エピローグ2
≪蒼汰SIDE≫
目を覚ますともう何度目か分からないほど見慣れた似通った天井が目に入った。
軽く周囲を見渡すと病院のベッドに寝かされていたのだと分かる。
どうやらまた病院に担ぎ込まれてしまったようだ。
今までとは違い乃亜達は傍にいなかったけど、部屋が薄暗いところを考えると面会時間が終わったから一旦ホテルに帰ったのかな?
どうやらいつもよりも長く寝ていたらしい。
「……あっ、……ぅ?」
ふぅ~と息を吐いて起き上がろうとしたのだけど、何故か口から変な声が漏れ出てしまった。
しかも体が上手く動かせれない。
えっと、こういう場合ってナースコールしていいんだよね?
何度か病院に運び込まれた事はあったけど、なんだかんだで初めてそのボタンを四苦八苦して押す。
ただボタンを押すだけなのにこんなにも苦労するとは思わなかった。
しばらくぼんやり待っていると、バタバタと病室の外から音が聞こえてきた。
病院内でそんなバタバタと動いていいの?
―ーガラッ
「はぁはぁはぁ、ヒ、ヒーローが目を覚ましたわ!?」
看護師、というより思わずナースと言いたくなるような金髪の美女が扉を開けて僕の方を見ながらそんな事を言うので困惑してしまう。
……あ、ああ。アメリカ全土で起こっていた悪夢に苛まれる状態を解決したからかな?
解決できたかどうか確認する前に倒れてしまったけど、【獏】を倒したのだからそこは間違いないか。
ヒーローだなんて柄じゃないから照れるなぁ。
「良かった。もうかれこれ1週間眠り続けていたから、【魔王】の言っていた期限まであと2週間ほどになってしまったところよ」
ふあっ!?
1週間も眠ってたの!?
そりゃ喉もおかしくなるわけだ――って、期限まで2週間しかないとかマジ!?
もう色々驚きすぎてまたぶっ倒れそうだ。
◆
「先輩、体に異常はありませんか?」
「昨日ラインで連絡した通り問題無いよ。寝過ぎて怠かったくらいだし」
僕が起きた翌日、乃亜達が病院に来てくれた。
それに加え――
「何呑気な事言ってるのよ。あんたマジでヤバかったんだからね」
いつもとは違い母さんも一緒にやって来ていた。
それにしてもヤバイって何が?
「そんなに言うほどなの母さん?」
外傷なんかは特に無いんだけど、そんなハッキリとヤバイって言われるほど何かあったんだろうか?
「あんたが2つ同時に〔典外回状〕使ったせいなのか、魂が酷く傷ついてたのよ。
その修復をするためにあんたは1週間寝たきりになってたってわけ」
「うえっ!?」
「正直最初に見た時はいつ目が覚めるか見当もつかなかったせいで、この子達大荒れしたのよ」
僕が乃亜達の方を見ると、その時の事を思い出したのか今にも泣きそうな表情になっていた。
「もうこの子達にこんな顔させたくなかったら、2度と2つ同時に〔典外回状〕を使うのは止めときなさい。
次も1週間で目覚められるか分からないんだから」
「分かったよ母さん。ところでさ」
「何?」
「魂が傷ついてたってどうやって分かったの?」
そんな目に見えないものを観察するとかやっぱりスキルなのかな?
「まあそういうスキルがあるとだけ思っておけばいいわ」
「スキル名くらい言ってもよくない?」
「その辺はあんた次第かしらね。大人には色々あるのよ」
「その言い方はズルい」
母さん結構頑固だからこういう言い方してる時は絶対喋らないし、問い詰めても無駄かな。
乃亜みたいにとんでもないスキル名で言いたくないのかもしれないし、まあそれならしょうがないとも思う。
『ご主人さま』
「ん、アヤメか。どうしたの?」
いつの間に外に出てきていたのか、アヤメが僕の近くで浮いていた。
『出来れば早めに報告したかったのですが、体調の悪い時に話さない方がいいと判断して今の今まで黙っていたことがあるのです』
「めちゃくちゃ不穏なこと言ってる」
アヤメがそんな深刻そうに言うほどの事って一体何があったんだ?
