7話 やったか!?
[鬼神]〝臨界〟
普通の[鬼神]ですら同レベル帯では他を寄せ付けないほどの力を行使できるのに、その力を短時間ではあるものの何倍に戦闘力を上げる〝臨界〟は圧倒的であった。
【魔王】が伸ばしてくる大小様々な異常な硬さの触手に対して、ただ一撃拳を振るうだけで木端微塵にしてしまうのだから。
再び[画面の向こう側]で避難している僕は、そんな咲夜のあまりにも早過ぎる動きに――
画面酔いしそうだった。
うえっ、ガクガクと揺れる映像見てたら気分が悪くなってきた……。
【魔王】に〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕を突き立てないといけないのに、こんな所でグロッキーになるとか笑えない。
そもそもの話、この武器でどれだけ【魔王】にダメージが与えられるか未知数なんだよ。
致命の一撃ってどのくらいのダメージになるのか分からないけど、即死とは書いて無くても大ダメージにはなると信じたい。
インターバルがもの凄く長く、3日もあるのだから、相応の効果があるはずだけど……。
これを使わずに【魔王】を倒せればいいのだけど、あの【魔王】、体は並大抵の攻撃では傷が付かないほど硬いくせに、傷ついてもすぐに回復してしまうという鬼畜な仕様だった。
VITが高い自動回復持ちのボスキャラとかクソゲーすぎん?
攻撃手段はあの身体から生えている触手や、口からレーザーを放つという単純な事しかしてこないので、継戦能力が極めて高いというのがコンセプトなのかもしれないけど、戦う側からしてみたらウザいの一言だよ。
「咲夜に〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕を渡せたら、〔開く狭間、閉まる空所〕で距離関係なく攻撃できてたのに……!」
「それ、蒼汰君が自分で相手を斬りにいかないとダメだから仕方ない、ね」
咲夜の〔開く狭間、閉まる空所〕なら視界の範囲内の空間を繋げることができるし、生き物は通行不可という制限も剣だけは通るから問題ないのに残念だ。
『グルアアアアアアッ!!!』
いくらすぐに傷が治ると言っても一方的に攻撃され続けたせいなのか、元々理性のなさそうな様子だった【魔王】がさらにキレて雄たけびを上げながら、自身を拘束していたあらゆるものを破壊した。
『すぐに再拘束を!!』
全体を見ている指示役が、すぐさま拘束能力を持つ人達に向けて拡声器でそう通達するけれど、最初の時と比べてその拘束の数は圧倒的に少なかった。
現在この場にいるのは、世界中の金の紋章を持つ人間63人と銀の紋章持ちが約500人ほど。
そこにプラスαでイギリス軍の人達が加わっているけれど、それだけいたら最初の拘束時に【典正装備】を使った人はそれなりにいる。
インターバルのあるであろう【典正装備】の力を使った者がだ。
金の紋章持ちの数が少ないように思えるけれど、国に1人か2人いればいい方で下手すれば1人もいない国すらある。
その上どことは言わないけど、自国の金の紋章持ちをいざという時に権力者である自分の身を守らせるよう、密かに隔離しているという噂もあるくらいだ。
こんな時にすら対岸の火事としか思っていないのか、戦力を出し渋るのは勘弁してほしいよ。
それはともかく、【魔王】の拘束が最初の時に比べ弱いのが問題だ。
やはりというか2回目の拘束はあっさりと抜け出されてしまい、【魔王】が自由の身となってしまっている。
このままでは好きに暴れる【魔王】のせいで死人が出てしまう。
いくら矢沢さんの力、[役者はここに集う・緞帳よ上がれ]で復活できるとはいえ、それはあくまでも保険。
一度使用すれば[アイドル・女装]が2日間無効になるデメリットあるので、即復活して再アタックといったゾンビ戦法はとれない。
つまり死人が出たら戦力が減る一方で勝ち目は薄くなってしまう。
「乃亜、お願い!」
「分かりました」
こうなったら仕方がない。
あの【魔王】がどんな攻撃手段を持っているかや、切り札を持っていたりしないかが出来る限り分かってからにしたかったけど、ここで戦力が減るよりも〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕を確実に当てて、出来る限り【魔王】にダメージを与えて一気に倒してしまう方がマシなはず。
「いきます先輩!」
そう言って乃亜は身に着けていた〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕は外して【魔王】を視認した。
たった10秒間だけだけど、身に着けていた時間分の強力な麻痺効果を与えられる【典正装備】を使ってもらった。
『ガアアアッ!』
「くっ、2日間身に着け続けていましたけど、これでも完全に動きを止める事はできませんか……!」
【魔王】がダンジョンから外に出て来たという情報を受けてから乃亜はずっと身に着け続けていたけど、それでも少しとは言え動けるとかヤバいよ。
「蒼汰君、準備を」
だけど10秒動きが鈍るだけで〝臨界〟状態の咲夜には十分だった。
動きの鈍くなった触手はサッと避けてあっと言う間に【魔王】の頭上に到着してしまった。
「ハアッ!!」
咲夜の拳が【魔王】の頭を穿つ。
それを見た僕はすぐさま[画面の向こう側]を解除して外に出ると、咲夜がつくってくれた傷目掛けて〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕を刺し込んだ。
『グギャアアアアアッ!』
右手に輝く勇者の紋章がより輝き、その光が〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕を通じて【魔王】へと流れ込んでいくようだった。
【魔王】は絶叫をあげており、内側から焼かれているのか全身から煙が漏れ出始める。
やったか!?
作者『まだ話数短いのにやってるわけないじゃん』
蒼汰「おいっ!?Σ(゜Д゜)」
蒼汰「ネタバレしない主義はどこ行ったの!?」
作者『もう明らかにやれてないフラグ立ったからいいかなって』
蒼汰「僕のせいなの?!」
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




