5話 【イモータル】
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
会議の後、すぐに【魔王】と対峙することになった。
遠くにいるはずの【魔王】だけど、その体の大きさのせいで近くにいると錯覚してしまう。
そんな【魔王】が次の標的を見つけたからか、怒りに満ちた咆哮を上げていた。
「うわぁ、今まで見て来た【魔女が紡ぐ物語】の中でもっとも戦闘に特化してる感じですね」
「見た目は確かにそうだよね。映像で見たものと比べるとより迫力があって普通に怖い」
乃亜の言う通り、悪魔みたいなその姿が凄まじい戦闘力を持っていそうに見えてしまう。
今までのだとシロやクロの【青龍】や【白虎】あたりが迫力あったけど、あのサイズとラスボス感のある見た目から多少恐怖を感じてしまう。
多少で済むのはいつもとは違い、僕ら以外にも大勢の冒険者や軍の人達がいるからだろう。
「近づいて来たわね」
「ん? あれが【イモータル】なの、かな?」
徐々に近づいて来る【魔王】の足元にいた【イモータル】がハッキリと見えてきた。
咲夜が自身無さげに言いたくなる気持ちは、おそらくその姿があまりにもみすぼらしいからだろう。
【イモータル】であるのであれば不死隊、つまり軍隊であり相応の装備をしていてもおかしくないのに武器も何も持たず、ずだ袋みたいなボロボロの服を着て、首には首輪と鎖が着いておりその先は【魔王】に繋がっているだけだった。あれじゃむしろ奴隷隊だな。
「盾すら持たないって、どういう事なのかな?」
「分からんな。【魔王】とは別の【魔女が紡ぐ物語】という話だが、また何かしらのギミックか?」
ソフィとオリヴィアさんだけでなく、この場にいる全員が【イモータル】に不気味さを感じていた。
あの【イモータル】達は人間が近くにいたら襲おうとするけれど、どちらかと言えば【魔王】から逃げようと動いてるっぽい。
誰もが絶妙に邪魔な存在かつ、妙なギミックだったら非常に困るなと思っている時だった。
『『ふははははっ!』』
めっちゃ爆笑している2人がいた。クロとシロだった。
「なんで急に笑い始めたの?」
僕は自分の傍でフヨフヨ浮いている白と黒の球体である2つの存在にそう問いかけ視線を向けると、表情は一切分からなくても全体から愉悦感が溢れているのが分かった。
『これが笑わずにいられるか主よ』
『ああそうじゃの。まさかあの老害どもがあのような姿にされておるとは、愉快極まりないの!』
あの老害……?
あっ、もしかしてクロとシロが【四天王】になってた時に、アヤメと一緒に捕まえられた際にいたあの老人たちのことか!
「コロ……シテ……コロシテ……」
「イタイイタイイタイ!」
「アッ……アア゛……!」
正気を失っていたり、ひたすら苦痛にあえいでいたりと哀れな有り様である。
『『あははははっ!』』
そんな状態の人達に対し、指があったら間違いなく指しながら笑っている様子の2人。
過去に色々あったのは知ってるは少し聞いたけど、これは酷い。
とはいえ僕は当事者ではないし、“暴食”の魔女の時もあの程度で済ますんじゃなかったとクロとシロは憤っていたので、これも仕方がないことなのかもしれない。
【イモータル】になった彼らはそれ相応の事をした結果、今があるのだから。
『おい、見ろシロ! あの時呼び寄せ損ねた奴らもあそこにいるぞ!』
『うむそうじゃな! 死んだと思っておったがすでに魔王殿が処置していたようだの。素晴らしい仕事じゃ!』
でもそろそろはしゃぐの止めてもらっていいですかね?
周りの視線が痛すぎるんですけど。
『主よ。頼みがある』
『妾からもお願いじゃ』
「このタイミングでのお願いとか不穏でしかない。一応聞くけど何?」
『我らは主の傍にいてサポートする予定だったが、娘の〔宿主なき石の形代〕を使って、あの【イモータル】どもの相手をさせてくれ!』
『後生の頼みじゃ。もしもこの願いを叶えてくれるなら、何とか娘を説得して1月分の課金を我慢させるからの』
「いいよ」
『ワタシの了承得ずして即話が決まった!?』
アヤメがガビーンとショックを受けているけど、課金を我慢させると聞いて僕が頷かないとでも?
『ちょっ、何を言っているのです、パパ、ママ! 〔宿主なき石の形代〕はそもそもワタシの【典正装備】である上に、課金まで取り上げられるとかやってらんねぇのですよ!!』
『『弟か妹』』
『うっ』
『欲しいと言っていただろ?』
『戦場で昂った男と女。何も起きないはずもなく……』
『娘の前で微妙に生々しい話は止めて欲しいのです! はぁ、分かったのですよ。課金1月分と比べたら得難いものですからパパとママの案に乗るのですよ』
少し渋々といった様子ではあるけれど、アヤメは納得したようでクロとシロが【イモータル】という名のサンドバッグをボコボコにするのが確定した。
「イ、イヤダ! モウシニタクナイ!」
「ユルシテ……ユルシテ……」
「ヴァアアアア!」
苦しそうな声を上げ続ける【イモータル】達は時折【魔王】によって叩き潰されており、しかし死ぬことはできないのかすぐに肉体はグジュグジュと嫌な音を立てながら復活していた。
【魔王】も恨みを晴らしてるなぁ……。
どう見ても【イモータル】の役割はただ恨みを晴らすためのサンドバッグだった。
スキルのような力は一切使おうとせずにただ嬲り殺されてるあたり、そういった力も奪われているのだろう。
これなら【イモータル】に関しては特に心配する必要はなく、僕らは【魔王】に集中できそうだね。
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