20話 〔明晰夢を歩く者〕×〔太郎坊兼光・破解〕
交代で試練に挑むことになった僕らは、早速また赤い石へと向かう。
「蒼汰君は疲れてない?」
「少しだけね。でもこの程度なら気にすることじゃないかな。咲夜は?」
「咲夜も問題ない。効くか分からないけど、いざとなれば[全体治癒]のスキルで回復するから、蒼汰君も疲れたら言ってね」
「わかった。ありがとね」
まあ今回の試練は肉体的にではなく精神的に疲弊する方なので、[全体治癒]がどこまで効くかは謎なところだけど。
そんな事を僕らは喋りながら歩いて向かうと、すぐに目的の場所に着いた。
「先輩達、わたし達は応援することしかできませんが頑張ってください!」
「咲夜さんの体は私達が見張っているから安心して欲しいわ」
「……不埒な輩が来たらすぐに分かるから大丈夫」
「何かしてほしいことがあったら言ってよ。すぐに動くから」
「うむ。私達は出来ることなどほぼないし、遠慮なく使ってほしい」
乃亜達も一緒に来ており、僕と違って体はその場に残っていしまう咲夜を守ってくれようとしていた。
それに加え、些細な事でもいいからサポートしようという気概が見えた。
確かに今回は残念ながら限られた人間しか試練に挑めないのだから、せめて少しでもいいから出来る事をしようという気持ちは分かる。
せめて〔明晰夢を歩く者〕と〔太郎坊兼光・破解〕の組み合わせが、単純な能力の拡張で自分以外の人も対象の精神に侵入できるようになればみんなにも一緒に試練を挑んでもらえたのだけど、そう都合のいい能力ではなかったし。
あ、でも今なら都合がいいか。
「〔明晰夢を歩く者〕、〔太郎坊兼光・破解〕」
「何をするんですか先輩?」
「せっかくだから他の人の確認でもしようかと思って」
ただ見るだけだからほぼ使えない能力かと思って忘れていたけれど、よくよく考えたらこういうところで役に立つか。
毛のない書道筆に真っ黒なウイッグを近づけると、それは光りながら小さく収縮していき筆に集まって毛に変化する。
何故か黒かったはずのウイッグから、筆の毛になった時は金色に変化しているけど、アリス要素を主張するためだろうか?
大概僕の【典正装備】は〔太郎坊兼光・破解〕を使うと白か黒ばかりなので新鮮である。
ちなみに〔緊縛こそ我が人生〕はどピンクだ。理由は言わずもがな。
さてそんな事はさておき、僕は赤い石へと近づいて空中に筆で丸を描いた。
墨などのインクが無くとも白い丸が描かれたそこには、僕らが先ほど見ていた光景が徐々にハッキリと見えだす。
そこにはあのイキってた男の人が、大食いチャレンジのごとく大量の皿を自分の近くに寄せて貪り食っている姿だった。
「さすがに音声はなくて見ることしか出来ないけど、伝聞だけでなく映像でも見れる方がいいよね。
それに起きるまで待たないと罠の情報が分からないのも困るだろうし」
〔明晰夢を歩く者〕と〔太郎坊兼光・破解〕を組み合わせた場合、その効果は精神世界に入らずに中の様子を覗き見できる〝窓〟を創れるというもの。
あまりにも微妙な効果で使う機会などないと思っていただけに、まさか使う事になるとはと思わずにはいられなかった。
僕はそんな事を思いながらいくつか丸を描いていく。
その結果――
「……なんか大食い大会のテレビ中継みたいになってしまった」
7個ほど丸を描いたけど、そのどれもが料理を貪り食っているものであり、まるで緊張感のない絵面になってしまった。
とりあえずもう何個か描いておいて、中に入った人の様子が見れるようにしておこう。
追加で描いた丸には何も映っていないのが出てきたので、これでこの中に新たに入った人の様子が見れるようになるはず。
どのくらいこの状況を維持できるか分からないけど、赤い石を対象としているので、何かしらの抵抗がなければ半日は持つはず。
「中の様子を見れるようにしたから、これで第二の試練でどこにどんな罠があるのか報告しておいてほしいんだけどいいかな?」
「分かりました。先輩の創った〝窓〟についても報告しておきますので、気にせずに中へと入ってください」
「うん、ありがとう」
僕は〔太郎坊兼光・破解〕を解除して、黒のウイッグである〔明晰夢を歩く者〕を手元に再出現させると、早速それを頭に被った。
〔太郎坊兼光・破解〕を使った割に地味な能力なせいか、その分一度〝窓〟を設置すると僕が傍にいなかったり、〔明晰夢を歩く者〕と組み合わせていない状態であっても精神世界を覗き見出来る〝窓〟はその場に残り続ける点は悪くないよね。
「それじゃあまた行きますか。まず僕から行くよ。咲夜や他の人達は僕の結果を見てからどこにどんな罠があるか把握してから来てほしい」
「うん、分かった。頑張って、ね」
咲夜に応援された僕は赤い石へと触れ、僕らは再び精神世界へと侵入した。
◆
内心薄々思っていた。
ここは精神世界であっても現実であり、ゲームとは違うと言う事を。
つまり何が言いたいかと言うと――
「また第一の試練からなのかーー!」
目の前には大量の料理が並んでおり、100皿食べたら次の試練と書かれた看板が無慈悲にあった。
ゲームであればセーブ地点からやり直しできるから、死に覚えゲーでもある程度の時間でクリアできるだろう。
だけどセーブ縛りを強制される上に100皿の試練からとなると、一体いつになったら試練をクリアできるのか頭を抱えずにはいられなかった。




