エピローグ1
≪アメリカ大統領SIDE≫
「イギリスの迷宮氾濫は解決し、その上そのダンジョンに逃げ込んでいた【四天王】まで倒されたようです」
「そうか。討伐されてしまったか……」
秘書からの報告にため息が出る。
「くっ、まだ事態が収束しなければ良かったものの」
「大統領。そのような事は公の場では……」
「分かっている。だが今この場には私と君しかいないのだから言わせたまえよ」
人類全体の観点から言えば【四天王】の討伐はありがたい話であるが、ステイツからしてみれば無念でならない。
なにせ最後の【四天王】は我が国のダンジョンの1つに居座っていることが探知系の【典正装備】の力で判明しているのだから。
「我が国の威信をかけて、何としてでも【四天王】を他国の力を借りずとも討伐したかったのだがな。イギリスの【四天王】討伐にまだ時間がかかっていれば我が国の精鋭達だけで挑み続けられたというのに……」
「ですが大統領。もう【四天王】は3体倒されており【魔王】が宣告した期日も近い今、そんな事を言っている場合ではないかと」
「分かっているさ」
大国としてのプライドがある。
だがさすがに未だ討伐できていないうえに期日まで時間がない以上、これ以上我が国だけで挑んで討伐できなければ諸外国からの謗りを免れないだろう。
それ故に渋々ではあったが他国への協力要請はすでに行っており、イギリスで活躍していた者達もそうでない者達もステイツへと向かう事になるだろう。
「しかし我が国だけでなく、他国の冒険者達の力を借りたところで【四天王】の元に辿り着けますかね?」
「辿り着いてもらわねば困るよ。それがたとえ我が国に巣食うSランクダンジョン、〔スライムのダンジョン〕の中にいるとしてもな」
「ゲームの中では最弱の種族なんですけどね……」
「ああ全くだよ。あのクソッタレ共に物理攻撃はほとんど効かないのだから、どこが最弱なのかと言いたいさ」
【四天王】を討伐する以前の問題、魔物の中でも上位に位置するスライムを掻い潜らなければ【四天王】に遭遇することもできないのだから堪ったものじゃない。
≪憤怒の魔女:アグネスSIDE≫
『サラ姉様がやられてしまったか……』
ワシはサラ姉様に与えた【四天王】が今しがた消失したのを感じてため息をつく。
(【青龍】と【白虎】がやられた時は何も言わなかったのに、与えた力をふざけた結界に消費していたあの者に対しては怒りも呆れもせずに嘆くだけとは)
ワシの中のもう1人の【魔王】がワシに意外そうに問いかけてきた。
『当然じゃ。サラ姉様はワシの姉ぞ? 倒されてしまったことに怒ることはあれど、サラ姉様自身に対する怒りなど欠片も湧かぬわ。
そもそもサラ姉様であれば膨大なリソースを渡せばあの手の事をしでかす事くらい予想できておったよ』
(分かってて与えたのか……。力を与えない方が良かったのではないか?)
『それは無理じゃな。そもそも【四天王】』であるから、必ず4人に力を与えねば成立せぬ。
じゃがその辺の人間に力を与えるなど虫唾が走るし、かといって姉様達で力を貸与できたのが“嫉妬”の魔女と“暴食の魔女”だけじゃったからの。
他の姉様達がワシとの繋がりが薄くなってしまっておるとは予想外じゃった。
たまたま見つけた異世界の魂を封じられた石でもなければ【四天王】を与えるのに難儀しておったじゃろう』
“色欲”の魔女は元からワシの“憤怒”の影響を受けないように繋がりを絶たれていたが、他の姉様達は違う。
“怠惰”、“強欲”、“傲慢”の3人がまさか人間にやられているなどとは想像もしていなかった。
というか、昔と違って膨大な力を使えるあの3人を倒せる人間がいるのがビックリなんじゃが?
憤怒の力で怠惰は相殺できるから“怠惰”は何とかなると思うんじゃが、“強欲”、“傲慢”はワシじゃ無理じゃよ。
え、本当にどうやって倒したの? アグネスじゃあのお姉ちゃん達にはとてもじゃないけど敵わな――んん゛っ。ま、まあよい。
それよりも問題は【四天王】がついに最後の1人になってしまった事じゃ。
『3カ月以内に4人の【四天王】全てを倒すとか、無理じゃろうと思っとったんじゃけどの』
(ギリギリ全員倒されてしまいそうだな。だが問題ないのだろう?)
『まあの』
仮に期限内に全ての【四天王】を倒されたところで、残りの期限でワシらのところに辿り着くのはまず無理じゃろう。
唯一辿り着く方法に気づいたところで、今の人類では国だ利権だなんだとくだらない言い争いをして時間切れになるのは間違いない。
もっともワシが何もすることなく“暴食の魔女”がきっかけとなって全てが滅びそうじゃがな。
ビディ姉様が直接人に害をなそうというわけではない。
むしろ今まではその逆で、結果論ではあるが人を守っておった。
エバ姉様も頑張っておるが、姉様達やワシらまで含めてもっとも助けてくれておるのはビディ姉様じゃ。
だがその方法がの……。
もう限界が来ておるし、ビディ姉様も延命行為でしかないと分かっておるだろうに……。
『我が姉ながら無茶をするの。ビディ姉様』
〈暴食の魔女:ビディSIDE〉
『……モグモグモグ。………………うっぷ。……はぁはぁ、モグモグモグ』
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




