28話　小学生レベル

　

≪蒼太SIDE≫

　自分の身に何が起こったのか分からない。

　ただ1つ言えることは5000円が3万円になっているということで、それはつまり5000円が3万円になっているということだ。

「……蒼汰が混乱してる？」

　オルガが大丈夫かというように僕の服を軽く引っ張ってくるけど、大丈夫だ。

　僕は至って平静であり、5000円が3万円になっているということを正しく理解しているのだから。

　5000円が3万円だぞ？

　今まで小学生以下の課金額であったのに、新年を迎えたらいきなり小学生レベルにまでランクアップしてるとか、意味が分からない。

「……それはもう成人レベル」

「先輩の課金額と一般常識との乖離について話してます？」

　何故乃亜はオルガの一言で全てを察せられるのだろうか？

　まあそれはともかくとして、それよりも今はいきなり課金額が増えたことだ。

　やっぱり理由として新年を迎えたことが原因なのだろうか？

　そうだとしたら年越し事に課金額が増えるのだけど、いきなり5000円から3万も増えたことを考えるとそう美味い話だとは思えない。

　なにせ［無課金］という僕をもっとも苦しめている意地悪なスキルだ。

　1万であればその可能性は十分あったかもしれないけど、いきなりこの金額になった時点でかなり怪しい。

　う～ん、他に考えられる要因はレベルが上がったタイミングで、実は課金額が増えていたとか？

　レベル450の段階でスキルスロット解放してるし、それが一番ありえそうか。

　……ああ、だとするとなんて勿体ない事をしてしまったんだ！

　レベル450になったのが12月2日だったことを考えると、その段階で課金額が増えていたのであれば、あと2万5000円分課金できていたというのに！！

「課金額が増えたのはいいけど、先月の内に気付けていたらもっと課金出来てたなぁ……」

「……もしかしたらの話でそこまで後悔しなくても」

　後悔しないわけがない。

　2万5000、しかも［自動チャージ］のスキルの詳細を見る限り、設定していない今なら勝手にスキルに全額課金されなかったということ。

　ああ、クリスマスガチャで課金したかったーーー！！！

「よく分からないけど、課金額が増えたなら良かったじゃないか。

　それでいつも通りスキルのガチャでも回すのかい？」

　ソフィにそう言われ、僕は課金額が増えたことよりも悩ましい問題に思わず腕を組んで考えてしまう。

「う〜ん、そこはどうしようか決まらないんだよね。いっそのこと3万円分全てソシャゲに回すのもいいんだけど……」

　でもどうせなら［有償ガチャ］を10連回したい欲求に駆られるだよ。

　今まで月に1、2回しか回せていなかったけど、それをドカンと一気に回してみたいんだ。

「……よし、3万分スキルに行くか」

「限度額でスキルのガチャに課金するんですね」

「最大限課金するのは当たり前だけど、正確には全部じゃないよ。

　アヤメが放棄してくれた余ってる2000円が残ってるから、［有償ガチャ］1回3000円であることを考えると、結局2000円余って全部スキルの［有償ガチャ］につぎ込めないからね」

「さらっと言ってるけど、3000円でも相応の値段なのに3万も一気に使う気なの？」

　冬乃が昔の金銭感覚に引っ張られているからか顔をしかめているけど、冬乃も億単位で稼いでいるのに今更3万でそんな顔しなくてもいいのに。

「3万2000円全部使うけど？　2000円は丁度いいからソシャゲの有償ガチャに使うよ」

「結局全額使い切るのね……」

　当然だ。

「ふっふっふっ！　さすがにソシャゲと違って1回のガチャにかかる金額が高い分ワクワクするよ！

　毎月1、2回とチマチマとしか回せなかったけど、10連も回したら一体どんなものが出て来るかな？」

　出来れば前みたいに衣装ガチャのコイン100枚来い！

　そうすればまた沢山ガチャれるのだから。

「鹿島先輩、昨日まで凄く疲れた顔を見せていたのに、今はもの凄くイキイキしてるな」

「当然だよオリヴィアさん。蒼汰君はガチャが何よりのお薬。

　咲夜はかなり休んだから少し精神的に回復したけど、まだダメ」

　まあ咲夜は回復するまでゆっくり休んでてよ。

「じゃあまずはソシャゲの有償ガチャ……やっぱりスキルの［有償ガチャ］からにしよ。

　ソシャゲの方を久々に回すともう1回もう1回とか言って、全部ソシャゲに使いそうだし」

「自分のことが正確に分析できるのに、なんで自制はできないのかしら？」

　決まってるじゃないか冬乃。

　そんなの僕のガチャ活は止まるんじゃねえぞ、が基本だからだよ。

　自制？　知らない単語ですね。

「……そんな思考だから［無課金］なんでデメリットスキルがついた？」

「オルガの言う通りその可能性は高いけど、たとえ過去に戻れたとしてもこの思考を変えられる気がしないよ」

　［無課金］というスキルが付くと分かっていても、課金できるならそりゃするよ。

　むしろしない方が不作法というもの。

「まあそんなタラレバなんて言っててもしょうがないし、今はガチャだよガチャ！！」

　僕はスキルのスマホを呼び出し、先月の2000円プラス2万8000円課金し、計3万になったそれで早速［有償ガチャ］を回すことにした。