18話 ちゃうねん
リヴィと他全員の再強化は無事終わったわけだけど、周囲の視線は非常に痛かった。
もう何してんだこいつら的な視線がビシビシときて痛すぎるんだよ……。
『こんな場所で何してるんだ貴様ら?』
怒り狂っていたはずの【魔王】にすら呆れた目で見られた。
悲しすぎる。
『ふざけた奴らだ。……ふむ。一瞬勝手に〝天より落ちし明けの明星〟が発動していたな。ということは遅延系だったのか? まあいい。〝堕天使召喚〟』
正気を取り戻した【魔王】が僕の[Now Loading]の効果を察した後、再度堕天使を召喚したけれど、何故か堕天使達をすぐにけしかけて来ずにジッとこちらを見てきた。
一体どうしたのだろうか?
「えっと、なに?」
『いや、何と言うか毒気は抜かれたというか、こんな場所で睦まじい姿を見せられたせいか、〝怒り〟がどこかにいって冷静になれたよ』
何とも言えない表情でこちらを見る【魔王】。
ちゃうねん。何もかも全部スキルが悪いんや。
『お前らのような者達ばかりであったら、私達もこんな事をしなくて済んだのかもしれないな……』
「それはそれで人類が頭ハッピーすぎないか?」
「もうちょっと羞恥心はあった方がいい」
「人前でところ構わずとっかえひっかえな人間ばかりとか終わってない?」
周囲の冒険者が好き勝手言いよる。
【魔王】のシリアス感返してあげてよ。
『ふっ、違いない。さて、続きと行こうか』
そう言って【魔王】は召喚した堕天使でまた攻撃を仕掛けてきた。
戦う気が無くなってダンジョン内に戻るとか、そんな甘い展開はあるはずもないか。
「気を付けろ! あいつは【魔王】であり【ルシファー】でもあり【サタン】でもあるぞ!」
『[鑑定]でも使ったか? 分かったところで対策が取れるわけでもないだろうから構わんが』
やっぱりそうなのか。
冒険者の人が【魔王】の力の正体を教えてくれたけど、先ほどから【魔王】の使う能力の名前的にある程度予想は出来ていた。
とはいえ、【ルシファー】か【サタン】のどちらかではなく、2つ、いや【魔王】も合わせて3つの【魔女が紡ぐ物語】となると、【四天王】と戦った時以上の強さと言える。
クロとシロはともかく、“嫉妬”の魔女と“暴食”の魔女の時は同じように3つ、4つの重ね掛けだったはずなのだけど、あの2人はわざわざその力を分割して結界とかに使用していたので、戦闘力で言えば間違いなく目の前の【魔王】の方が強いだろう。
『さて、今度はどうする気だ?』
「……さっきの来る!」
【魔王】が再び前方に手をかざした瞬間、オルガが警告してきた。
僕は[画面の向こう側]で退避し、みんなは一斉に【魔王】が手をかざす方向から離脱する。
『〝天より落ちし明けの明星〟』
【魔王】の放つ重力攻撃がその手をかざした方向の人達を堕天使を巻き添えにして襲い掛かる。
「危ないところでした」
乃亜の視線の先では、その重力攻撃を食らってしまった人が堕天使達と一緒に押しつぶされていた。
『このまま潰れろ』
ミシリとどこかから音が聞こえた気がした。
気のせいだと思いたかったけど、あの攻撃を堕天使も合わせると数百人が受けているのでそれは無理があった。
――ボキッ!
「「「ぎゃあああああ!!?」」」
一斉に骨の折れる嫌な音が聞こえた。
何人かは自前のスキルか【典正装備】の力で押しつぶされるだけで済んでいるようだけど、そういった対処方法を持たない人は軒並みやられたようだ。
『全員、【魔王】が手をかざしたらすぐさまその方向から退避するんだ! さっきは誰かが対処してくれたが、対処した者の能力がインターバルがあるものならもう使えなくてもおかしくない以上、自力で対処するしかないんだぞ!』
まさに拡声器から響いてきた声の言う通りだ。
〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め・黒水偽鏡〕が〔典外回状〕である以上、1週間のインターバルがあってもう使用できない。
唯一の方法は〔太郎坊兼光・破解〕を使って無理やり使う事だけど、筆でなぞる必要がある以上周囲の人達にしか対応できないから当てにはできない。
それにあの方法、【ドッペルゲンガー】の時なんとか使えたけど、無理やりインターバルを誤魔化してるせいかインターバル中はおそらく1回が限度っぽいし。
『注意したところで簡単に避けられるものではないぞ。それに私が使える能力が〝天より落ちし明けの明星〟だけではないのはもう知っているだろ?』
「……【イモータル】を殺した攻撃がくる!」
あの強制地獄送りの攻撃か!?
『〝開かれし地獄の扉〟』
魔王の背後に生えていた大きな枯れた木の中心が再び大きく裂け始める。
「あの地獄に送る能力だけは食らったらダメだよ!
矢沢さんの[役者はここに集う・緞帳よ上がれ]で蘇らせれないかもしれないから!」
【ドッペルゲンガー】の時に別空間にいた僕らを呼び寄せられなかったという話があるので、この場で死ぬのであればともかく、明らかに別の空間に引きずり込まれて死ぬとなると復活できるかは賭けになってしまう。
さすがに自分や乃亜達の命を賭けて試したくはないよ。
そもそもここで僕らだけでなく全員死んだら【魔王】の被害がさらに増え、最悪人類が滅んでしまう。
僕は枯れ木が裂けた箇所からリンゴが生っている枝が伸びてきたのを見ながら、どうやって【魔王】を倒すか思案した。
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