15話 久々のスキル。忘れてないよね?
【魔王】がこちらに向かって手をかざし、何かしらの能力を使用したと認識した次の瞬間、僕らは急に体が重くなり立っていられなくなってしまった。
「ぐっ、何これ?!」
重力操作系の能力か?
【魔王】が手をかざした方向にいるものは軒並みこの能力を受けて膝を突いていた。
ただそれは僕らだけではなく、空を飛んでいた堕天使もだった。
『むっ、しまった。堕天使どもまで巻き込んでしまったか』
堕天使に関しては意図したことではないようだ。
そうなると、この能力は対象指定じゃなくて範囲指定だと分かるけど、分かったところでどうしろと?
『まあいい。まとめて潰れろ』
【魔王】が軽く腕を振ると僕らにかかっていた重力がさらに強くなり、膝を突くどころかうつ伏せにさせられてしまった。
「ぐあああっ!?」
肺の空気全てを吐き出させられているかのようだ。
このままじゃペチャンコになって、地面のシミになってしまう。
咲夜ですら膝立ちの状態なのだからシャレになっていない。
くっ、[画面の向こう側]で逃げるにしても、誰かが【魔王】のこの攻撃を何とかしてくれないとみんながやられていまう。
だけど範囲外にいて無事だった人達が遠距離から攻撃を仕掛けるも、重力のせいか届いてないし、こうなったらやるしかないか。
「〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め・黒水偽鏡〕!」
取り出した〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め〕が光の粒子となって空へと昇ると、そこに突然雨雲が出現する。
『なんだ?』
出来れば相手が何をしてくるか分からない以上、切り札は残しておきたかったけど仕方がない。
シトシトと振り始める黒い雨が周囲一帯を濡らし、あらゆる効果を反転させてゆく。
「う、動けるぞ!?」
「なんか知らんが今のうちだ!」
「だが体がだるいな……」
体がだるいのはその人が受けているバフの効果まで反転してしまっているせいだ。
もっとも重力らしきものを反転させて体は軽くなっているので、そこまで支障はないはず。
というか、このまま潰されるよりは断然マシだろう。
『ふん、やってくれるな』
【魔王】がそう言って明らかに僕に目を向けてきた。
あ、明らかにターゲットにされてるぅ……。
『ではまず貴様からだ』
〝天より落ちし明けの明星〟を解いて、【魔王】がデスサイズを構えてこっちに向かって駆けだしてきた。
「みんな、お願い!」
いくら重力操作を無効にしたところで僕が【魔王】と正面から戦えるはずもないので、〝天より落ちし明けの明星〟が解かれた瞬間、僕も〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め・黒水偽鏡〕を解除してみんなの反転しているバフを元に戻す。
「先輩には手出しさせませんよ!」
乃亜はすぐさま僕と【魔王】の間に入ると、【魔王】のデスサイズを受け止めてくれた。
「ここだ!」
「あの重力攻撃がなければこっちのもの!」
オリヴィアさんとソフィが【魔王】を左右から挟むように攻撃を仕掛ける。
「……っ!? ダメ、離れて!!」
『〔地獄へ誘う深淵の御手〕』
オルガが叫んだと同時に【魔王】の足元から僕の身長くらいはありそうな、2本のゴツゴツとした巨大な黒い手が生えてきた。
「「ぐあっ!?」」
オルガの忠告もむなしく、2人はその手に殴り飛ばされてしまう。
『これが貴様らが度々使う【典正装備】の力か。悪くないな』
重力操作のインパクトのせいで頭の片隅に追いやられていたけど、そう言えばあの手に持ってるデスサイズは【典正装備】なのだから何かしら能力があるに決まってるか。
単純に2つの手を操る能力でいいのかな?
僕がチラリとオルガを見ると、コクリと頷いて僕の考えを肯定してくれた。
「……あの黒い手はマニュアル操作でしか動かせず、使用者から離れることはできない。力は強いけどそれ以外の特殊な能力はない」
それならまだマシだね。
もしもあの手がさらに特殊能力でも持ち合わせていたら、それまで警戒しないといけないところだった。
「マニュアル操作なら考える隙を与えないといいんでしょ。[狐火]!」
「えいっ!」
殴り飛ばされたオリヴィアさん達の代わりに、冬乃と咲夜が今度は地面から生えてる手を避けて【魔王】に直接攻撃を仕掛ける。
『舐めるなよ。あの黒い雨が降っていないのなら、再び地に押しつぶしてやるまでだ。〝天より落ちし――』
「[Now Loading]!」
『明けの明星〟。発動しない?! ぐぅ!?』
燃やされ蹴り飛ばされた【魔王】が苦悶の表情を浮かべた。
よし! [画面の向こう側]で退避せずにずっと外に居続けた甲斐があったね。
[Now Loading]は能力やスキルの発動を1分遅延できるから、これで【魔王】はその間あらゆる能力が処理待ちで使えなくなる。
できれば重力操作で動けなくなってしまう〝天より落ちし明けの明星〟を[メンテナンス]で封じてしまいたかったけど、あれは[Now Loading]と違って5分も封印できるかわりに[メンテナンス]明けにその能力が一段階強化されてしまうので使えない。
ただでさえ全く動けなかったのに、その能力が強化されたら一瞬で地面のシミにされてしまう能力になってしまうことだろう。
5分以内に倒せるなら別だけど、さすがにそれが出来るだなんて楽観的な考えは【魔王】相手には危険すぎる。
「みんな、今の内だ!」
僕のスキルを知るみんなはこの1分が最大のチャンスだと悟ったのか、各々自身が出来る最大の攻撃を仕掛けだす。
『〝開かれし地獄の扉〟……ちっ、ダメか。封印系か? 全能力を封じるほど強力な力ならそれほど効果時間は長くないはず。堕天使共、こいつらを打ちのめせ!』
さすがにすでに発動している能力が消えるわけではないとすぐに悟ったようで、【魔王】はまだ大量に生き残っている堕天使へと指示を出していた。
堕天使達に邪魔される前に出来るだけダメージを与えないと!
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