1話 アメリカに移動
≪蒼汰SIDE≫
魔女達の機嫌を存分に取らされた僕ら(ほぼ僕だけだったような?)は、精神的疲労を癒す間もなくアメリカへと飛行機で移動することになった。
「最後の【四天王】は随分厄介な事をするね。お陰で軍も冒険者達も大半がやられてしまったみたいだよ。他国よりも質のいい冒険者が多いって話だったけど、そうでもなかったのかな?」
「自分の国のことなのにソフィは随分と他人事のように言うね」
「別にそんなつもりじゃないけど、正直今まで兄のことばかり気にしてたから、他の冒険者がどれほどのものかなんて気にした事なかったんだよ」
その気持ちは分からなくもない。
僕だって日本の冒険者の実力が他の国に比べてどの程度なのか、全く興味がなくて調べたこともないし。
そんな事より課金できるようになるのが重要なんだよ!
前回、“嫉妬”の魔女と戦ったことでついにスキルスロットが増えたんだ。
つまり、これで忌々しき[無課金]の成長は最終派生スキルを残すだけだ!
後1つか2つスキルスロットの空きが増えれば最終派生スキルを手に入れられ、[無課金]を無効に出来ると思うと喜びを禁じ得ない。
長かったよ本当に……。
「……無課金生活が長かったと言っても1年も経っていない。
あと、たったそれだけの期間でレベルを450も上げてるのは異常」
半年はソシャゲに課金できてないんだよ!?
相当の苦行を僕は強いられていると言っても過言じゃないのに。
レベルに関しては別に好きで一気にレベル上げしたわけじゃないから何とも言えないね。
なんか事あるごとに【魔女が紡ぐ物語】と遭遇するせいで、意図せずレベルが上がっただけで好き好んでやったわけじゃないし。
まあそのお陰で、[無課金]の最終派生スキルまであと少しで到達しそうだから結果オーライだけど。
「レベルは意図せずして上がっただけだけどね。……今回みたいな感じで。もう勘弁して欲しいよ」
「そう言い続けてこれで何度目でしょうか?」
「覚えてないけど三度目の正直はとっくにすぎてる気がするかな」
乃亜に言われて改めて振り返ると事あるごとにこのセリフを言っている気がしないでもない。
でもまだ【四天王】1人と【魔王】がいる事を考えると、少なくともあと1回は言う事になるんだろうか?
僕としては課金できるようになるためにレベルが上がればいいんだけど、【魔王】は相手したくないな。死んだら元も子もないし。
「話は戻すけど、アメリカの冒険者ってそんなに弱くないわよね? 軍事力だって日本とは比べものにならないでしょうし、【四天王】の1人くらい倒せなかったのかしら?」
「フユノの言いたいことは分かるよ。でも聞かされた話じゃ、変な果物が生えてきてそれを食べて暴走してるんだから、正直どれだけ力があっても関係ない気はするよね」
ソフィは肩をすくめてどうしようもないといった雰囲気を出していた。
まあ確かに対策なんて立てていない状態で、そんな初見殺しみたいな事されたらどうしようもないか。
「その誘引する果物を食べるとおかしくなるなら、冬乃ちゃんが燃やし尽くせばいいの、かな?」
「サクヤの言う通りだけど、それは一時的にしか効果ないみたい。しばらくしたらすぐにまた生えるから、継続して燃やし続けないといけないんだけど出来る?」
「無茶言わないで欲しいわね……。燃やす範囲にもよるけど【典正装備】を全て使わないといけないなら5分が限界よ?」
5分しかないと考えると【玄武】相手にはきつそうな気がする。
もう名前からして硬そうなイメージしかなく、防御に秀でている相手だろうからそんな短い時間では倒せそうにない。
というかそれが出来るのであれば、わざわざ僕らがいかなくてもとっくに倒されているはずだし。
「それなら結界かその誘因を無効にするしかないか。私の[聖騎士]の派生スキル、[ホーリーエンチャント]であれば自分だけなら状態異常を無効にできるが効くだろうか?」
果物が魅了の状態異常を起こしていて、食べると混乱の状態異常となってしまうのであれば、どっちにしろ有効ではありそうだ。
ただ魅了の状態異常対策と言うのは簡単だけど、ほとんどの冒険者はそんなスキルもってないし僕だってない。
というか、スキルが[ソシャゲ・無課金]と[ダンジョン操作権限(1/4)]しか持ってないからあらゆる状態異常に対する対策などあるはずもない。
今更だけど僕、というか僕らの弱点って状態異常じゃないかな?
ユニークスキルやデメリットスキルを持っているせいでスキルスロットの空きが全然なく、そう言った対策を取る余裕がほぼないし。
もし状態異常になったら冬乃の[天気雨]か咲夜の[状態異常五種回復]という回復手段は一応あるけど、今回の場合それが効くかは謎だ。
「スキルに頼れないならあとは【典正装備】しかないけど、都合よく味方にまで状態異常から守れるようなのは誰も持っていないしなぁ」
『世の中そう都合よくはないのですよ。そもそも【典正装備】なんて持ってる人の方がマレなのですから、それに頼れる冒険者はほとんどいないと思うのです』
アヤメはそう言うけど、“嫉妬”の魔女との戦いで手に入れたのを合計するとアヤメは5つも持ってるよね?
割と便利そうな【典正装備】だったよね。




