく次々と迫りくる人間を殴り飛ばしている。
咲夜の[鬼神]以上の恐るべき身体能力を得てしまってるじゃないか……!
「この場の無宗教者って、むしろ少数だよね……」
「わたし達日本人はむしろ多数派ですが、外国だと逆ですもんね」
「私や家族は無宗教だが、イギリスでは7割以上は何かしらの宗教に入ってるな」
ここがイギリスである以上、この場にいる軍は当然イギリス人で構成されている訳で、少なく見積もってもその7割が神を信仰しているとなると、あの身体能力の大幅な強化も納得しかない。
というか軍だけでなく、あらゆる国からここに来ている冒険者の大半が宗教に入っていることを考えると、7割どころの騒ぎではないのは確実だ。
無宗教の人が多い国は6か国しかないことを考えると、まさに人類の天敵と言ってもいい能力では?
正直言ってあの能力だけでこの場にいる人間を倒せてしまうんじゃないだろうか?
「うわっ、さっきまでダメージを与えれてた金の紋章持ちも次々にやられていくわ」
「かなりレベルの高い人達で【魔女が紡ぐ物語】討伐経験もあるのに、ね」
冬乃と咲夜が枝や堕天使達を倒しながら見ている先では、冒険者達がボウリングのピンのごとくまとめて吹き飛んでいた。
冒険者の中には明らかに〔典外回状〕のような強力な力を使っているにもかかわらず、多少の傷は与えられても致命傷とは言えない程度のダメージしか与えられていないように見える。
〝神への反逆〟で上がった身体能力で動きを見切って最小限のダメージになるようにしていると考えると、やはり今のままではとてもじゃないけど勝てそうにない。
「みなさん、一旦ここから離れましょう」
どうしたものかと思っていた時、乃亜がそんな事を言った。
「え、離れるの?」
「……なるほど」
「オルガは何かわか――って、[マインドリーディング]か」
ソフィがオルガに何故か問おうとしたけどオルガが納得した様子を見て、とりあえず乃亜の言うことに従う事にしたようだ。
他のみんなも何のつもりかは分からなくても今の状況のままでは良くないと分かっているので、同じようにこの場から離れることを否定しなかった。
とりあえずリンゴの枝が伸びてこない位置まで離れたはいいけど、ここからどうするのだろうか?
「先輩、外に出てきてもらってもいいですか?」
「分かったよ」
堕天使達が攻撃を仕掛けては来ているけど、咲夜達があっさりと処理しているので外の危険はほとんどないから問題ない。
外に出ると何故か僕を囲むようにしてみんなが立っており、僕を守るというよりまるで獲物を逃がさないかのような布陣だった。
スゥー。ああ、なるほどね。
「アヤメちゃん、シロさん、クロさん、しばらくわたし達を守っていただけますか?」
『あ、了解なのです』
『ん? よく分らんが承知したのじゃ』
『とりあえず我らは堕天使を倒していればよいのだろ?』
離れた場所にいる僕らに対し、堕天使達はときおり襲い掛かってくるだけなのでアヤメ達でも十分対処できる数しか来なかった。
おい、もっと来いよ。
いや、来られると困るんだけど、妨害してくれる方が精神的にはありがたいというか。
何をするか察してしまった身としては、出来ればそれは最終手段にしたいんだけどダメだろうか?
「……嫌?」
「周囲の目があるのが嫌なんだよ……」
さっきの今だし、それに加えて先ほどはまだ戦闘が中断しているタイミングだったから問題なかったけど、今は【魔王】と必死になって戦っている人達がいる状況なのが問題なんだよ。
命がけで戦っている人から見える場所でさっきよりも過激な事するとか、周囲の視線が絶対零度になってしまう。
「あの様子じゃ誰も【魔王】を倒せないでしょうから、このまま放置したら人命はほぼ失われて当然文明は消えてなくなりますね」
「よし、やろう!」
悩んでる暇なんてなかった。
周囲の目? ガチャのない世の中並みに価値なんてないよ。
「う~ん相変わらずの変わり身の早さ」
「もうなんとなく察したけど、アレやるのね……」
「冬乃先輩は嫌なんですか?」
「蒼汰も言ってたけど周囲の目があるのが嫌なのよ。というか、それであの【魔王】に勝てるのかしら?」
「正直分かりません。ですが今のままではどの道誰も勝てませんよ。
大勢の人間がいる場所で〝神への反逆〟なんて使われたらそれだけで勝ち目がありませんし、かと言って少人数で勝てる方法なんてもうこのくらいしか無くありませんか?」
無宗教の人間だけを集めて【魔王】と一緒に隔離する事が〝神への反逆〟の対抗策となるけれど、問題は無宗教で【魔王】と戦える戦闘力を持っている人間がどれだけいるかと、その準備に時間がかかることだろう。
そんな事をしていたら間違いなくいくつもの国が滅んでしまう。
だったらいっそのこと僕らだけで挑んでみる方が良い。
最悪他の冒険者の人達とかがここから逃げて態勢を立て直す時間はできるだろう。
「アヤメ、僕らがこの場から消えたら指示役と周囲に説明をお願い」
『らじゃーなのです!』
どの道この場にいる誰もが【魔王】への対抗手段はなさそうだからやってもいいでしょ。あったらすでに行動しているだろうし、大雑把な指示を受けて各々が考えて【魔王】と戦うことになっているのだから勝手に動いても問題ない。
「それでは行きますよ。最終派生スキル[恋い慕うあなたを囲う]!」
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




