15話 飯テロ
あまりにもシンプルな試練内容に唖然としながらも、シンプルすぎて逆にそれしかすることを許されないせいで、目の前にある大量の料理を食べるしかないと結論を出すのにそう時間を要しなかった。
「あ、そうだ。クロ、シロ、出てきてくれない?」
僕はスキルのスマホを取り出すと、クロとシロに呼びかけた。
『何の用か、などと言わなくても分かっている』
『うむ。妾達も一緒にこれらの料理を食らえばよいのであろう?』
「話が早くて助かるよ」
精神世界のためいつもの球体姿ではなく、虎人と龍人姿のクロとシロがスマホから出て僕の前に現れた。
話が早いのはどうやら僕のことを見ていてくれていたからのようだ。
前シロが【白虎】の時に助けてくれた時のように、僕をいつでも手助けできるようにしていてくれたのだろう。
「100皿も料理を食べるのは大変だけど、1口サイズの料理が乗ってる皿もあるから余裕かな?」
1人でも十分クリアできそうではある。
ただそのせいで、3人で100皿でもいいのかが分からないところが困るところだ。
それに1人でもクリアできそうなところが、どう見ても罠にしか思えないのは気のせいだろうか?
しかしどんな罠があるか分からない以上、念には念を入れた方がいいだろう。
「とりあえずシロは食べないで、まずは僕とクロだけで100皿目指してみようか」
2人で100皿でもいいことを前提に、1人は食べずにいることで罠を避ける試みだ。
ただそれにシロが待ったをかけた。
『待つのじゃ主様よ。妾が女だからと気遣ってるのかもしれぬが、主様が死ねば元も子もないのだから、ここは妾とクロで100皿食べるべきであろう』
『そうだな。主が倒れれば我らも共倒れなのだから、それが一番よかろう』
2人はそう言うと、早速机の傍にあった椅子へと座って手近な料理を手に取った。
『ふむ、中々美味そうではあるな』
『いくらなんでも試練というのであれば、いきなり毒が仕込まれていることはないだろう。よし、食べるか』
シロとクロは一口サイズのステーキを手元にあったフォークを使ってパクリと食べる。
『『うまっ……!?』』
2人が目を見開いて驚いてるけど、そんなに驚くほど美味しいの?
うわっ、ちょっと気になるなぁ。
少し食べてみたいけど、さすがに2人がわざわざ体を張って食べてくれているのに、それを台無しにするわけにもいかないから、ここはグッと我慢しないと。
『おおっ、すごいなこの肉。こんなにも柔らかくて蕩けるような舌触りは初めてだ』
『うむ。それにかかっているソースも肉の味を最大限に引き出していてとても美味じゃ。
妾達の元いた世界の食文化がこちらの世界に劣っていたとは思わぬが、こんなにも美味しい料理は初めてだの』
なにそれ食べたい。
ううっ、ちょっと羨ましいなぁ。
『ほうっ、こっちのポタージュはグリーンピースで作られてるのか。だが青臭さは感じぬし、やさしい味わいが何とも言えぬな』
『おお! ケーキまで用意してあるとは嬉しい限りじゃの。ん~、ふんわりしっとりしていて、いくらでも食べられそうじゃ!』
え、なんで僕ここで飯テロ受けてんの?
こんな大絶賛している料理を前にしてただ見ているだけとか、もう拷問じゃん!?
体を張ってくれてるはずの2人が羨ましくてたまらなく思うのは、2人が次から次へと皿を取ってバクバクと料理をおいしそうに平らげているからだろう。
「なんだか試練って感じがまるでしないなぁ」
『『うっ……』』
ただ2人を羨ましそうにぼんやりと見ているしかなく、試練という感じがしないことを不思議に思っていたら2人が突然呻いた。
「どうしたの2人とも?」
『いや、問題ない』
『そうだの。少々イラつきを感じただけじゃ』
それって【玄武】の時の地面に生えていた果実や昨日夢で見たものを食べたのと同じってこと?
「本当に大丈夫なの? 夢で見た時は果実を何個も食べたら、ニクイニクイと頭に響いて仕方なかったんだけど」
『それはないな。ただイラっときた程度で、次の美味い料理を食べたらすぐにそんな気持ちも晴れた』
『だがこれはある意味罠かもしれぬな。イラつきを抑えたくて、思わず次から次へと料理を平らげたくなってしまう』
そう言いながらもクロとシロは料理を食べる手を止めなかった。
100皿食べるだけでいいから出来る限り量の少ない料理を選べばいいのに、ついには大皿の料理にまで手を出し始めた。
「ちょっ、そんな量の多い皿を食べなくてもいいでしょ?!」
『いや、すまぬ。だがまだ食べたことのない料理であるし、何よりこの空間内では精神世界のせいか腹がどうやら膨れぬようなのだ』
「え、そうなの?」
『うむ。であるから妾達の胃の心配は不要であるぞ』
「それはそれで心配だったけど、わざわざ食べるのに時間のかかるものじゃなくてもいいよね?」
クロ同様、シロもタワーケーキのような大きな料理に手を出し始めていた。
後ろから声をかけて止めようとしているのだけど、2人はまるで静止してくれない。
『こんなにも食べていて腹が膨れぬのは不思議だが、いくらでも食えるのは悪くないな』
『は~、やっぱりイライラした時には食べるのが一番いいストレスの解消方法じゃの』
「現実なら確実に太るストレス解消法だよ」
この試練が夢の中で本当に良かった。
もしもこれが現実なら、胃は間違いなく破裂する量を食べているのだから。
とりあえず2人が50皿ずつ食べて次の試練に行けるようだったら、強制的に止めることにしよう。
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