27話 おめでとう
母さんに「顔色悪いんだから、あんた達はホテルに戻って休んでなさい」と頭をガシガシと少し乱暴に撫でられてそう言われた僕は、乃亜達と共にみんなの元に戻って休む事にした。
あんな風に頭を撫でられると思わなかったので少し驚いてしまった。
母さんがそんな行動に出るほど僕の顔色は悪くなっていたんだろうか?
まあそれはいいか。
それよりもあの鬼畜死にゲーに今から挑む母さんと彰人の事が少し心配ではある。
いっそのことその手前の第一の試練で身動きが取れない方が死に戻りしない分マシなんじゃないかとすら思うのだけど、出来る事なら少しでもギミックの1つでも暴いてほしいとも思ってしまうのは仕方がないことか。
「……蒼汰。今は試練の事は忘れてゆっくり休んだ方が良い」
「オルガ先輩の言う通りですよ。せっかく援助に沢山人が来てくれたんですから、休める時に休まないと」
確かにね。
別に【四天王】の【典正装備】を全部回収したいわけでもないし、むしろ他の人がクリアできて楽できるのであればそっちの方がありがたい。
今日寝てる間にいつの間にかクリアされてたが理想まである。
さすがにあれだけ苦戦してる試練がそう簡単にクリアされるとは思えないけど、それでもあの試練を受けないで済むならそっちの方がいいと思ってるくらいには嫌気がさしてるからね。
2人に促された僕は泊っている宿泊施設に戻り、咲夜達と合流した。
本来であれば精神的な疲労は寝てた方がいいんだろうけど、今は寝ると強制的に悪夢を見せられるからみんなと一緒にまったりしている方がまだリラックスできる。
そんな訳で咲夜達のいる部屋へと移動したわけだけど、早速僕はベッドの上で咲夜の抱き枕となっていた。
「ううぅ~~」
「ああ、うん。よしよし」
されるがままになっている僕は少しでも落ち着いてくれたらと、咲夜の頭を撫でていた。
僕自身こうしているとささくれ立っていた心が落ち着いてくるので、お互いにとって良い事である。
「先輩、わたしにもお願いします!」
「咲夜さんは凄く頑張っていたから仕方ないけど、少しは私達にもその幸せを分けて欲しいわ」
「それには大いに賛成だね。でもソウタの腕は2本しかないし、代わりにワタシ達がソウタを労ってあげるといいんじゃないかな?」
「……ん。全員で労う」
「わ、私もか?!」
その日は丸一日退廃的に過ごして、少しだけ精神的に回復した。
◆
――プッ、プッ、プッ、ポーン
「「「「「「「ハッピーニューイヤー!」」」」」」」
アメリカでそのまま年を越すことになってしまった僕らは、時報の音を合図にせっかくなのでアメリカ風に年越しの挨拶をした。
ストレスが日常になり鬱屈した日々であったからか、そのストレスを晴らすように大きな声を上げてみんなではしゃいでいた。
今日、いやもう昨日か。
昨日は赤い石のところに〝窓〟を作るだけでゴロゴロと何もしていなかったけど、今日は1月1日で元からこの日は休息日となっていたので、今日もお休みだ。
何もしないって素晴らしい。
「さて課金の時間だ」
「唐突ですし、こんな時でもブレませんね先輩」
「むしろこんな時だからこそだよ」
月が替わったということは[ソシャゲ・無理のない課金]の限度がリセットされたということ。
つまり再び課金できるのだ!
ものすごく残念なことに派生スキルEX[自動チャージ]でスキルに金を吸われてしまうものの、それでもその金でスキルのガチャができるのだから悪くはない。
でも出来ればソシャゲの有償ガチャの方を回したかったんだけどなぁ。
新年になるとソシャゲで必ず最高レア度のキャラが出て来るガチャが存在するけど、それは課金したガチャ石でなければ回すことができない。
そして今の僕にはその石がないので回せないのだ。
2000円もかからないというのにそれが回せない地獄……。
深いため息を吐きながら、僕は〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め〕と〔太郎坊兼光・破解〕を組み合わせて、自身のスキル[ソシャゲ・無課金]を一時的に[ソシャゲ・無理のない課金]へと変質させる。
「いつも通り5000円が課金されたことだし、アヤメ達が課金3か月分放棄してくれてるお陰で先月の2000円がまだ残ってるから、[有償ガチャ]が2回まわせ――ん?」
本来であれば[自動チャージ]というふざけたスキルでお金を吸い取られるはずなのに、それがなんだかおかしかった。
いつも通り5000円徴収されてしまうと思っていたのだけど、何故かスキルに入金されていないのだ。
ステータスを見ても[ソシャゲ・無理のない課金]の時だけ生えてくる忌々しきスキル、[自動チャージ]は安心の我が家とでもいうかのように悠々と存在しているにも拘わらずだ。
一体どういう事なんだろうかと思い[自動チャージ]の詳細を確認することにした。
[自動チャージ]:スキル所有者が所持する金銭から、自動的にスキルに入金する(未設定)
あれ?
前まで〝自動的に月の限度額までスキルに入金する〟だったのに、その文言が一部無くなってるし、未設定なんて文言まである?
ま、まさか……!
心の衝動を必死に押さえ、またどうせぬか喜びさせるんだろ? と心の防波堤を創りつつ、震える指でスキルの詳細を細かくチェックしていく。
[ソシャゲ・無理のない課金]:ひと月に課金できる限度額が3万円までになる。
ッ!!!!!!!??????
≪蒼汰母:筒野瀬乙葉SIDE≫
「あれでストレスが少しでも緩和されるなら構わないでしょ。
3万は少し多い気もするけど、あれだけ稼いでるなら妥当かしらね」
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