7話 総攻撃……あれ?
「ヒュー、なんてクレイジーなやつらだ! ここはいつからカップルの聖地になったんだい?」
「オレも今すぐ帰って彼女と熱烈なキスをしたくなったよ。恋人なんて出来た事ないけどね」
「おい! 誰かあいつらにここは海辺でもホテルでもなく戦場だということを教えてやれよ!」
言語を習得できる使い捨ての魔道具はイギリスの時に使用済みなので、たとえ相手が英語で喋っていても何を言っているのか完璧に分かってしまう悲しさ。
スキルなんだからしょうがないじゃないか!
そう大声で言ったところで皮肉交じりのアメリカンな言い回しが飛んでくるだけだから、黙っているしかないか。
「最初から思い切っていきますよ」
「[獣化]は……使わなくてもいいわよね?」
「咲夜も〝臨界〟はいい、かな? でも[鬼神]を全力でいく」
「……〔53枚の理解不能な力添え〕。スペード、ダイヤ、ハート、ダイヤ、クラブ――」
「[デウス・エクス・マキナ]起動。派生スキル[アームズオーダー][レッグオーダー]。そして〈解放〉」
当初の予定通り乃亜達が真っ先に【玄武】へと向かって行く。
そんなみんなを僕は[画面の向こう側]の異空間に退避して見守っている。
僕は安全な場所にいるけど、もし【玄武】がヤバそうなスキルを発動しそうになった時などは、すぐに外に出て何かしらのスキルや【典正装備】を使うつもりだ。
『行くのですよパパ!』
『うむ。生身、と言うのはおかしいのだろうが、久々に己の肉体で戦えるのは滾るな!』
少し心配なのがアヤメ達だ。
アヤメは〔宿主なき石の形代〕を出し、それをクロに操らせて戦いに向かっている。
〔宿主なき石の形代〕って別に特殊なスキルはないし、憑依しているクロはスキルが使えるわけでもないから、あの硬そうな【玄武】相手にどれだけ戦えるのだろうか?
それに乃亜達と違って〔宿主なき石の形代〕は[損傷衣転]の対象外だから、ダメージは肩代わりなんて効かない……そう言えばアヤメって[損傷衣転]の対象内なんだろうか?
今までアヤメがダメージなんて受けたことないし。
まあ〔曖昧な羽織〕があるから大丈夫か。それよりも――
「……石像が走っているのって、学校の人体模型が動いてるのと同じホラー感あるなぁ」
「先輩の言わんとすることは分かりますが、今は【玄武】に集中してください」
「了解」
〔宿主なき石の形代〕に不気味さを覚えつつも、乃亜の言う通り今は目の前の【玄武】に集中しないと。
乃亜達が目と鼻の先まで【玄武】に近づいており、周囲の冒険者達が攻撃しているのが間近で捉えられた。
まずは四肢を潰そうと【玄武】の脚を優先して攻撃しており、凄まじいの一言に尽きる。
「前に【織田信長】の時、【上杉謙信】と戦っていた亮さん並みの人達ばかりだね」
日本で僕以外にもう1人いる金の紋章持ちである風間亮さん。
あの人の戦闘力は凄まじく、【上杉謙信】と戦っていた時の姿は目で追いつかないほどだった。
あの頃よりも僕のレベルが上がってるからか、今は目が追い付くけどそのレベルの実力者が一斉に【玄武】に攻撃している。
当然亮さんもこの場におり、僕らとは離れた場所で【玄武】と戦っていた。
「はあっ!!」
そんな実力者たちと共に戦っているにも拘らず、見劣りしない乃亜達。
いや、むしろ咲夜は上回っていると言ってもおかしくないかった。
やっぱり[鬼神]は強いなぁ。
体力の問題があるけど僕が回復させられるし、咲夜自身でも回復できるからいきなり全力で使ってもその心配がないのは大きい。
僕らだけではないという安心感も相まって、【玄武】相手だけど少し心に余裕を持って見ていられるよ。
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おかしくないかな?
あれから十数分ここにいる冒険者達全員で一斉に攻撃を仕掛けていた。
そのため【玄武】の四肢は血まみれになっており、もはや立っていられなくなったのか腹の甲羅を地面につけている。
だけど反撃は一切してこなかった。
唯一、謎の果実が地面から生え、それに近づいてしまった冒険者が食べて暴走してしまうことはあったけど、せいぜいその程度。
しかしそれは【玄武】に攻撃を仕掛ける前からのため、実質【玄武】は攻撃を受けているにも拘らず無抵抗なのだ。
脚だって亀みたいな見た目しているのだから、甲羅の中に引っ込めることだって出来そうなのにそれすらしない。
一体【玄武】、いや“暴食”の魔女は何を考えているんだ?
全くもって分からなかったが、僕らは手を止める訳にはいかなかった。
何故反撃しないのか分からないけど、ここで【玄武】を倒さないとあの果実はアメリカ全土を覆い、人が住めない土地へと変貌してしまう。
おかしいと思っても僕らは【玄武】を倒すために行動するしかなかった。
『『ア゛ア゛ア゛ッ!!』』
最後の最後まで【玄武】は一切抵抗をしないまま、甲羅から出ていた亀の頭と蛇の頭を切断され倒されてしまった。
「え、これで終わり……?」
あの【魔女が紡ぐ物語】がこれで終わるはずがない。
そう思い警戒していたけれど、【玄武】の身体は光の粒子となって散って完全に消えた後、咲夜の目の前に宝箱が1つ現れていた。
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