4話 〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕
オリヴィアさんが落ち着いてしばらく経った後、【魔王】討伐に向けての会議が再び行われた。
と言っても、【魔王】がダンジョンから出て来る前にリモートで様々な人達と行っていたものとは違い、今この場にいる【魔王】と対峙する人間のみで行われたものだけど。
その会議で行ったことは【魔王】の情報共有と、どうやって戦うかだ。
そしてその話し合いの結果、【魔王】に効果的な装備を持つ僕らが中心となって他の冒険者や軍の人と共に【魔王】と戦い、その周囲にいる謎の取り巻き達はレベルがまだ低い冒険者達が相手をすることになった。
〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕
この【典正装備】を僕が持っているがゆえに、僕らが中心となって【魔王】と相対することになった。
何故ならこの【典正装備】の効果は〝魔王に纏わる存在に致命の一撃を与えることができる〟という規格外の剣であり、突き刺すだけでその効果を発揮するのだからむしろこれを中心に置いて行動するのは当然と言える。
こんなものどの【魔女が紡ぐ物語】から出てきたんだと言われたら、【四天王】全てと言うしかない。
何故なら、【獏】を倒した時に〔王からの支給品〕（【魔女が紡ぐ物語】に防御を無視したダメージを与えられる。ただしダメージは上限があり一定以上のダメージは与えられない）を手に入れた際、他の3つの〔王からの支給品〕と融合して生まれた物だからだ。
全ての【四天王】を倒した際に〔王からの支給品〕を持つ者全てにその告知があり、本来譲渡できない【典正装備】だが、〔王からの支給品〕を持っている者にのみそのシリーズを譲渡可能であり、4種集めると【魔王】に有効な【典正装備】になると知らされた。
――が、その告知は無駄に終わった。
何故なら僕は全部の【四天王】に関わりその全てを集めてしまっていたからだ。
その上、【魔女が紡ぐ物語】は1体につき4つ【典正装備】をドロップするけれど――
シロ：〔王からの支給品〕（冬乃）（咲夜）（蒼汰）
クロ：〔王からの支給品〕（蒼汰）
“嫉妬”の魔女：〔王からの支給品〕（蒼汰）（アヤメ）（オリヴィア）
“暴食”の魔女：〔王からの支給品〕（蒼汰）（咲夜）
【四天王】を倒した時に通常の【典正装備】が優先されたのか、貰えなかった人間に参加賞感覚で配られた感じだったのと、精神世界での戦いではほとんどの人が参戦出来なくて、何故かシロやクロは参戦しても【典正装備】を手に入れられないので僕しか貰えない時もあった。
結果として自動的に合成されてしまった〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕はもはや譲渡も出来ず、僕の手に収まってしまったという訳だ。
普通こういうのって接近戦の得意な前衛タイプに人間が持つように話し合いが行われるはずだよね？
ほとんどバラバラの場所に【四天王】がいるせいで仲間内だけでは手に入るはずないから、討伐者が集まって【魔王】が出てきているにもかかわらず揉めたりするもんだよね？
初対面の人にせっかくの【典正装備】を譲ったりするのは惜しいと考えるだろうし、【魔王】に有効な【典正装備】であれば【魔王】を倒してさらに強力な【典正装備】を手に入れられる上に、世界を救った英雄になって名を残せると思うだろうから、自分の物にしたいと主張して中々決まらないものだよね？
なんなら自分の国の人間を英雄にさせて今後イニシアチブを握れるように企むせいで、時間だけがすぎるとかなるはずだよね？！
なんで？
いや、いい事なんだろうけどなんか釈然としない。
せめて〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕になった後で1度だけでもいいから譲渡できたらいいのに無理だし……。
支援担当の僕がこれを持つって宝の持ち腐れだよ。
しかもこの【典正装備】はその性質上特殊なのか〔太郎坊兼光・破解〕と組み合わせられないという仕様。
そのせいで〔典外回状〕である〔太郎坊兼光・天魔波旬〕と組み合わせてそこそこ離れた位置から【魔王】に攻撃、って方法がとれないのだから、世の中上手くいかない。
最大4つ手に入れられたはずの〔乗り越えし苦難は英雄の軌跡〕は僕が持つ1本だけなので、必然的に僕は【魔王】にこの剣を突き立てることは決定した。
……全長10メートルはある悪魔みたいな姿の【魔王】相手にである。
ビルの3階ほどの高さ相手に挑むとか普通ない……いや、そこそこあったか。
【四天王】の力を振るってたクロやシロ、【Sくん】も結構大きかったっけ。
無駄に経験豊富な自分が悲しい。
しかも今回は仲間内だけではなく他の冒険者の人達も一緒に戦ってくれることを思うと、その時よりも楽なのかな？
【魔王】の攻撃方法は基本的にその体躯で薙ぎ払ったりしてくるばかりで、たまにレーザーみたいな攻撃を放つだけだし、他に変なギミックがないのはありがたい。
レーザーだけでも大分困るけど、連発はできないみたいだから何とかなるかな？
力が強い分余計な能力がないのはありがたい。
後の問題は取り巻きだ。
そいつらは他の魔物と違い【魔王】と一緒に外に出て来た【魔女が紡ぐ物語】。
鑑定の結果、【イモータル】と分かった不死の軍勢だった。
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