25話 あの死にゲーだって中間地点くらいあるんだぞ!?
≪蒼太SIDE≫
「……はぁ、大丈夫ですか?」
「ふ、ふふっ……。問題ありませんよ。ご主人様のためにもあなたを置いて私が脱落する訳にはいきませんから」
なんか駄目そう。
ご主人様とかおかしな発言してるし。
僕が大丈夫か問いかけたエマさんはフラフラになって死んだ目をしていた。
僕も、人の事言えないけど……。
朝起きて鏡を見ると、アメリカに来る前と今では人相が変わってしまったと自覚するレベルで目つきがヤバくなってしまった気がする。
毎日何回も試練に挑んでは死ぬの繰り返し。
寝れば空腹の我慢大会が始まり、気が休まる日がまるでない。
さすがに週に1日は完全に休んではいるけれど、このアメリカの地を離れないと精神的に疲れは取れそうにないな……。
「先輩、休みませんか?」
乃亜が心配そうにこちらを見てくるけど、乃亜だって日々悪夢でイライラしている上にアレがかなり負担になっているだろうに。
それでも僕の心配をしてくるのが少し嬉しく思う。
「ありがと。でもまだ大丈夫だよ。本当にヤバそうならオルガが止めてくれるだろうし」
「……任せて」
オルガがそう言いながら、僕にしがみついてきた。
「……落ち着く。ボク自身のストレス発散と蒼汰のストレス発散。抱き着かれて喜んでる」
まあ可愛い女の子に抱き着かれて嬉しくない男はいないよ。
「なるほど。そういう事なら遠慮なく」
「あ、遠慮してたんだ」
割と普段からスキンシップ高めだし、乃亜のデメリットスキルでエッチなハプニングとか起きてたけど、まだセーブしていた方なのね。
「遠慮なんてしなくてもいいのに。乃亜だって3回も死んでるんだから。さすがに精神的にしんどいでしょ」
そう。乃亜の[ゲームシステム・エロゲ]の派生スキル、[セーブ&ロード]で1日に1度だけ記録した日時に戻る能力で、罠を覚えられるだけ覚えてから死に戻ってくれている。
そのお陰で僕らが試練に挑まなくても罠がどこにあるのか分かるのだけど、僕らと違って乃亜は現実で自殺しており、精神的負担がしゃれになっていない。
試練に挑み始めた時は自殺のハードルが高くて使わなかったけど、何度も死に戻って日に日に顔色が悪くなる僕らのために、意を決して使ってくれた。
「はぁ。癒されます……」
「僕に癒し成分なんてないはずだけど……。乃亜がこれで少しでも精神的に回復してくれるならいくらでもしていいけど」
数回の自殺でかなり疲弊しているのか顔色悪いしね。
だからもう自殺だけはしないように言っておかないと。
「乃亜、お願いだからもう[セーブ&ロード]は使わないでね」
「何を言っているんですか先輩。まだ3回しか使っていないのに」
「3回もだよ。僕らは試練ではギャグみたいな死に方をしてるけど、それでも自分から死んでるわけじゃないし、気が付けば死んでる場合も多いからね。
でも乃亜の場合自分から死ににいってる分、精神ダメージがかなり大きい。
その3回で乃亜の顔色が悪くなっているんだからよっぽどだよ」
「そう言われましても……」
乃亜が渋る様子を見せるのは、未だに第二の試練の罠の全貌が分かっていないのにたった2人でそれに挑まないといけないからだろう。
ちなみに咲夜は悪夢と試練のコンボでダウンしてる。
寝ると悪夢を見せられるので、部屋であまり寝ないように言って寛がさせており、それを冬乃、ソフィ、オリヴィアさんに見張ってもらっている。
監視でもしておかない限り無理にでも試練に挑もうとするので、あの3人が咲夜の精神が回復するまで見ていてくれることになったのだ。
もっとも、一番見張っていないといけないのは乃亜のため、[マインドリーディング]を持ってるオルガは僕の精神状態の管理はオマケで、乃亜が[セーブ&ロード]を下手に使わないように止めてもらう役割だ。
「先輩、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。2人しか攻略に挑んでいない今、覚えきれるだけの罠の情報が増えるまでに時間がかかりますし」
「それでもダメだよ。精神的な疲労の回復が今は難しい現状で、そんな無茶はさせられない」
「無茶しているのは先輩じゃないですか……」
試練に挑み始めてからすでに3週間とちょっと経っており、死んだ回数は60~70回くらいだろうか?
もう正直覚えていないし、わざわざ数えてなんかいないけどそのくらいだと思う。
「確かに無茶と言えば無茶かもしれないけど、もうある程度慣れたよ」
「それは慣れてはいけない感覚だと思います」
「日に2~4回、それを毎日でなくとも3週間くらいやれば嫌でも慣れるさ」
口にして改めて実感するけど、もう3週間も経ってるんだよな~。
そのせいで今日が12月31日であり、このまま年越しをこのアメリカの地で過ごす事になるだなんて誰が想像できただろうか?
というか、僕とクロ達で合計150回近く死んでいて、他の人も脱落はあれど数十回は死んで罠の場所を発見しているというのに、まだゴールに辿り着かないとか酷すぎやしないだろうか?
「狭い迷路の後が、草原、水辺、洞窟ステージとかどんだけステージがあるのかいい加減にしてほしいよ」
「……1回死んで罠1つの場所が分かれば回避できるものじゃないから余計に大変」
オルガの言う通り、同じ箇所で何度も死んでしまう場合も多い。
例えばトロッコで進まなければいけない場所があるのだけど、それに乗ってタイミングよくジャンプしたりしゃがまないと死んでしまう罠がだったりすると、初見じゃなくてもタイミングをミスれば死んでしまうのだ。
こんな酷い場所が時折あって、それをノーミスクリアしないと最初からやり直しとかいい加減にしろよマジで。
「せめて中間地点とかそういうのが欲しいよ……」
「話は聞かせてもらった!」
「……なんだ幻覚か」
「酷くない? 割と久々なんだからもっと反応してもよくない?」
ここにいるはずのない人物が何故か唐突に現れた。
一瞬僕の精神がおかしくなって見えだした幻か何かかと思っちゃったよ。
「なんで彰人がここにいるのさ?」
「う~ん、まあ一応仕事かな?」
首を傾げながらハッキリと言いきらず、愉快気に笑うあたり彰人らしいなと思った。
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