32話 おきのどくですが
「彰人、母さん、何してるの?」
「あ、蒼汰…………なんか滅茶苦茶顔色良くない?」
「あらホントね。何かいい事でもあったの?」
僕が2人に背後から声をかけると、クルリと振り向いた2人は真っ先に僕の顔色を見てきた。
2人にそんな風に言われるなんて、一昨日までの僕はどれだけ顔色が悪かったんだろうか?
まあ鏡を見て自覚するレベルで悪かったとは思うけど。
「え、何? ついに童貞卒業した?」
「親がすぐそこにいるのにとんでも発言するの止めてくんない?」
彰人がそんな事言うから母さんが真剣な目でこっちを見てきてんだけど!
「避妊はしたの?」
「全く疑いもせずにその発言はどうなの?」
「むしろいつまで童貞なのかと思ってたくらいだけど?」
母さんがそう言いながら乃亜達の方に視線を向ける。
否定できねぇ……。でもまだ童貞なんだよ。
「一応言っとくけど違うから」
「「なんで手を出してないの?」」
「親と友人から同時にそんな事言われる日が来るとは思わなかった……」
くっ、どうせアヤメの言う通りヘタレだよちくしょう!
「親の私が言うのもなんだけど、もっと女の子に対して意欲的でもいいと思うわよ。その方が女の子達も嬉しいだろうし」
「分かってるよ。触れない事が大事にするという事じゃないんでしょ」
「「えっ!?」」
クロはともかく、シロにそう言われ色々考えてるところなんだから。
ただそれは置いておくとして、なんで乃亜とオルガは驚いた声を出したの?
「ガチャしか頭になかった先輩からまさかそんな言葉が聞けるだなんて思いもしませんでした」
「……同意。しかもそれが本心」
こういう時に心が読めるってズルくない?
一切誤魔化しできないじゃん。
「本心というのは嬉しいのですが、では何故手を出してくれないのでしょう?」
「……自分がヘタレだという自覚はあるみたい」
ほらね。
いけない。これ以上この話題を引っ張るとクロ達の会話を思い出して余計にマズイことになる。
「僕がヘタレなのは一先ず置いておくとして、さっきも聞いたけどその赤い石の前で何してるの?」
「オルガ先輩。これは後で追及すべきですね」
「……全力で肯定。クロ達との会話について何の話をしていたか聞き出すのが良さそう」
……先送りになっただけな気がする。
「あんた達の関係がどう進もうと本人達の問題だからいいとして、子供を作るのはせめて学校を卒業してからにしなさい。
それより赤い石のことね」
「何をしているかと聞かれると、セーブポイントを維持していたってところかな」
「セーブポイント?」
そんなものこの試練では存在しなかったというのにそれを維持していた?
それが示すことは即ち――
「第二の試練の死にゲーで再挑戦する場合、一度進んだ箇所から始められるようにしているんだよ」
「マジで!?」
今まで最初から始めないといけないせいで、難易度の高い箇所で死んでしまうことが多く、その先のギミックがどうなっているかの解明が遅々としていたというのに、その難易度の高い箇所はスキップできるの!?
「もっとも、私達がこうして張り付いて試練に対して干渉し続けないといけないから、応援に来た大多数はセーブポイントの維持にその力を使うせいで試練には参戦できないのよね」
「そこで寝込んでいる異界の住人であるインキュバス、サキュバス、ナイトメアなど夢に干渉できる存在に加え、蒼汰の母親たちのようなスキルを持っている人達が、試練を挑む人とは別に一昨日からこのシステムを構築していたんだよ」
今スキルのニュアンスが若干違ったような気がするけど、そんな事はどうでもいい。
もうこれで何度も同じ箇所をやり直す必要がなくなるんだ!
それだけでも大分精神的に楽になるよ。
同じ箇所を何度もやるのはさすがに精神的にくるものがあるからね。
「というか蒼汰。昨日もこの〝窓〟を創りに来てたのに、何かしてるなとは思わなかったの?」
「昨日はガチャを思う存分回せて頭ハッピーセットだったから気づかなかった」
「じゃあ仕方ないね」
「「「納得した!?」」」
乃亜達が彰人に何故そんな理由ですんなりと得心するのかと言いたげな目だけど、乃亜達とは違い彰人の前で散々ガチャを回しまくってアドレナリン全開の姿を見せているので、むしろ納得しない方がおかしいくらいだ。
「蒼汰は十分英気を養えたようだね。それなら早速試練に挑むかい?
そのためにここに来たんでしょ?」
「そうだね。下手に時間が経つほど寝るたびに精神的に負荷がかかりそうだし、今の内に挑んでおきたい」
今はまだ昨日の興奮が残っているけれど、さすがの僕でも数日経てば落ち着いてしまう。
それまでに出来る限り試練を進め、できれば第二の試練だけはクリアまでの道筋を明確にしておきたい。
「そっか。それじゃあ頑張ってね。蒼汰の場合はまだセーブポイントを組みこんでから試練に挑んでないから最初からだけど」
「え、前回死んだところからじゃないの!?」
「そんな都合のいいもののはずないでしょ。私達がこれを維持するのだけでも少なくないリソ――労力とかが必要なんだから」
母さんはそう言いながらため息を吐いていた。
さすがに【魔女が紡ぐ物語】の干渉をするのだから疲弊しないはすもないか。
早めに試練を終わらせないといつセーブポイントがなくなってしまうか分からない以上、急いだほうが良さそうだ。
〝おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました〟
巷で聞いたことのあるこのセリフだけは聞きたくないなぁ。
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