『[放置農業]を見て欲しいのです』
「[放置農業]?」
何でそれが深刻そうな話になるんだろうか?
あれはせいぜい[有償ガチャ]で〖[放置農業]の領域拡大〗で空間を広げたくらいだけど……。
まさか僕の魂が傷ついてたことで、スキルの方に何かしらの影響が出てしまったのか!?
戦々恐々としながら僕はスキルのスマホを取り出すと、覚悟を決めて[放置農業]のアイコンをタップした。
『『『『『『来ちゃった♡』』』』』』
「はああああ!??」
スキルのスマホに映るのはあり得ないものだった。
「なんで魔女達が全員この中にいるの?!」
エバノラ達がこちらに向かって手を振ったりしてるってどういう事!?
『キシシシ、驚いてるわね』
『クシシシ、あの時この子の頭に触れていた甲斐があったわね』
イザベルとマリが愉快そうに笑っているけど、この2人が元凶なのか!
そう言えば【アリス】の試練クリアした直後の別れ際にこの2人に頭を触れられていたけど、まさかこの時のための仕込みだったなんて……。
エバノラ達の時のように[ダンジョン操作権限]はアップグレードしてくれたりはしなかったけど、まさかこんな事をしていたとは思いもよらなかった。
『エバ姉様からダンジョン防衛の協力要請を拒否して、密かにあなたの所に遊びに行けるように頑張ったわ』
「とんでもない事してくれるね。ダンジョンの方はほっといていいの?」
エバノラ達が必死に端末を操作していたのを思い出して僕はそう聞かずにいられなかったが、思いもしない返答が返ってた。
『ダンジョンならアグネスに全部支配されてしまったわ』
『フヒッ、色々手伝ったのに結局全部持ってかれたんじゃやってられないわね』
エバノラとサラが肩をすくめてとんでもない事を言い出した。
「はい? え、ダンジョン奪われたの?」
と言うことは、【魔王】を期間内にどうにかしなかったら世界中のダンジョンで迷宮氾濫が一斉に起こるとかヤバすぎん?
寝ている間にとんでもない事になっていたようだ。
『そうよ。危うく私達もアグネスに支配されそうになったんだけど……。
認めたくないけどこのイタズラ娘達のファインプレイで助かったのよ』
『キシシシ』
『クシシシ』
頭痛が痛いとおかしな日本語を使いたくなるような様子のエバノラに対し、僕のスキルに侵入するという訳の分からない事を仕出かしたイザベルとマリは愉快そうに笑っていた。
『実は私達の中でもっともあなたと繋がりが深いローリーを経由して、頭に触れた際に施したマーキングへと日々着実にパスを繋げていたの』
『すぴー』
名前を呼ばれたローリーはいつの間にかすでに横になっており、気持ちよさそうに眠っていた。
よく地面に直接寝転がった状態でスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていられるな。
『あなたが私達の所に来てくれた時はその作業が捗ったわ。そうじゃなかったら、アグネスに取り込まれてまた【魔女が紡ぐ物語】化してたかもね』
なにのこのこと餌食になりに行ってるんだ過去の僕と思うとともに、再び戦う羽目にならなくてナイス僕と同時に思ってしまうので、何とも複雑な気分にさせられてしまった。
『そんな訳でダンジョンの支配権を全て奪われた私達はもう人類に対して何も援助してあげられないわ。せいぜい自分達で何とかすることね』
『そんな事よりも家とか出せないの? 一軒しか家がないから住む場所が無くて困るわ』
『ええ、そうね。天気や気候が安定しているからって、外で過ごし続けるのは嫌よ』
エバノラの真面目な発言はイザベルとマリの我儘発言で塗りつぶされてしまった。
ただ家については全員同意見なようで出すことは出来ないかと聞かれたけど、課金出来ないから無理なんだよ。
僕がそう言うと『えー』っと不満げな声を出してきたが、無い袖は振れないんだ。
今回の【魔女が紡ぐ物語】討伐でレベルが上がってスキルスロットが2つ増えたけど、空きのスキルスロットが3つになってもまだ最終派生スキルが獲得できるメッセージが出ないのは意地悪すぎるんだよ!
