44話 分身と悪夢のコンボ
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
◆
『何をしている主よ!? 口をもごもご動かし始めたら口の向いてる直線上からすぐに回避しないといけないだろうが!』
「はぁはぁ、できるか!!」
【獏】がこっちを向いて口を開こうとした時にはすでに3人はその場に居らず、取り残された僕だけが犠牲になって、再び悪夢を叩きつけられることになってしまった。
そんな高速で動く事ができるような身体能力は持ち合わせていないんだよ!
ていうか、口をもごもごしてから開くまで秒もないのに、なんで3人は避けられるんだ……。
「ごめん、蒼汰君。咄嗟だったから蒼汰君の事逃がせられなかった」
「いや、僕ならまだ耐えられるから、咲夜達が食らうくらいなら逃げてよ」
一撃でも食らえば行動不能になってしまうのだから、そうなるくらいだったら僕の事は気にしないでほしい。
『そうか助かるの。では主様を囮にしてあの【獏】を仕留めるぞ!』
「囮にしてもいいとは言ってないんだよ!?」
〝暴食再現悪夢侵魘〟とかいうとんでも技、できれば食らいたくはないんですけど!?
僕の主張など聞いてもいないかのように3人が走り出したので、慌てて僕は今も最初の命令通り【獏】に攻撃を仕掛けている冬乃に指示を出すことにする。
「冬乃、3人があの【獏】の悪夢を見せる技が食らわないように立ちまわれるよう攻撃して」
そう指示された冬乃は【獏】が3人の方に顔が向かないように、[狐火]を操って攻撃し始めた。
「ありがとう冬乃ちゃん」
冬乃の[狐火]に気を取られた【獏】が咲夜を見失ったのか、背後に現れた咲夜に気付かずに殴られ吹き飛ばされてしまう。
『くっ!』
【獏】は悔し気な表情を浮かべながら、吹き飛ばされた先にあった果物を毟り取って食べていた。
こんな状況でもその果物を食べるんだ。
いや、さっき空中で降らせた濃縮果汁攻撃の準備か!
「〝臨界〟」
【獏】本体に現実でできない攻撃は通用しなくても、咲夜の[鬼神]を移動に使うだけなら関係ない。
それに一瞬だけならHP兼MPも尽きることはないから問題ないしね。
さすがに【獏】の悪夢攻撃を避けるには発動が遅くて間に合わないけど、咀嚼するという動作がある今回の攻撃には十分間に合う。
予想通り【獏】は先ほどのように濃縮果汁を、今度は球体にして複数撃ち出してきた。
少しでも触れたら理性がとぶとか関係なしに直撃したら気を失ってしまいそうな威力の物が飛んできたけど、準備はできている。
「〔不浄を通さぬ黒き毛氈〕」
空間に広げた巨大な布の下敷きが壁となり、厄介な液体を通さない。
最初これを手に入れたときはあまり使う機会ないんじゃないかとか思ってゴメンね。
『鬱陶しい』
【獏】は攻撃を食らっている上に、自身の思うようにいかない事に腹を立てているのか、不機嫌そうな表情でこちらを睨みつけてきた。
『んんっ』
「まずっ!?」
【獏】が先ほど見せた増殖技だ。
1体だけであればその口に注意して立ち回れば問題なかったけれど、どれが本体か分からないとさすがに避けようがない!
「薙ぎ払う。みんな下がって」
咲夜は即座に[鬼神]の全開モード、全身の肌が褐色になり、髪は真っ赤に、大きな角が2本生え、額の中央に第三の目が縦に開いた姿に変わる。
僕は元から咲夜の傍にいたので少し下がるだけで良く、冬乃は元々後方から攻撃していたし、クロ達も素早く行動して咲夜と【獏】達の間に入らないように移動したのですぐに誰も巻き添えにならない状態となった。
「〝神撃〟」
『悪夢を寄こせ』
咲夜と【獏】の行動はほぼ同時だった。
しかし悪夢を食らうという行動の後が問題なだけで、吐き出される前までに仕留めれば何の問題もない。
咲夜の〝神撃〟により無数の【獏】達はことごとく消されていった。
元々冬乃の[狐火]程度で倒せられる分身だから、〝神撃〟の直撃を受けずともその余波だけ倒せてしまうのだろう。
ただ分身よりも本体の方だ。
できれば〝神撃〟の直撃を受けて倒せていればいいのだけど……。
『暴食再現悪夢侵魘』
どこからともなく襲い掛かってくる暗いトーンのカラフルなマーブル模様の光。
「うあああああっ……! ああっ……」
その光は咲夜へと吸い込まれていき、咲夜の[鬼神]状態が解除されると同時に膝を地面に着いた咲夜は泣き崩れてしまった。
まずい! 一番【獏】へダメージを与えられていた咲夜が戦闘不能になってしまった。
咲夜達があの攻撃を受けたら回復するまでに時間がかかるし、そもそも2度もあの攻撃を受けたことによる精神的なダメージは計り知れない。
もしかしたらもうあの【獏】と戦うのはトラウマになってしまい、戦えなくなっていてもおかしくない。
少なくとも僕らがやられる前に復活することはないだろう。
『最初からこうしていればよかった。もう一度いく。んんっ』
再度分身を大量に作り出した【獏】。
あの分身を作る技もインターバルないのかよ!
分身と悪夢を叩きつけるコンボを最初からそうしなかったあたり、戦い慣れてなさそうなのは間違いないか。
それに咲夜の攻撃に対して無傷でいられなかったのか、その分身たちは全身に酷い火傷のような傷を負っていたので、咲夜のあの攻撃は無駄ではなかった。
咲夜の行動を無駄にしない為にも、【獏】が戦いに不慣れなうちに咲夜抜きで仕留めきるしかない!
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