38話 試練の内情
【モルガン・ル・フェ】
アーサー王の異父姉で邪悪な魔女とアーサー王伝説では語られている人物。
ランスロットの妻となるペレス王の娘エレイン姫の美しさを妬んだりと、嫉妬にまつわる話も多い。
アーサー王伝説では聖剣や魔法の鞘を盗んだりと色々しているが、「冗談でやったこと」「悪魔にそそのかされたの。許しておくれ」と言うだけで何故かすんなり信じられてしまう話もあるので、道中サラの言う事を不自然に信じてしまったのもこのせいだろう。
“嫉妬”の魔女であるサラと邪悪な魔女と語られる【モルガン・ル・フェ】は、魔女や嫉妬繋がりで親和性が高い事からこのキャラクターを【魔女が紡ぐ物語】にしたとしてもおかしくないな。
『この試練まで到達することができたのはあなた達が初めてよ。
今まで試練に挑戦していった人間達は、ほとんどがコピー人間との決闘に破れ、それをなんとかクリア出来ても“カムランの戦い”で全員が武具を運びきれず途中で挫折していったわ』
コピー人間との決闘も割とえげつなかったけど、それよりもあんな呪いの武具を持ち運ぶなんて普通無理だよ。
オリヴィアさんに抱きしめられたから耐えられただけで、1人だったら間違いなく詰んでいた。
『もっとも、その人達がたとえ全ての武具を運んでモルドレッドを倒したとしても、ここまでたどり着けなかったのだけど』
「なんだと?」
オリヴィアさんが怪訝な表情を浮かべてサラを睨む。
あれだけ過酷な試練をやらせておいて、さすがにそれはないだろうと言いたい気持ちはよく分かるよ。
「あの試練はクリアした後すぐに次の試練へといける扉が出てきたから、ここに来れないはずはないだろ」
『フヒッ、それは間違いよ。
さっきも言ったでしょ。「アーサーであることを決定づけるため」って。
有名な話だったからわざわざ挑戦者たちにある事を示さなくても、これらの試練を構築するのに必要なリソースがさほど増えなかったから何も示さなかったわ』
今までの試練で分かりやすくアーサー王伝説だと示していることが最大のヒントになっているから、分からない方が問題だとサラは笑いながらそう付け加えた。
『ある事というのはそれほど難しいことじゃないわ。
最後の試練に辿り着くためには“カムランの戦い”を乗り越えないといけない。
だけどその戦いの前には既にアーサー王は魔法の鞘を失っているはずなのに、そんな物を持ってモルドレッドを倒したところで話の再現には至らないわ。
つまり石像のあった試練の場所で石像になっている人達を救う救わない関係なく、魔法の鞘を捨てなければいけなかったのよ』
あの時魔法の鞘を失って後悔していたけれど、まさかそれが正解だなんて思いもよらなかった。
確かにアーサー王はカムランの戦いで深手を負い息絶えることになるのだから、魔法の鞘を持っているのはおかしいと分かる。
でもあんな状況でそこまで考えるのは難しいよ。
特に傷を癒してくれる魔法の鞘を手放すだなんて、その決断を出来る人間はそういないだろう。
『だからもしも魔法の鞘を持っている状態でモルドレッドを倒してしまった場合、また石像の試練の場所へと続く扉が現れて、そこからやり直しになっていたわ。
もちろん、“カムランの戦い”も当然やり直しね』
な、なんて恐ろしい事を言うんだ……。
もしもオリヴィアさんが石像になった人達を救いたいと願わず、魔法の鞘を所持したまま次の試練に向かったら、また武具の呪いに耐える試練をやり直さなければいけなかっただなんて。
そんなの想像しただけでもゾッとするよ。
『そうして苦難を乗り越えたあなた達への最後の試練はわたしとのガチバトルよ。
あなた達が乗り越えてきた試練なんて所詮ただのお遊びだったことを思い知ると良いわ』
あれがただの遊びというのならもう訴訟もんよ?
変な嫉妬心植え付けてくるとか裁判もんよ?
『最初から全力で行くわ。全力で抗ってみせなさい!』
「鹿島先輩は控えていてくれ! 私が行く!」
「了解。[画面の向こう側]」
僕はすぐさま異空間へと退避するけれど、ただここでジッと様子を見ているつもりはない。
いざとなればすぐさま[画面の向こう側]を解除して、援護できそうなら援護していくつもりだ。
『来なさい』
サラがそう一言発しただけで、その場に2本の矛槍に灰色のマントが現れた。
一気にラスボス感増したな――って言ってる場合じゃない。
画面ごしでも伝わってくる威圧感は【魔女が紡ぐ物語】の名に相応しく、実質まともに戦えるのがオリヴィアさんだけであることを考えると、かなりマズイ。
「[フィジカルアップ][シールドコート][ホーリーエンチャント]! そして〈解放〉」
オリヴィアさんもすぐに臨戦態勢に入り、[聖騎士]の派生スキルを3つ使用しているけど、その程度で埋まる差ではないことは明白だ。
【典正装備】である〔仮初の兎の紋章〕も使用して身体強化しているけど、果たしてその差がどれだけ埋まることやら。
そもそも【魔女が紡ぐ物語】相手に小人数で挑むこと自体が間違っている。
ただ、サラは【魔女が紡ぐ物語】の力を分散させて展開しているようなので、通常の【魔女が紡ぐ物語】よりは弱いはずだから何とかなると思いたいのだけど……。
前に“色欲”の魔女であるエバノラやその使い魔で黒猫であるアンリから、【魔女が紡ぐ物語】は提示されたお題をこなす環境タイプか、魔物を相手どるのと同じようにその力を発揮するボスタイプがいると聞いている。
今回のこれはそのどちらの性質も持つことから、ハイブリッドタイプなのは間違いなく【アリス】、もとい【Sくん】と似た敵だと言っていいはず。
違いがあるとすれば、【Sくん】は“強欲”と“傲慢”の魔女が創ったため2体分の【魔女が紡ぐ物語】だったのに対し、今回は1体分の【魔女が紡ぐ物語】になっていると明言しているので、あの時のボス戦ほど強くはないということ。
勝ち目は薄いが勝てなくはないはずだ。
限りなく勝率は低いがやるしかない!