「課金が無制限でできればその要望も叶えてあげられたんだけどね」
『『じゃあ頑張ってレベル上げなさいよ』』
「今の状況分かってて言ってる?」
レベル上げる前に【魔王】を倒さないと、世界が滅んでしまうというのに悠長にレベルを上げている暇なんてあるはずもない。
課金する目的であるソシャゲの運営会社が潰れたら元も子もないからね。
でも課金はしたいから、イザベルとマリが言う様にレベル上げしたいなぁ。
なんというジレンマ。
【魔王】とかいうサブクエストはとっとと終わらせて、さっさと課金できるようになるというメインクエストに戻りたいね。
予定通りの結果になって満足な作者(´▽`*)
蒼汰)「待って」
作者)『何だ?』
蒼汰)「何がどこまで予定通りなの?」
作者)『え、どこまでって言われても困るんだが、具体的に何が聞きたいんだ?』
蒼汰)「僕のスキルの中に魔女達が住み始めたんだけど!?」
作者)『ああその事。具体的にいつかって言われると困るんだが、エバノラと遭遇した段階から構想は出てた』
蒼汰)「6章の段階から既に考えてたの!?」
作者)『確定したのはさすがに本編でも述べてた通り【アリス】の時だな』
蒼汰)「それでも10章のとこじゃん! 1年も前からなんて恐ろしい計画を立ててるんだよ!!」
作者)『それな~。ぶっちゃけ読者達に魔女達どうするん?って感じの感想が来るたびに[放置農業]にぶち込むつもりだけど、って言えなくて結果感想返せない場合とかあったからようやくこの章でお披露目できてよかったわ』
蒼汰)「僕は全くよくありませんけど!? いきなり魔女達を文字通り内に抱える事になってるんですけど!」
作者)『目指せ、魔女ハーレム』
蒼汰)「おい止めろ」
作者)『でもそれを望んでる読者も一定数いるからどうしたものやら』
蒼汰)「いきなり6人もさらに追加とか止めて……」
作者)『今でもまともにハーレム主出来てないしな(笑)』
蒼汰)「笑うなよ! こちとらまともな恋愛すっ飛ばしてこれだから、どうしていいのか見当もつかないんだよ!」
作者)『そこにさらに追加は――』
蒼汰)「orz」
作者)『そんなマジの土下座披露されてもな』
蒼汰)「お願いしますお願いしますお願いします」
作者)『まぁ魔女達は魂だけの存在に近いから、ダンジョン内とか魔素の濃いところじゃなければ、スマホから出て来たりするといったようなお前が心配する事はないと思うがな』
蒼汰)「(∩´∀`)∩」
作者)『今のところは』
蒼汰)「そういうの止めない?」
作者)『だって本当に何も考えてないから、未来がどうなるかだなんて明言できないし。それに――』
蒼汰)「ネタバレはしない主義なんでしょ。はいはい」
作者)『イラってきた。次章酷い目に遭ってしまえ』
蒼汰)「【魔王】と戦うことになるであろう僕に何てことを言うんだ!」
作者)『でもまあ十中八九そうなるよね。ここで別の人が【魔王】倒しましたってパターンは……それなりにあるか』
蒼汰)「え、どうなんの?」
作者)『知らん。だってプロット未作成だし』
蒼汰)「くっそ無計画野郎!!」
作者)『楽しいものにしたいな~』
蒼汰)「作者の楽しいって僕らがロクな目に遭わないパターンでは?」
作者)『がんば♪』
蒼汰)「何で課金したいだけの人間が世界のために動かないといけないんだよーーー!!」
いやホント何で課金したいだけの人間がこんな大変な思いをしなければいけないんでしょうね?
もうその事を考えるだけでワクワク――もとい胸が痛くなります(笑)
さて次章となりますが、お決まりのまだ何も決まっていないというどうしようもない状態になっています。
いやぶっちゃけ本編進めながら次章の事とかうまく考えられないし。
という訳でいつも通り次章は1週間後となりますのでよろしくお願いします。
それでは恒例の――
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




