13話 報復
≪蒼汰SIDE≫
第二ラウンドだと【魔王】は宣言したけれど、すぐにこちらに向かって攻撃はしてこなかった。
『――と、言いたいところだがそれよりも先にやる事がある。グレゴリー、最後に何か弁明はあるか?』
蝙蝠のような大きな翼を生やした老人に向かって【魔王】がそう問いかけると、その老人は震えながら口を開いた。
「シ、仕方ガナカッタンデス。悪魔族ノ問題ダケデハナク、全テノ種族ノ存続ノタメ――」
『知るか』
「ヒギィイ!?」
弁明の意味よ。
魔法かなにかはよく分からなかったけど、老人に向かって手をかざしたら、そのまま老人が押しつぶされてぺちゃんこになってしまった。
だけど【イモータル】であり不死であるためか、グジュグジュと嫌な音を立てながら元の肉体へと戻っていく。
『ふっ。今の私には元の魔王としての力もなければ契約もないから貴様にいくらでも危害を加えられる。あの時こうだったらと何度思った事か』
「ア、ギッ、ガア……。チ、違ウンデス……」
体が元に戻る際にも苦痛があるのか、骨とかバキボキ鳴らしながらもなんとか老人は言い訳しようとしていた。
『何が違う』
「ピギィ!?」
【魔王】が老人の腕を掴むと、容赦なくそのまま引きちぎって地面に捨てていた。
『私が何よりも大切だった家族が殺された。ただその事実があるだけだ。それ以上でもそれ以下でもないわ!』
「ヒイッ!?」
【魔王】の怒気に恐怖した老人は、少しでも身を守る為か情けなくその場にうずくまりだした。
『散々嬲り殺してやったが、やはり貴様や他のやつらの顔を見るのももううんざりだ。
シンディ、クライヴ、もういいな?』
『……も、もういい、とは?』
クロがそう尋ねると【魔王】は決まっているだろ、と言いたげな顔で老人を見下ろしていた。
『こいつらをなぶる時間は終わりだ。〝失楽園・禁断の果実〟』
突如【魔王】を中心に世界は変化した。
空は赤く染まり、大地は渇き、枯れた木が一本【魔王】の近くに唐突に生えてきた。
「周辺一帯を変化される能力なの!?」
僕らはいきなりの事に騒ぎ出すが、【魔王】はそれを気にとめる事なく冷たく【イモータル】達を見降ろした。
『貴様らに相応しい場所へと送ってやる。〝開かれし地獄の扉〟』
枯れた木の中心が唐突に裂けたと思ったら、そこからリンゴが生っている枝が飛び出し【イモータル】達へと絡みついていく。
『喜べ。貴様らは果実の力で不死ではなくなった。あとはあの先の地獄で未来永劫苦しむがいい』
不死にすら死を与えられる力に加え、地獄に直接送れる力か。
どんな能力を持っているのかその一端が分かったけど、これマズくない?
魂を別空間に送っているのだとしたら、下手したら矢沢さんの[役者はここに集う・緞帳よ上がれ]で蘇らせれない可能性があるのでは!?
確証がないけれど、どっちにしろあんな風に捕まって地獄に送られるのは絶対に避けたい。
「ハ、ハナセ!」
「イヤダ! 普通ニ死ナセテクレ!」
「死ンデモ苦シムナンテ嫌ダ!」
先ほどまで死に疲れて元気のなかった【イモータル】達だったけど、今すぐにでもこの場を離れようと必死にもがき始めた。
だけど体に絡みついた枝が抵抗の一切を許さず、ズルズルと【イモータル】達を引きずり込んでいた。
一気に引きずり込まずにゆっくりと引きずられているのは、恐怖を存分に味わわせるためだろうか。
その意図があったとしたら間違いなく成功しており、どの【イモータル】達も泣きわめき口々に嫌だ嫌だと叫んでいた。
一体、また一体と裂けた木の中へと入っていき絶叫が周囲にこだまする。
裂けた木の間からわずかに見えた光景、赤黒い血の川に燃える大地がチラリと見えたけど、それはこの世のものとは思えず地獄だと言われれば納得するものだった。
ズルズルと引きずられていった【イモータル】達の最後の1人はあの老人だった。
「タ、助ケテ……」
『嫌に決まってるだろ』
最後に【魔王】は自ら蹴って老人を地獄へと送りとばした。
「ウアアアアアアアーー!!!」
老人が地獄に送られた後、先ほどまで見えていたおぞましき光景が幻覚だったのかと思うくらい、枯れた木はあっという間に元の姿に戻っていた。
そんな衝撃的な光景を見せられた僕らは、さらに驚愕の光景を目の当たりにする事になった。
――ポンッ
『ん? ああ、これが【典正装備】とかいうやつか』
「はあっ?!」
何故か【魔王】の前に宝箱が現れたのだ。
【魔女が紡ぐ物語】を討伐した者へと報酬としてもらえる、あの宝箱がだ。
「そんな、自分で出した【魔女が紡ぐ物語】から報酬を手に入れるとかありなの?」
ありかなしかで言えば実際に出来てしまっているのだからありなのだろうけど、いくらなんでもそれは卑怯すぎるよ。
『さっきの奴らは私ではなくアグネスが生み出したのだから問題ないのだろ。そもそも私にはさっきのを生み出す事はできん』
僕のつぶやきを拾ったのか、わざわざ疑問に答えてくれた。
もっとも答えが分かったところで、それは無しでしょ、という気持ちが消えることもなければ、目の前の【魔女が紡ぐ物語】である【魔王】が【典正装備】を手に入れてしまったという事実には変わらないのだけど。
『さて待たせてスマンな。お前達は魔王の復讐対象ではないが一応【魔王】の復讐対象だ。一切手を抜かないから覚悟するといい』
そう言って【魔王】は宝箱からデスサイズを取り出して構えた。
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