22話 大砲
レーザーが出て来る罠のある通路を、クロが犠牲になりながらも通り抜けた僕らの前に現れた次なる罠は大砲だった。
と言っても大砲が直にこちらに向いていて弾が発射されているわけではなく、その砲口が僕らが進もうとしている向きに向いているので、これ自体に今すぐ殺される心配はない。
近づいたら爆発したとか、そんな事もない。
問題は大砲自体に大きな矢印が書いてあるのと、僕らの進行方向が走ってジャンプしただけでは絶対に届かないほどの底の見えない大穴が空いている事だ。
「この大砲を使ってこのあからさまな大穴に対して何かしろってことだよね?」
『そうであろうな。とは言え左右の壁を蹴って移動すれば大穴を無視できなくもないであろうが、絶対そこには罠がありそうな気がするの』
「だよね。運営が用意している方法以外の方法で無理やり渡ろうとしたら、即死のトラップが用意されててもおかしくないし」
だからと言って、この大砲をどうすればいいのかはまるで見当もつかないけど。
「大砲なんだし、弾を撃てばいいのかな?」
『ふむ、じゃが大砲には弾なんぞ入っとらんし、近くにもそれらしき物はありそうにないの』
大砲にはヒントらしき矢印が書いてあるけど、こんなので何をすればいいのか察しろってのは普通無理があると思う。
『こうなったら一か八か、無理やり向こう側へと飛んでみるかの?』
「え、罠があるかもしれないって言ったばかりなのに?」
『じゃが、そう思わせる事自体が罠の可能性もある。なにせ先ほど露骨に罠らしきボタンを素通りしたら、むしろそのボタンを押さねば通れぬ仕組みであったであろう?
しかしそんな罠があったからこそ、次も置いてあるものを必ず利用せねば通れぬと錯覚させに来ておるかもしれん』
どんな心理戦だよ。
そこまでくると疑心暗鬼が行き過ぎて何も信じられなくなりそうだ。
『それに大砲を使えと言わんばかりに置いてあっても、どう使えばいいのか見当もつかん。ならば妾は己の肉体で乗り越えてみせるだけよ!』
「あ、ちょ、待って――」
『では行くぞ!』
僕がシロを止めようとしたけれど、止める間もなく床を蹴って右の壁へと足を――
『またなのかーーー!!?』
触れされることが出来ず、壁がパカリと空いてその中に吸い込まれて行ってしまった。
これは酷い。
「もう大砲以外の方法で移動させる気がないのが見え見えだよね」
シロは見当もつかないと言っていたけど、大砲に矢印が書かれているということはゲームでは稀にある。
大砲という形のせいで想像し辛いけど、ゲームでは大砲という名の移動装置なのだ。
ゲームのキャラがジャンプしても届かない距離を、大砲に入って飛ばされることで移動できるギミックである。
問題はこれが本当にそれなのかという事だ。
「違ったら大砲で飛ばされて天井に激突して死ぬんだろうなぁ」
大砲の勢いで飛ばされるのだろうから痛みは一瞬だろうけど、さすがに怖い。
というか大砲で飛ばされる時点で体が火傷で済まないダメージを負いそうなんだけど、それは大丈夫なんだろうか。
「でもやるしかないか……」
さすがにこんな大穴では[鬼神]を使って飛んでも届かないだろうし、ペナルティーでシロみたいに死んでしまう可能性がある以上仕方ない。
「とりあえず[鬼神]を使って大砲の衝撃から身を守るようにしよ」
周囲を見渡しても壁と大穴と大砲しかない以上、これで移動するしかない。
僕は覚悟を決めて大砲の中へと入ると、カチリと音がした。
なんだろうかと思っているとゴゴゴゴゴッと音がしながら大砲が真上にその向きが変わる。
マズいっ!?
なんとかこの大砲から出れないかと藻掻くも、不自然に体が固定されてピクリとも動けない。
あ、終わった。
そう思った瞬間、僕の身体は射出された。
僕の身体は天井を突き破って吹き飛ばされるも、[鬼神]で身を守っていたお陰か死なずに済んでいた。
が、まだ死んでいないだけだった。
吹き飛ばされる勢いは弱まる事なくむしろドンドン加速していき――僕は地球を脱出した。
◆
「生身で宇宙に行ってしまった」
「余裕ありそうですね先輩」
目を覚ますと先ほどのように乃亜達が僕を見下ろしていた。
「今、どうなってる?」
僕が主語を抜いて尋ねたけれど、すぐにそれが試練のことだと察したみんなが答えてくれた。
「今は蒼汰の結果を見て、咲夜さん達がまずは左の扉から移動することになったわ」
「そっちの扉は通路じゃなくて部屋だったね。扉には毒針みたいな罠は無かったよ」
「ああ。そしてそこで長いゴムの様なアイテムを入手していたな」
「……でも手に入れるためには、部屋の真ん中にあるアイテムに対して真っ直ぐ取りに行くと地雷で死ぬ」
「ですから、部屋の壁に沿って動き、ちょうど扉とアイテムの直線状にある壁まで移動してからアイテムに近づかなければいけません」
アイテムを手に入れる段階でもトラップがあるとか酷いなぁ。
そのアイテムを手に入れるまで何人死んだんだろ?
「……2人。その後咲夜がアイテムを手に入れて大砲の所までたどり着いた」
「あ、そうなんだ。じゃあ大砲にそのアイテムを使用したのかな?」
「はい。大砲のある箇所の左右の壁にフックが出ており、そこにゴムをひっかけて大砲が上に向かないよう固定。その後で大砲の中に入って大穴を飛び越えました」
僕が失敗した箇所から先に進めたわけだ。
じゃあ今のところ順調だね。
「だけど咲夜さんが飛び越えた先にはまた大砲と大穴があったのよ。仕方が無いから大砲に入ったのだけど、蒼汰と同じように宇宙に行っちゃったわね」
ゴムで固定して飛んだ先にまた大砲があるとかどうすればいいんだ……。
この試練、“強欲”と“傲慢”の2人が創ったんじゃないだろうかと思わずにはいられないよ……。
復活! ……ならず
コロナの後遺症か治り切ってないのかしらないけど、すっごくだるいです。
まあちょっとずつ書ける程度には回復したけどね。
更新が止まってしまってもいたわってくださった皆様に感謝。
そして私と同様にコロナにかかってしまった方にはよく休んで1日でも早い回復をお祈りしております。
気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。
カクヨム様にて先行で投稿しています。




