15話 試験(3)
放たれた弾はゴーレムへと当たるも、まるで強力な接着剤でもついているかのように、弾かれずにそのままくっついた。
遠目からは薄っすらとしか結界が覆っている程度だったために見えなかったけど、くっついている弾を中心に、まるで水で溶かして薄くなった墨汁のような薄黒さが徐々に広がって、ハッキリと結界が分かるようになった。
「吹き飛びなさい。〈解放〉!」
白波さんが即座にゴーレムへ向かって〔籠の中に囚われし焔〕を使用した。
さっきまでであったら、ゴーレムに傷1つ付かなかった。
――ドオンッ!!
先ほどと変わらぬ威力がゴーレムを襲い――他のゴーレム同様、バラバラになって吹き飛んだ。
〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め〕
僕が得た【典正装備】の効果は結界浸食だ。
墨を直接結界へと付けるか、物に纏わせて結界にぶつけることで効果を発揮する。
墨が触れた箇所から徐々に広がり、結界の効果を反転させる。
つまりは綺麗な水を汚水に変えたように、ゴーレムの硬い結界を、壊れやすいほど脆い結界へと変質させたのだ。
悲しいくらい攻撃力は無い代わりに、結界に対して抜群の性能を発揮する。
まあ〔ゴブリンのダンジョン〕ではゴブリンメイジしか結界なんて張らず、しかもわざわざ僕の【典正装備】を使わなくても余裕で倒せるため、使いどころが今の今までなかったけどね。
乃亜達の【典正装備】のようにインターバルはないけれど、これを連続で使う日なんて来る気がしないんだけど……。
「……まさかあのゴーレムを倒してしまうとはな」
……ん?
試験官の独り言が聞こえて来たけど、今おかしな事言わなかった?
乃亜達も聞こえたようで、僕らは3人顔を見つめ合った後頷くと、試験官の方に駆け寄っていった。
「すいません。今、倒せないはずのゴーレムを倒してしまったみたいに聞こえたんですけど、どう言う事ですか?」
「ああ、聞こえていたか。いや、なに。この試験、実はゴーレムを全て壊す必要はない」
「「「は?」」」
え、始まる前、試験はゴーレムを全て壊すことって言ってたじゃないですか!?
「あえて受験者に全てを壊すことと言っておき、壊せないゴーレムに対してどう対処するのかを見るのがこの試験の目的だ。
それに試験は白線を跨いだら不合格とは言ったが、全てを壊せば合格だとは一言も言ってないぞ」
はい?!
……あれ? そう言えば合格に関しては一言も言われてない!?
でも試験内容を言ってただけだけど、それをこなせば合格だと普通思うよね!?
「えっ、じゃあ僕らはどうなるんですか?」
「合格だが?」
合格なのかよ!
「壊せないものを壊せる実力者なら参加してもらった方がいいに決まってるからな。では試験は終わりだ。あそこの扉から出て受付にいくといい」
なんだか僕らは釈然としない気持ちを抱えたまま、試験場をあとにした。
扉から出ると施設の廊下で、目の前の壁にはロビーがどっちなのか矢印が書いてあったので、そちらに行けば受付に行けるのだろう。
だけど僕らは脱力してしまったために、その場から誰も動こうとしなかった。
「なんだか最後にどっと疲れたわ」
「【魔女が紡ぐ物語】の時に比べれば、戦闘もさほど大したことはなかったんですけど……」
「もしも【典正装備】がなかったら、あのゴーレムを必死に足止めしてたと思うとマシなんだろうけど……」
壊さなくていいなら先に言って欲しかった感が凄く強いよ。
「まあいいわ。結果的に合格なんだし、これで“迷宮氾濫”に参加できるわね!」
「そうですね。目標は達成しましたし、今は合格したことを素直に喜びましょうか」
2人はサッと気持ちを切り替えていたので、僕もその流れに乗ろうと“迷宮氾濫”への準備を相談しようとした時だった。
――ドオンッ!!!
「うわっ、な、なに!?」
「「きゃっ!?」」
扉の向こうから凄まじい轟音が響いてきたけど、噓でしょ?
この扉、映画館とかにある分厚い扉の2倍くらい厚く、さっき試験で待ってた時は中で何をしているのか何も聞こえなかったくらい防音性が高い代物なのに、その防音性を抜けてこっちにまで音が響いてくるとか、中で一体何が起きているんだ!?
唖然としながら扉を見ていると、その扉が開いていく。
「あ……」
「四月一日先輩、もう終わったんですか!?」
「うん」
僕らの後は当然四月一日先輩なのだから、扉から出てくるのは当たり前なんだろうけど、僕らが試験場を出て3分ほどしか経ってないはずなのに、いくらなんでも試験が終わるのが早すぎでしょ!?
「ちなみに結果はどうだったんですか?」
「合格した」
そりゃそうだよね。
実質1分しか戦闘にかかってないだろうし。
そんな短い時間で、あの動きの遅かったゴーレムが白線を超えることなんて有り得ないから、1分で全てのゴーレムを倒したんだろうけど……。
「とても硬いゴーレムいましたよね?」
「何回か殴ったら、壊れた、よ?」
首を傾げて何でそんな事を聞くんだろう、といった反応をしてるけど、白波さんの【典正装備】で傷1つ付かなかったのに、そんな、ちょっとだけ硬かったかな? みたいな返答されるとこっちが反応に困るよ。
「ふあ~、四月一日先輩ものすごく強かったんですね」
乃亜が驚きながら四月一日先輩を褒めていた。
「う、うん……」
おや? 強さを褒められたけどあまり嬉しそうじゃない、どちらかと言うと戸惑った様子だ。
まああまり人と関わってないみたいだから、褒められるのに慣れてないだけなんだろうけど。
「四月一日先輩、私たちも合格したんです。今から受付に行くところなので一緒に行きましょ」
「うん」
白波さんに先導されて僕らは一緒に受付へと向かった。
◆
≪試験官SIDE≫
「俺のところに来た受験生の内、11番、14番、18番、19番はユニークスキル持ちのチームか」
俺は手元の紙をめくりながら、先ほどまで試験をしていた連中のデータを眺めていた。
「11番、14番にいたユニークスキルは[拳舞][森人化 (エルフ)]で大したスキルではなかったが、問題は18番、19番か」
手元の紙をコツコツと18番、19番の記録用紙を思わず叩いていた。
「18番は1人はただのユニークだが、2人は明らかにデメリットスキルか。だがそれよりももっとヤバいのが19番だな」
本来この試験場は、Bランクのダンジョンの魔物が攻撃しても耐えられると言われているんだがな……。
「化け物め」
19番の化け物にゴーレムが叩きつけられ、天井までヒビの入った壁を見ながら、俺はポケットに入ったタバコを取り出した。
気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。




