4話 早速戦闘開始
“暴食”の魔女が何を考えてあんな事をしているのか分からないまま、僕らは【玄武】の討伐に動くことになった。
放置していたら人を暴走させる果物が生える範囲が増えるだけだから、悠長に目的なんて調べている余裕はないからね。
『我が国に出現した【四天王】討伐に参戦してくれることに多大なる感謝と敬意を。総員、攻撃開始!!』
この場を指揮する人の拡声器を使った号令と共に僕らは行動を開始した。
「それじゃあやろうか冬乃」
「分かったわ」
さすがに色々な国からの寄せ集めであるため、複雑な命令はされていない。
やることはシンプル。
第一段階、遠距離攻撃で周囲の果物を吹き飛ばす。
第二段階、近づいて攻撃。
以上だ。
作戦としては異常かもしれないけど、僕ら冒険者はパーティーだけで行動するのが基本のため、いきなり集団で高度な連携を求められても応じられない。
だから中国ロシアの迷宮氾濫の時や日本で【四天王】と戦った時のように、簡単な命令で後は各々臨機応変な対応で行動する方がいいのだ。
「冬乃、[メンテナンス]が明けるまであと10秒」
「オッケー。[複尾][空狐]。そして〔業火を育む薪炭〕に〔溶けた雫は素肌を伝う〕っと」
冬乃の尻尾が6本に増えてふっさふさになり、[空狐]の使用で髪や尻尾が薄く銀色に発光する。
イギリスの迷宮氾濫によりさらにレベルの上がった冬乃は、尻尾の数が6本に増えていた。
イギリスに行く前は4本であったことを考えると、一気に2本も増えているから驚きだ。
やはりドラゴン相手だと経験値が多く、レベルの上り幅も大きかったんだろう。
レベル410から460と50もレベルが上がっているので、どれだけドラゴンを倒したらそうなるのかと問いたいところ。
そんな超絶強化された冬乃の攻撃力をさらに増すために、僕の[メンテナンス]が役に立つ。
[メンテナンス]は相手のスキルを5分間封印するのだけど、封印解放後にスキルが一時的に一段階強化されるという効果がある。
それによって冬乃の[狐火]を強化して、できるだけ多くの果物を吹き飛ばしてしまおうという腹積もりだ。
ちなみに[メンテナンス]は重ね掛けできないので、[メンテナンス]が明けたら[メンテナンス]が始まるということは断じてない。絶対にない。
大事な事だから二度言うが、メンテ明けにメンテが始まるという悲劇は僕のスキルでは起こらない。
ようやくゲームが出来ると思ったらまた出来ないのは酷いと思うんだ。
不思議ともう慣れて、ああまたか、しか思わなくなってきたあたり訓練されてきたと思うけど。
「冬乃、[メンテナンス]が明けたよ」
冬乃には遠距離攻撃の威力を25%上昇する新人用巫女服を着てもらっていて、もう準備は万全だ。
周囲の人達も冬乃の恰好とかが気になるようで、遠距離攻撃しながらチラチラとこちらの様子をうかがっているが、もういつもの事なので気にしない。
こんな場でコスプレしているとか思われるのは今更だ。
「こんなにも強化した一撃を放つのは初めてね。それじゃあ行くわよ。〈解放〉!」
〔籠の中に囚われし焔〕の先端から放たれたのは青白い炎。
いつもの赤い炎ではなく、明らかに強化されたと思わしきソフトボール大の青白い炎が高速で【玄武】に向かって射出された。
どれほどの威力になるか分からなかったため、一先ず【玄武】の近くに着弾するように射出したわけだ。が、この判断は間違いじゃなかった。
――ドゴーンッ!!
放たれた炎は狙い通り【玄武】の近くに着弾したのだけど、着弾した箇所の地面がガラス化しているのが遠くから見て分かるほどの広範囲で被害をもたらしていた。
正直ここまでの威力になるとは思わなかったのでドン引きです。
「うわぁ。やっちゃったねフユノ」
「何でやらかした発言したのソフィさん!? 私は言われた通り遠距離から攻撃しただけなのに!」
「……ソフィ。その冗談は酷い」
「まあ地形が変わる程度の被害程度ならこの国も許容しているだろうし、そもそもそんな事気にしている場合ではないだろう」
ソフィからはしごを外されたような発言に冬乃は目を見開くも、オリヴィアさんにフォローされてホッとしていた。
思ったよりもすごい威力にビビるね。
これをもし狭い通路なんかで使ったら確実に巻き添えくらって死にかねないなぁ。
ただ、今はその威力が大変にありがたい。
地面がガラス化し、〔溶けた雫は素肌を伝う〕の効果か今もなお地面が燃えているため新しい果物は生えてこない。
他の冒険者達が果物を吹き飛ばしてもある程度したら草が生え、徐々に成長して実が出来ているので生半可な威力では果物を一掃することは出来ないだろう。
「冬乃、【典正装備】の制限時間までにできるだけ多く果物を燃やし尽くしちゃおう」
「え、大丈夫? あとで賠償請求とかされないわよね?」
「ゴメンフユノ! さっきのホント冗談だから思い切ってやっちゃって!」
ソフィが叫ぶように謝りながら冬乃にお願いしていた。
冬乃の攻撃が効果覿面なのは見て分かる通りだし、時間内にどれだけ多く燃やせるかが勝負だからその反応も当然か。
僕は急いでスキルのスマホを操作し、〔籠の中に囚われし焔〕を再召喚して第二射の準備を整えた。




